七つの大罪の解散
ラースとバアルの連携は、完璧に近かった。
交互でプライドに、ヒットアンドアウェイを繰り返す連絡は上手い。
プライドは殴られ、蹴られ、魔法を打たれ、怪しいほど一方的にやられている。
「避けろ小僧!闇魔法!シン.エンド!」
バアルが放ったのは小さな黒い球体だった。
黒い球体はプライドの体内に潜り込むように消える。
「はい、おしまい」
バアルが指揮者のように拳を握ると、プライドが体内から爆発する。
「すげぇ·····」
爆風が晴れると、プライドは跡形もなく消えていた。
「やった!感触もある!奴はチリとなった!シン.エンドは対象をチリにして消す魔法だ!生きてる訳無い!」
バアルはガッツポーズをして喜ぶ。
「やったぞ小僧!見たか!?」
「見たかって······バアルあんた·····手に持ってるの······それ、自分のじゃないよ······な?」
「ノリが悪い!!手に持ってる物の話なんて後でも――」
バアルが自身の手の平の中を確認した途端、2人は一瞬にして凍り付く。
バアルの手の平にあったのは生々しい心臓だった。
そして同時に、バアル自身の胸に風穴が空いている事に気付く。
「バカな!?気づかなかったのか自分で!?」
「ぶはァ!!」
バアルは血を吐いて膝を落とす。
「分身と透明化を使ったから、魔法が1発放てる程度しか魔力がないな······本当に悪魔の数が多すぎた」
疲れた声と共にバアルの背後にプライドが姿を表す。
「シン.エンドを食らったのは分身?だが分身と入れ替わる隙は無かった」
「シン.エンドを食らう直接、分身を出して俺本体は透明化·····単純だろ?満足したならあの世に行きな」
血だらけでボロボロのバアルとプライド。
そんな体の状況で、プライドがバアルのトドメを刺そうとする。
「やめろー!!」
だがラースの磁力魔法でプライドが吹き飛び、バアルがラースの手元にゆっくりと引き寄せられた。
「バアル!!ちっ、治療はできるか?」
「·······」
「バアル?バアル!」
返答が無い。
今にも死にそうなバアルの目は虚ろだ。
だが、バアルはラースに寄りかかり耳元で微かに口を動かした。
「は?良いのか?」
バアルの言葉を聞き取ったラースは、困惑しながらもバアルの耳元に口を近づけた。
「·····えた。確かに·····魂·····得れなかったが、楽しかった······」
バアルはそう言い、自身の頭に身に付けていた黄金に輝く王冠をラースの頭に王冠を被せた。
そして、静かに息を引き取った。
「バカな悪魔だ、結局何も成せないまま死んだ。目的である俺の魂を取れず惨めに死んだ······けど、俺にとっては美しく意味のある死だ」
バアルの瞼を閉じさせ、死体を優しく床に寝かす。
同時にプライドが起き上がり、フラフラしながらラースに近寄ってくる。
「なーにが美しく意味のある死だ。死に意味を持たそうなんて、おこがましいぜ」
「王様、今の俺は全人類の王様だ······人類に神は要らない」
お互い目を合わせ、足を止めた。
ラースはノーダメ、一方プライドはボロボロで今にも倒れてしまいそうだ。
「終わりにしようか」
「もう終わってるぜ」
だが、倒れてしまったのはラースだった。
一瞬にして魔力の弾丸がラースの胸を貫いたからだ。
「見えなかった·····」
「勝負する気は無い······ゲームクリア······それが全てだ」
プライドはラースに近づき、床に落ちた神器でラースの頭を突き刺す。
ラースの命は尽き、頭の王冠は床に転がり落ちる。
「七つの大罪はこれにて解散だ」
数分後、プライドは血を流しながら城を立ち去った。
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プライドが城を去ってから20分後、ラースの死体が見つかり、美叶が保護された。
ラースの死体は、魔道士協会の権限でユグドラシルまで運ばれる事になった。
美叶も目的を見失った為、ユグドラシルに戻る事となる。
そして翌日、ラースの死はニュースに取り上げられる。
「ラースが死んだ·····」
ラースの死を知ったアーサーは泣いて悔しがった。
本来、喜ぶべき事だろうが悔しさが勝ってしまったのだろう。
「美叶が言うにはプライドが殺ったって」
「だろうな」
誰とも話したくない。
アーサーは、そう言わんばかりに背を向ける。
「何して生きようか·····新しい人生の使い方が分からないよ」
「いずれ分かるよ」
「そうだな」
アーサーは涙を堪えるように上を向いた。
今までの人生が無駄だった······そう言いたいようにも見えるが、アーサーの口からはそんな言葉は出なかった。
その夜、僕の元に1人の天使が現れた。
僕がいつものように夜の島を眺めていた時、メタトロンが険しい表情を浮かべてやって来た。
「その顔·····もしかして僕の周りの人々から僕の記憶を消す件·····残り3年待ってくれなかったって事でいい?」
てっきり僕は、僕が人々に関わりすぎた件に付いて都合の悪い事が起きたと思った。
「その件については3年待つ事に許可が出た。それとは別の件でお前に訪ねた」
「内容は?」
「天界に着いてこい·····その目で確認してもらう」
僕はこうして、久しぶりに神や天使が住む『天界』に導かれる。
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人間が知らぬ3つの世界をとても分かりやすく説明する。
神が住む場所を『神界』、天使が住む場所を『天界』、悪魔が住む場所を『魔界』。
だが最近になって神と悪魔の対立は消え去り、全ての種族が神界、天界、魔法を行き来している。
神、天使、悪魔以外にも死神や魔女、魔獣や妖精なども居るがその辺の種族の説明は省こう。
天界は3つの世界の中で1番、人口が多い。
僕は今、そんな天界に居た。
「第9階層でロキが待ってる、早く行きな」
「案内ご苦労さま」
メタトロンがその場を立ち去ると僕はさっさと移動魔法を使い、目的地である第9階層に向かった。
「この時間帯は明るいな」
天界にも一応朝昼晩が存在する。
変化があった方が楽しい·····そんな理由で昔の神が朝昼晩を創造したらしい。
お祭りのように賑わう人混みを超え、会うべき神の所まで足を運ぶ。
「あっ、居た·····へへっ、驚かせよ」
今から会う神は神の中の王様である「ロキ」と言う名の神だ。
イタズラ好きなロキにはイタズラをしたくなるのが本能。
「だーれだ!」
僕はロキの背後に周り、ロキの目に手を当てた。
ロキはニヤリと笑い、
「ジャック君!」
「正解!久しぶり!」
僕は手を離し、上機嫌にロキの前に姿を現す。
ロキも嬉しそうにするが、すぐに困った表情を浮かべた。
「ロキ?」
「人違い····君迷子かな?一緒にお母さん探そうか?」
「なっ!?僕!いいや俺!俺!ジャック!元人間のジャック!」
すると、ロキはクスッと笑い僕の額にデコピンをした。
「ごっめーん!全く成長してないから気づかなかったよ、それに口調が丁寧だから人違いかと思ったんだ!ごめんね、チビ助ジャックちゃん」
出会って初っ端でバカにされた。
ロキが神の王様って器じゃないのは確かだな。
「もういい!感動の再開を期待したのがバカだった!早く要件を言って」
「あぁ、忘れてた·····じゃあ着いてきて」
メタトロンの次はロキに着いていく。
こうして、僕が連れてかれたのは天界にある病院だった。
「病院?」
「今この病院は満席なんだよ。結論から言わせてもらえば全悪魔が大小関わらず傷を負った」
「何があったの?」
「昨日の夜、悪魔達が次々と消えた。まるで何者かに召喚されたかのように·····そして次々と消えた悪魔が傷を負って戻って来た」
ロキは少し険しい表情だった。
これぞ神の王って感じの表情だ。
「話が見えない·····全悪魔が召喚されたの?そんな事神だって出来ない」
「僕もそう思った·····だから唯一その件に巻き込まれなかった悪魔王の補佐官に話を聞きに行った。そしたらとんでも無い物の存在を見落としていた事に気付いた」
「何?」
「ソロモンの指輪·····その魔道具さえあれば全悪魔を操るのは人間でも可能」
「人間?まさか······あぁ、話が見えてきた」
昨日のラースの死、それを知っていた僕は一瞬で悟った。
「バアルと言う悪魔がその指輪を持ち出し、ある人間に渡した·····だが、バアルもその人間も死亡し、指輪は回収されてない」
「指輪の捜索·····僕に頼みたい事はそれだね?」
「もしジャック君が指輪を見つけてくれれば、他の神々が君の身勝手な行為にある程度目を瞑ってくれる·····君が人間と関わりすぎて居る事に不満を持つ者は大勢居る·····信頼が必要だろ?それにバアルとその人間に心当たりがあるんだろ?」
「全部正解······指輪の回収やり遂げる」
「人間に拾われ、悪用される前に回収してくれ」
「分かった」
ひとつ疑問に思う事がある。
ラースもバアルも死亡した今、なぜ指輪が見つからないのだろう?
プライドが持って行った可能性もあるが······そうじゃない気がする。
もしかしたら、ラースの死体に指輪が身に付いたままなのかもしれない。




