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第74話 援軍

第74話〜援軍〜


 大蛇の牙が深く突き刺さり、吹き出す鮮血がセリアの視界を真っ赤に染めていく。


「シャーロットさん!?」


 思わず全てを忘れて駆け寄ろうとしたセリアだったが、それを制したのは他の誰でもないシャーロットだった。


「あなたはあなたのすべきことをしなさい!!」


 とめどなく溢れる血を見れば、シャーロットが受けたダメージがどれほどのものなのかくらいはセリアにもわかる。それでもシャーロットは声色一つ変えず、大蛇を抑える氷をさらに追加しながらセリアに一喝したのだ。


「あなたが砦の維持を止めればこれまでの犠牲が全て無駄になるわ!!この戦場を維持できるのはもはやあなただけ!私じゃない、セリア!あなただけなのよ!!」


 轟く声にセリアは踏み出しかけた足を止めた。


「あなたはあなたのすべきことをしなさい!!あなたは魔術師なのよ!!それにレインにこの場を任されたんでしょう!?なら最後までその責任を果たしなさい!!」


 もはや意識を保つことも精一杯なはず。そんな状況下でもシャーロットはこの戦いの勝利のために最善を尽くそうとしている。


 ならば自分にできることは一つだけ。


「中央に集めたリソースを再び砦全体に!!魔物を一匹たりとも通さない鉄壁の砦を構築!!」


 大蛇はシャーロットが止めてくれている。ならば自分がすべきことはこの砦を今まで通りに維持し、一匹として後ろに通さないようにすることだけだ。


 セリアはシャーロットから視線を切り、再び砦の全体に意識を戻した。目からはとめどなく涙が溢れていくが、それを拭いている余裕などあるはずもない。


 シャーロットはセリアに託したのだ。この戦いの全てを。あの傷ではもはや助かる見込みはほとんどない。それを覚悟してなおセリアを助け、そして砦を維持するように叱咤してくれたのだ。


 ならばその期待に応える以外の道はない。友人の最後のとなるであろう言葉を胸に、セリアは砦を維持し続ける。


 そして大蛇の牙により、シャーロットがいよいよ力つきようとしたその時だった。


「うオラァッ!!」


 どこからか現れた男が身の丈ほどもあろうかという戦鎚を振り抜き、シャーロットに食らいついていた大蛇の頭を吹き飛ばす。


「マリベル!すぐに治療に入れ!!」


「わかってるわよアルフレッド!!」


 牙から解放され、そのまま倒れるシャーロットをもう一人の現れた女性がすぐさま治療を行なっていく。


「絶対に死なせるなよ!!この戦場の英雄達だ!!このスタンピードをここまで押さえ込んでいた奴らをこれ以上死なせるわけにはいかねぇ!!」


「わかってるわよ!私の治癒師のプライドをかけて絶対に助けてみせるわ!!」


 目の前で行われていることに対し、セリアの意識はついていかない。いかないが、それでもこの場に援軍が来てくれたことだけはわかった。


 シャーロットは治療され、最大の懸念であった大蛇は取り除かれた。ならばもうやることはこの砦をどこまでも維持、いや、拡張して魔物を押さえ込むことだけだ。


 そう思ったセリアは、全ての生命力を魔力に変えて砦に注ぎ込もうとした。だが、それはその直前で誰かの手によって止められることとなる。


「それ以上は大丈夫。ここから先は私はやるから、セリアちゃんは砦だけ維持して休んでて」


 優しくも頼もしい声とともに、セリアの肩におかれる温かい手。


 思わず振り向いたその先にいたのは、ルミエール魔術学院西の塔の教授であり、五芒星の魔術師が一人、シルフィ・ファスタリルその人だった。


 ◇


 シルフィは今回の湿地帯の異変を別方向から調べていたのだが、ことの真相を知り急いで湿地帯にやってきたのだ。


 先日の魔闘祭の予選でのランデルの件について各方面の調査を行なっていたシルフィだが、手掛かりがなかなか得られない中、気になる話を聞いた。


 それによれば、なんでも隣国であるヘルメス王国と西の雄であるガイダント帝国の間で何やら怪しい動きがあるというのだ。


 もちろんかつては大陸間での対戦があったことは事実だが、それでも国同士の交流というのは当時からないわけではない。


 東と西で大陸が違えば生息する動物も自生する植物も違ってくる。となればそれらを求めて大陸間で必ず交流は行われることになり、一番の争いを見せたハルバス聖王国とガイダント帝国ですら、表立って仲がいいわけではないが貿易は行なっているのが現状なのだ。


 であるならヘルメス王国と帝国が関係を持っていてもおかしくはないのだが、シルフィが目をつけたのは帝国が交流を持っているのが王都ではなく、周辺の力のある貴族たちとだったからだ。


 普通、国家間で関係を持つならまずは一番上を通すのが筋なはず。そしてそこから下へと広げていくのが通常なのだが、帝国はなぜか王都から離れた公爵家や辺境伯などに声をかけていたのだ。


 一度怪しめばあとは芋づる式とはこのことなのか。そこから湿地帯に何か関係がないかと探りを入れていけば、なんと湿地帯を治めているエジャノック伯爵家と過去に縁談を設けていた貴族がいたのだ。


 しかもご丁寧に縁談を行ったヘルメス王国の貴族が、帝国と交流を持った数ヶ月後にだ。さらにさらに、その縁談はエジャノック伯爵の息子であるアーリヒの人柄があまりにも悪く破談になったと記録にはあるが、その後別れたヘルメス王国貴族の妻は、帝国の貴族とすぐさま婚姻を結んでいた。


 巧妙に隠蔽はしてあったが、シルフィが本気を出せばこの程度のことを調べるのはそれほど難しいことではない。


そこまで調べがつけば、帝国がヘルメス王国を使いハルバス聖王国の力を落とそうとしているのは一目瞭然。さらなる情報を得るためにシルフィはエジャノック伯爵関係に絞り調査を行なったのだが、その結果はあまり信じたくないものばかりだったのだ。


 調べるうちに、アーリヒという人物は巷で噂されるような人物ではないということがすぐにわかった。


 確かに外見が揶揄されるようなことはあるようだったが、それでも人としては誠実であり、仕事に対しても真面目に打ち込んでいることがわかる。


 しかも件の破談の件も、アーリヒに近かったものの話によればあり得ないことだったらしい。なんでも婚姻が決まってからというもの、アーリヒは非常に喜び、それまであった夜の会合なども全て断り妻のもとに帰るようになったのだというのだ。


 もちろんアーリヒ側の意見でしかない話だが、シルフィが調べた情報とこれまで聞いていたアーリヒの人物像では乖離が大きすぎるのだ。


 そして破談のためにエジャノック伯爵は地方に左遷。アーリヒが日の目を見ることは無くなったのだが、ここまでのことで帝国が関与した可能性は非常に高いことがわかった。ならば帝国はこの王国間の婚姻に絡み一体何を得たのか?


 その答えはエジャノック伯爵が非常に優秀な外交官であったということだ。


 難しい交渉や同盟など、聖王国の外交の全てを取り仕切っていたエジャノック伯爵だったが、自国にとっては喜ぶべきことだが周辺国にとってはあまりいい話ではない。もしそのエジャノック伯爵が失脚したとしたら、周辺国の外交官は非常にやりやすくなる。それは東大陸の力を落とすことにつながり、引いては帝国の力の増強につながる。


 帝国が再び世界の覇権を得るための足掛かりの一つ。そう考えれば今回の件にもようやく話がつながってくるのだ。


 そしてそれを決定づける最後の証拠が謎のシルクハット男だ。ここ数ヶ月の間にエジャノック伯爵領とヘルメス王国で目撃されているこの男は、同じく湿地帯の周辺でも目撃され、さらには先日の魔闘祭でも目撃されているのだ。


 ここまでくればこの男が湿地帯の異変の原因と、さらにはここ最近起きた事件に関わっていることなんて馬鹿でもわかる。


 そこまで調べたシルフィは、すぐさま今試験の行われているはずの湿地帯へと急いで来たのだ。


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連載中である他作品、 【『この理不尽な世界に復讐を~世界に虐げられた少年は最強の龍となり神に抗う~』も引き続きよろしくお願いいたします。
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