第82話 正体を明かす
第82話〜正体を明かす〜
スタンピードの原因が龍だと聞き、その後をきいてみたらその龍が現れた。しかもずいぶんと小さなサイズになって。
「ちょっ、えぇっ!?なんで龍がここにいるのよ?!」
滅多に見ることのできないシャーロットの狼狽する姿だが、今にも魔術を発動させそうなところ見ると看過できる状況ではない。
それに他の面々も同様であり、リカルドに至ってはすでに弓に矢をつがえている。このままでは病室で戦闘が始まってしまいそうな雰囲気であったため、レインは慌てて説明をする羽目になった。
「落ち着け。こいつはすでに俺が殺した龍だ。どういうわけか死にたくなかったらしく小さくなって復活したが、すでに元の力はほとんどない。それにどうやら俺に従うみたいだし、国からもこいつの全権限は俺に預けられている。だから心配する必要はない」
レインのその説明に少しだけ落ち着きを取り戻した四人だが、誰も警戒をときはしない。リカルドは弓こそ下ろしたが、未だ矢はつがえたままだ。
『私は何か失敗したのか?』
「その通りだ。弱いとはいえ龍が出てくれば誰でも驚く。もう少し登場の仕方を考えろ」
『私のことを弱いと言い切れるのは主人だけのような気もするが、今後気をつけることを約束しよう』
何やらずれたことを話しているレインとファフニールだが、そのおかげで少しだけ場の雰囲気も和らいだようで、まだ動揺はしているがシャーロットがレインに尋ねる。
「そのスタンピードの原因になるほどの龍を、レインが倒したのよね?」
「そうだな。倒したというか殺した。だが思いのほか執念深くてこうして復活したというわけだ。まぁ、こいつのおかげでスムーズに黒幕に接触できた点だけは良かったけどな」
『それが見逃してもらうための取引だったから当然だ。龍は決して言葉を違えることはない』
どうにも論点がずれているレインとファフニールだが、シャーロットが言いたいことは決してそんなことではない。
何度も言うが、龍とは災害、いや、厄災に近い存在なのだ。
基本的に人の住む場所に現れることはないが、一度気まぐれに現れれば国が滅ぶ。争ったとしても割に合わなないほどの死者が出る。それがこの世界での龍と人の歴史なのだ。
もちろん龍にもランクはあり、亜龍と呼ばれるワイバーンは脅威であるが、それなりの魔術師がいれば討伐は容易だ。しかし、色付きや名付きの龍ともなればそうはいかない。
赤や青などの色が付いた龍は一匹で国が滅ぶと言われる成龍。天空龍や地底流などの名付きになれば大陸が滅ぶと言われる古龍。そう言われているほどに龍は強い。暗黒龍ともなれば、間違いなくクラスは古龍。この世界でも最強の一角であることに間違いない。
それと対峙し生き残るだけでも奇跡なのに、殺した上に従えたとレインはいうのだ。
はっきり言ってもはや同じ人だと思えない。その確認のためにレインに事実確認をしたのだが、レインには全く別の方向にそれをとられてしまったらしい。
「心配しなくてもこいつはちゃんということを聞くから大丈夫だ。もし何かしでかしたらすぐに処分するから安心してくれ」
『やめてくれ。私は二度も主の拳を喰らいたくはない』
しかもレインのその言葉を受けたファフニールは明らかに怯えた目でレインを見ているのだ。それを見てしまえば、レインがファフニールを倒したことを信じるしかない。
「なぁ、レイン。その龍を倒せたのは、お前が五芒星の魔術師の一人だからってことで良いのか?」
どうにも微妙な空気の中、リカルドが核心に触れる質問をする。
防衛戦の最中に明らかになったレインの正体。これまでの常識外れな力の片鱗は見ていたが、その原因がようやく分かったのだ。もしレインが本当に五芒星の魔術師であるのなら、これまでの力にも納得がいくし、むしろそれくらいできて当然と納得することができる。
だがもしそうであるならこれまでのような関係ではいられないかもしれない。そんな覚悟をしつつもした質問だったのだが、とうのレインはと言えば、特に気にする様子もなくあっさりとそれに答えた。
「一応、そう呼ばれてはいるみたいだな。俺としては勝手にそう呼ばれているだけっていう感覚だが、それでも世間はそうは見てくれないからな」
困ったものだと肩を竦めるレインだが、困ったのはこっちの方だとリカルドは思う。
五芒星の魔術師と言えば、世界中の魔術師の憧れであり目標。全ての魔術師の頂点ともいえる存在なのだ。
実際リカルドも三年前の戦争で活躍したその五人に憧れていたし、いつか会ってみたいとも思っていた。だが蓋を開けてみれば学院で最初にできた友人がその五芒星の魔術師というのだから、なんと世界の狭いことか。
「本当にレイン君が五芒星の魔術師なの?」
「しかも謎に包まれた五人目。拳聖なんて二つ名もナイツ教授が言っているのを聞いて初めて知りましたよ、私」
それはリカルドだけでなくパメラとセリアも同様だ。二人も下級貴族とは言え貴族。親は戦争に何らかの形で関わっており、それゆえ五芒星の魔術師のことは聞いていた。
戦争の最前線であるアンフェール島で破竹の勢いで敵を倒し、戦争を勝利に導いた魔術師たち。伝え聞いた話だけでも憧れや羨望を抱くには十分すぎるものがある。
「大袈裟だ。戦争に参加してただ敵を殺した数が少し多かったってだけだ。周りはもてはやすが、それほど威張れたもんじゃない」
そう言って謙遜して見せるレインだが、どうやら世間一般の認識と本人のずれはそれなりに大きいらしい。
憧れの存在が目の前にいる。そしてそれが同じパーティーのメンバーだったことに驚きを隠せない三人だが、そこでふと気づく。もう一人、なぜかいきなり黙ってしまった者がいるということに。
「あの、シャーロットさん。先ほどからどうされたんです?」
「えっ!?いや、私も驚いててね、うん!!」
「何でそんなに焦ってるのかな?」
「だ、だって五芒星の魔術師だものね!!びっくりよね!!」
どう見ても、誰が見ても焦っているシャーロットはただただ怪しすぎた。というよりもここまで分かりやすい人もいないのではないのだろうかというくらいに分かりやすかった。
ここまで動揺してしまえば何かがあると言っているようなもであり、レインの正体が五芒星の魔術師であるという驚愕の事実に驚かなかったことと合わせ考えれば、その答えは自ずと導き出せる。
「シャーロット。お前、知ってたな」
それはもはや疑問形ではなく断定。リカルドの鋭い指摘にいつもの凛々しい姿はどこになくただたじろいている姿はこれから先もそう見ることはないだろう。
「あぁ、シャーロットは知ってたぞ」
そこにさらにレインが爆弾を落とす。それの何が悪いんだと言わんばかりに。
「いつからだ?」
「この前のランデルとの件の時からだな。流石にあの状況で話さないわけにもいかなくてシャーロットだけには話しておいたんだ」
隠すことも何もなくただ事実を話すレインだが、それとは対照的にシャーロットの顔はどこか青くなっていく。
「わ、私まだ少し気分が……」
「シャーロットさん?」
「は、はい!?」
逃げようとするシャーロットだが、それを押し留めるのは非常に良い笑顔をしたパメラ。いつもの二人では考えられない関係性に、レインも少し驚きを隠せない。
「少し、お話しよう?」
部屋の隅に連れて行かれるシャーロットの助けを求める視線を見ながらレインはひとりごちる。
「仲良くなった、っていうことで良いのか?」
『主は少し場の空気を読む力をつけたほうがいいだろうな』
ファフニールの呆れたような声を聞こえた気がしたが、何にせよこうしてパーティーの全員が生き残れた。それがレインには何よりも喜ばしく、これから先に待ち受ける戦いを少しだけ忘れて今はこの雰囲気を楽しむことにしたのだった。




