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愛を知らない神様  作者: ビター
ラース編
106/113

後悔

 

  アーサーの返答を待つアリス。

  ラースへの復讐か、アリスとの未来か、答えを口にするまで緊張が走る。


  「俺は·······アリスとの縁を切りたくない。だから復讐は諦める······アリスを取るよ」


  アーサーは、苦い笑顔で答えた。

  瞬間、アリスは抑えていた感情を表情に出した。

  パッと嬉しそうにするのと同時に、涙を流す。

  そして、テーブルを飛び越えてアーサーに抱きついた。


  「これからはずっと見てるから·····ずっと一緒に生きて行くから······もう遠くに行かないで」

  「うん。俺の生きる理由になってくれてありがとう。俺を復讐から解放してくれてありがとう」


  アーサーは、苦い笑顔のままアリスの頭を優しく撫でた。

  まるで赤子をあやすように。

  心残りが無いと言えば嘘になる······アーサーの雰囲気と表情がそう言っているようだ。

  だが、決して後悔の表情は無い。

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  朝起きると素晴らしい朝だった。

  朝はそうだった。


  「そろそろ行こうか」


  今日、アーサーと共にラースを倒しに行く予定だ。

  そして朝5時、僕はアーサーの部屋に訪れた。

 

  「おっはー。準備出来た?」

  「おはよう」


  アーサーは、スッキリした顔でドアを開けた。

  しかし、まだパジャマ姿だ。


  「·········準備できるまで待つよ。神器にした剣、忘れず持ってね」

  「あの、言いずらいんだけど、俺行かないよ」

  「·······どうして?」


  拍子抜けだった。

  聞き間違えたのかと思った。


  「復讐は止めた·······怖気付いたよ」

  「何があったの?」

 

  アーサーは何があったか教えてくれた。

  内容はアリスとの話だった。

   

  「良かったね·······アーサーは、救われたんだね」

  「あぁ。まだモヤモヤしてるけど、後悔は無いよ」


  少し羨ましいと思えた。

  それが、うっかり口に出た。


  「羨ましいよ。僕は失ってから気付いたから······失わず気付けた君が羨ましい。絶対に幸せになってね」

  「あぁ。せっかく剣を神器にしてくれたのに·······悪いな」

  「良いんだ。確認だけど、ラースは倒していいんだね?」

  「あぁ、頼んだ」


  朝から少し寂しくなった。

  けどちょうど良かった。

  実は、まだラースの居場所を突き止めていなかった。

  真理の義眼で見つけるのは容易い事だが、ズルをした様で気に入らない。

  もし、予定通り今日ラースを倒しに行くならば、真理の義眼を使っていた。

  だが、急ぐ必要が無くなったので、指輪探しもラースの確保も、今日する必要は無い。


  「今日は、少し心が落ち着かない。アーサーの事は嬉しいが、同時に寂しさを思い出してしまったよ」


  指輪の回収、及びラースの確保は明日にする事にした。

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  朝8時。

  アーサーの部屋にノック音が響く。


  「誰だ?」


  アーサーがドアを開けると、オシャレをしたアリスが居た。


  「おはよう。もし、暇だったら、デートしない?」

  「おはよう·····デート······します」


  アーサーの心にあったモヤモヤは、ドキドキに変わる。

  そして、2人は街に出る。


  「良い天気だね」

  「あぁ、本当に良い天気だ」


  暑すぎない程よい太陽、心地よい風、美しい空。

  天気だけじゃない·······街中を走る車、アイスクリームを食べる子供、横になって歩く学生達、見るもの全てが幸せそうだ。


  「七つの大罪の被害が無くなったからか、この島も穏やかになった。そんな気しない?」

  「ふふっ、変な例え方。確かにそんな気するけど、誰かさんが変わったからだと思うよ」

 

  アーサーは、少し恥ずかしそうにして、頬を指でかく。

 

  (復讐を止めて良かった)


  アリスの笑顔を見て、アーサーは思った。


  「来年からこの島から出れる気がする」

  「そうだね。七つの大罪が居ない世界に、このユグドラシルは必要ないからね」


  会話が途切れた。

  だが、不思議と気まずそうでは無い。


  「どっちにしてもあと2年よ」

  「そうだね」


  デートは楽しかった。

  主に買い物がメインだったが、ただ歩き回り、目に入った店に入る。

  それが結構楽しい。

  朝8時から夜8時まで、ずっと2人で居た。


  「寮に帰る前に見せたいものがある」

  「何?」

  「すぐに分かるさ。ウェザー.クラウン」


  アーサーは、魔法で創った雲に乗った。

 

  「乗って」

 

  アリスは差し伸べられた手を取り、アーサーと共に雲に乗った。

  雲は柔らかく、今にも落ちそうだ。

 

  「掴まっててね」

 

  雲が、一気に上空に飛ぶ。

  落ちそうになるくらい風が強い。

  アリスは、思わず目を瞑ってアーサーにしがみついた。


  「見て!目を開けて見て!」

 

  それでも、アーサーの言う通り目を開けた。

  アリスが見た景色は、島全体の夜景だった。

  真っ暗な世界で、人々の生活が明かりとして映し出される景色は、言葉に出来ない美しさだ。


  「綺麗だろ?」

  「すごく綺麗」

  「俺はついこの前までこの夜景を作る側だった······君のおかげで見る側になれた······幸せだ、ありがとう」

 

  アリスには、アーサーの言ってる事が良くわかった。

  そして、幸せを共有できてる今が、とても幸せだった。


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  大きな音だった。

  そして嫌な音だった。

  皆が知る危険な音······正確には危険を知らせる音。

  そう、サイレン音だ。

 

  「何が起きたんだ?」

  「外を見て分からないのか!!」

  「いや、分からん」


  危険を知る者と知らぬ者、島の中でハッキリ分かれていた。

 

  「失礼します」

  「ミハエル!いい所に来た!」


  ミハエル先生は、魔導師協会本部に居た。

 

  「危険を知らない者はこの島にほとんど居ません」

  「まさか?私をバカにしてるのか?」

 

  状況を把握できてない男は、ミハエル先生の次に冷静だった。

  勿論、状況を把握出来てないからこそ、冷静なのだが。


  「落ち着いて聞いて下さい。結論から言いますと、島に化け物が大勢現れました」

  「つまり?」

  「はぁぁ、最後まで聞いて下さい。化け物は人間と掛け離れた見た目をしてます。まるで悪魔のような見た目です。そして、その悪魔は魔導師にしか見えない······つまり妖と同じ性質を持ちます」

  「だから私には何が起きたか分からなかったのか」

  「今、島の魔導師達が悪魔達と戦って居ますが······絶望的な状況です。すぐに一般人の避難を済ませて、この島に呼べるだけの魔導師を呼んで下さい」


  冷静なミハエル先生も、顔色を悪くする事態だ。


  「避難って······一体どこに?」

  「島の外です」


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  アーサーは部屋を飛び出した。


  「な!何だこれは!?」


  アーサーが部屋を飛び出した時には、島中に被害が出ていた。

  黒い羽根で飛び回る悪魔が、破壊と殺戮を行っている。


  「ジャック!ジャック!」


  アーサーは僕の部屋のドアを開ける。

 

  「ジャック外がやば······い······」

 

  凍り付いた。

  知らない男が僕の首を掴んで、突っ立っていたからだ。


  「アーサー······逃げて······」

  「ジャック!」


  男は、僕と共に姿を消した。


  「何だアイツ?神なのは間違いない·····だが大人の神だった。ルーナでは無い」


  夜だと言うのに、島は明るくて熱い。

  それは、街中が燃えているからだ。

  そして、アーサーが居る寮も燃えかけている。


  「くそっ!ジャックならきっと大丈夫······分かってても心配になる。取り敢えず寮を出なければ」


  アーサーは、部屋を出た。


  「アリスは?アリスは無事か?」


  アーサーは、アリスの部屋のドアを開けた。


  「アリス!」

  「アーサー!どうなってるの?あの悪魔みたいなのは?」

 

  アリスは無事だった。

  しかし、困惑した様子だ。


  「恐らくジャックが言っていたソロモンの指輪の悪魔·······ソロモンの指輪?とゆう事は······」


  アーサーは、アリスの手を取ったまま、外に出た。

  上空を見上げ、何かを探すように悪魔達に視線をやる。

 

  「なっ!野郎!!」


  アーサーの予想は的中した。

  島の上空に、1匹禍々しいオーラを放つ悪魔。

  アーサーには、そいつが何者か分かった。


  「ラース!」

 

  その悪魔こそ、復活したラースだ。


  「アリス分かった!奴だ!ラースがソロモンの悪魔達を率いて島に来たんだ」


  瞬間、アーサーの体はアリスに引っ張られる。

 

  「アリス?」


  ふとアリスの方を見ると、アリスの体に大きな爪のような物が刺さっていた。

  そして、アリスが手から崩れ落ちるように倒れた。


  「何が······起きた?」


  アリスの目は虚ろになり、体からは大量に血が流れる。

  少し上を見ると、アリスを殺ったと思われる悪魔が別の場所に飛んで行くのが見えた。


  「ああああぁぁぁ!!ざけんなああああああああぁぁぁ!!!」


  すぐさま、アリスを抱えて自分の部屋に入った。

  少ない医療道具を手に取り、アリスの止血を行う。


  「アリス!しっかりしろ!目を覚ませ!」


  止血は完了したが、アリスの心臓は止まった。

  体に大きな爪を突き刺したまま。

 

  「こんなことなら、復讐を選べば良かった。アリスの幸せだけを願えば良かった······愛を知らなければ良かった」


  ベッドの下から剣を取り出す。

  その剣は、もう必要のない道具のはずだ。


  「殺す」


  心に殺意を宿す。

  その殺意は、もう必要のない感情のはずだ。


  「ラーーースーーー!!」


  宿敵ラースを目に映す。

  これから始まる復讐は、もう必要のない復讐のはずだ。

  だがそれは、少なくともついさっきまでの話だ。

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