王の死
バン!と大きな音を立てて、ラースが建物にぶつかる。
「いてっ······いや、実際痛くないけど。すり抜けがまだ慣れないな」
建物にぶつかった事で、アーサーを見失う。
周りを見渡すが、自分の周りにある雲と雨以外アーサーに関わる物は何も無い。
「逃げて何をしたいんだ?不意打ちも成長した俺には無意味だって言うのに」
仕方なく、空中に留まる。
だが、数分後アーサーがラースの目の前に姿を現す。
「安心しなよ、鬼ごっこの役割は交代だ·······俺が鬼をやる」
雲に乗って来たアーサーは、余裕の表情を見せた。
「そうか、なら捕まえてみろ」
「捕まえる?先に豆まきだろうが」
アーサーはそう言い、思いっきり何か黒い物を投げた。
(アホか?どんな魔法も道具も俺に触れる事が出来ないのは理解してるだろう······)
しかし、アーサーが投げた黒い物は、ラースの胸を貫いた。
胸からは大量に血が吹き出し、ラースは驚愕する。
「バカな?磁力で常に守られている俺の体を······一体何を?」
ラースは、胸の中から黒い何かを取り出し、観察するように見た。
「これは?まさか······磁石か!?磁石で出来た鉄球か!?」
「その通り、例えばお前がS極なら受ける魔法や物は同じS極になる。だが、磁石は元々磁力を持っている·····つまり、S極だったはずの鉄球はN極になる!くっ付く磁力になるのだ!」
ラースは思わぬ出来事を目の前に、動揺した表情を浮かべ、血を吐いた。
「回復魔法······」
胸の傷から垂れていた血は、回復魔法により止血される。
だが、胸には穴が空いたままだ。
「磁力魔法·······」
しかし、胸に空いた穴を塞ぐように、散らばった肉片が集まる。
「ちっ、弱点ってのは意外な事が多いな······まさか貴様相手に集中して戦わなくてはいけないとはな」
「お前が集中するのは地獄で苦痛に耐える時だけだ······決して今ではない」
アーサーはもう1個、ポケットから鉄球を取り出す。
「投げな」
「避けな」
流れるように深呼吸をし、魔力を纏わせた鉄球を投げる。
微かにカーブしている鉄球はラースの顔目掛けて飛んで行く。
しかし、鉄球は弾かれてしまう。
「くっ付く磁力にすれば問題なかろう······使い分けて見せる」
「頭悪いな」
その瞬間、ラースの頭上に雷が落ちる。
「がぁ!!」
「自分の能力が強いからか?雷を食らったのは、心理を読むのを放棄した証拠だ。さっきお前は集中するとか言ってたが、やはり口だけだな」
良く見ると、ラースは雨で濡れていた。
濡れた体、体に当たる雨。
雷は、頭上にある雲から落ちた魔法だと、ラースは理解した。
「磁力魔法!」
すぐさま反発する磁力に切り替える。
しかし、アーサーはその一瞬の隙を見逃さなかった。
鉄球をすかさず投げ、ラースの羽根に命中させた。
「がぁ!」
「引っ張る磁力、纏われてる魔力。プロ野球選手は直球130km/hから165km/hで投げるらしいか、今の俺は軽く200km/hは出せる······悪魔になったばかりのお前は避けれまい」
鉄球が命中した羽根は、ビリビリと音を立てていた。
そして鉄球は、電気を発していた。
「あぁぁぁ!!体が痺れる!?」
「鉄球に雷を纏わせた。そしてその鉄球にはまだ仕込みがあるんだぜ?」
「仕込み?」
「あぁ、小さいが俺の魔法が込められているんだ。魔法の名前は······ウェザー.エンド」
瞬間、ラースは内部から爆発する。
「派手に散れ·····醜いお前は死んで美しくなれ」
爆風が止み、煙はからは人影が見え始めた。
そして、一瞬だけ光も見えた。
同時にアーサーの胸が血で滲む。
「·····光の魔法か?血が止まらない」
「少し図に乗らせてしまったな」
煙から姿を現したラースは、ボロボロで血まみれだった。
だが、雲から降っている雨がその血を流す。
「ウェザー.ヘイル」
アーサーは、胸の傷を凍らせて止血する。
(雨が当たってるか当たってないかで磁力の性質が分かるぞ·······今は雨が当たってるからくっ付く磁力······あるいは磁力を解除しているか)
痛みに目を向ける暇も無かった。
アーサーはそれほど集中し、覚悟を決めていた。
「決着を付けてやるぞ」
「やはり、やり方はシンプルが良い」
アーサーは、体の異変に気付いた。
体の動きが鈍くなり、ラースに引き寄せられて行く。
「な!?ここに来て引き寄せを!?」
「死ね」
同時に、ラースはアーサーに向けて光を放つ。
アーサーは持っていた剣を使って光を弾き飛ばす。
「既にお前は俺は間合いの中だ」
ラースは、手刀でアーサーの胸を突き刺した。
「がぁ!」
「心臓を刺した······さよならだな」
「あぁ、さよなら·······そしてまた会おう」
同時にアーサーは、剣でラースの胸を貫く。
ラースの胸は剣から広がるように燃える。
「がぁ!·······なんてな。悪魔は心臓をずらせるんだ······そこは心臓では無い」
ラースがそう言った瞬間、雨が消え、雲も消えた。
「お前は悪魔だ。人を殺めすぎた······自分でも分かっているだろ?けどさ、死に時くらいは······人間として逝けよ」
アーサーは、ラースの羽根を掴み、燃やしてちぎった。
チリになっていく黒い羽根、血を流す2人。
「まさか!?お前!?」
「ウェザー.エンド」
2人は空中で爆発し、チリになっていく。
その光景は、街の人々の目に映った。
その爆発は、暗闇に差し込んだ光のようだった。
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目が覚めたらユグドラシルで1番高いビルの上に居た。
体が重く、痛み、疲れていた。
「·······そうだ、僕負けたんだ」
全て思い出した。
僕は、クルーニャとの戦いでボコボコにされた。
けど、天界に居たはず·······なのに今は地獄と化したユグドラシルに居る。
「クルーニャの事は後だ······島を守らなければ」
立ち上がって初めて気付いた。
体のあちこちに傷を負っている事を。
魔力も空っぽで、体に力が入らない。
「あ!」
オマケに足を挫いて、ビルから落ちてしまう。
「な、何だ?何か踏んだぞ?」
地面に何か落ちていた。
疲れた目でよく見ると、焦げた王冠と折れた剣、それとソロモンの指輪だと言う事が分かった。
そして、その剣には見覚えがある。
「アーサーの剣······」
剣と指輪を拾い、もう一度立ち上がる。
「全悪魔よ!指輪に戻れ!」
指輪を指にはめて、叫んだ。
すると、雲が晴れるかのように、空に飛んでいた悪魔達が指輪の中に戻って行った。
「アーサーを······探さなくては」
しかし、意志とは別に、力尽きて倒れ込んでしまう。
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僕が再び目覚めたのは、3日後だった。
「良かった、目が覚めた」
目が覚めて、最初に見た人は美叶だった。
美叶の腕は骨が折れているらしく、三角巾を付けている。
目も怪我してるらしく、包帯が巻かれている。
どうやら、美叶も悪魔達と戦っていたようだ。
「ジャックが悪魔達を退けてくれたのね。本当にありがとう」
「·······僕が神だからそう思ったの?」
「指に見た事ない指輪がはまっていた。それがソロモンの指輪かなって思っただけ」
「······よく見てるね。あのさ、他の人達は?街はどうなったの?」
僕は思い出したかのように、慌てて立ち上がった。
「今、ミハエルが人々や街を直している。怪我人は皆この病院に居るわ」
「アーサーとアリス······見てない?」
「ジャック、言いずらいんだけど······2人は居ないわ」
その一言を聞いて、体が凍った。
鳥肌が立つ感覚に近かった。
「つまり······どうなったの?」
「アリスは悪魔に殺され、アーサーはラースと共に死んだわ」
僕は、2人の死を真理の義眼で確認した。
美叶の言ってる事が真実だと知り、アマノを失った過去を思い出す。
酷く、虚しい気持ちに苛まれた。




