猛烈超特急
甘い臭いに誘われて、私はある屋敷に忍び込んだ。仲間からの情報によれば、この時間にはたくさんの甘いものが現れるらしい。噂をすれば、分厚い板の上にはチョコレートやビスケットが山ほどある。
ちょっとばかし拝借して、地面をそろりと滑るように移動していた私は、溶けた飴が固まってくっついた、機関車に気がついた。
とても敷地が広いので、屋敷の中には幾つもの駅や高架線、ビルが連立している。この辺りでは別に珍しいことではない。
黒い機関車には、石炭が積まれているはずの部分に、照り輝く飴がこびりついていた。
思わず手にしたビスケットの欠片を落とした私は、吸い寄せられるように機関車へと乗り込んだ。
これも少しばかり頂いて、直ぐに立ち去るつもりだった。
ふいに暗くなった空を仰ぐと、黒い雲が伸びてくる。大きな影が機関車を包むやいなや、恐ろしい速さで景色が吹き飛んだ。
曲がりくねったレールの上を猛スピードで機関車は走り始めた。驚いたことに、急に止まったり、徐に動き出したりするものだから、私はしがみつくだけで精一杯だった。
そして、私は目を疑った。機関車は線路から浮き上がり、宙へ舞ったと思うと、地面に向かって叩きつけられた。
所々塗装が剥がれ落ちた車体から、命からがら私が逃げ出すと、地響きが近づいてくる。
「ちょっと、サトル!駄目でしょう散らかしちゃ。またこんなに汚して、掃除大変なんだから」
やってきた女の巨人は小さめの巨人に対して何やら叫んでいる。
私はフローリングに散らばった飴を回収して、ベランダへと向かう。しかしベランダへと通じる窓は閉められてしまっていた。
いつの間にか巨人たちの姿はなく、代わりに見慣れない金属の物体が置いてあった。
金属の物体から、突然白い煙が噴射され、私は目の前が真っ暗になった。
昨晩に姿を見られたことが命取りとなった。(了)
ローチの繁忙期となりました