第41話 崩壊したパーティ―の行方
第41話~崩壊したパーティ―の行方~
期末試験が迫る学院内は、誰もがその試験に向けての対策と確認に追われている。
筆記試験の勉強は言わずもがな、その後に控える実技試験はやはりパーティー単位で臨む試験だ。オリエンテーリングと違い、一人で受けても減点があるわけではないが、一人で受けて突破できるほど甘い試験ではない。
だからこそ一学期で結束を強めたパーティーの面々はさらなる強さと連携を求めて訓練をこなすのだが、残念だがそれができない人たちがいるのも事実だ。
「どうしよう……」
そういって中庭でひとり嘆くのはセリア・フォライト。先日の魔闘祭でランデルのパーティーの一員としてレイン達と戦いを繰り広げた者の一人だ。
子爵家という下位の貴族ではあるが、運よくA組に名を連ね、そして伯爵家の子息であるランデルのパーティーに誘われたまではよかった。正直なところ、これでもしかたら順風満帆な学園生活が送れるのではないかと期待もしていた。
だが蓋を開ければこのありさま。魔闘祭の予選、そこで覚えているのは自分が建造した砦をあっさりと破壊され、ランデルが何かを叫ぶ間に記憶を失ったということのみ。
次に目が覚めた時には全てが終わった後で、パーティーのリーダであるランデルは死亡。気が付けばパーティーは解散となり、今日この日までセリアは一人で過ごしてきた。
友人と呼べるものもA組内に何人かいたはずなのだが、ランデルが死んだときに近くにいた者として誰も近づきたがらない。自分自身も何があったのか知らないと言っても、暖簾に腕押し、糠に釘。一度根付いた疑心というのは簡単に消えるものではないのだ。
他のパーティーメンバーはそれぞれが優秀であるがゆえ、多少の気味悪さがあろうと他のパーティーへとすぐに移籍したのだが、セリアはそうではない。
魔建師というスタイルは、味方がいてこそのスタイルであり、珍しさはもちろんあるが、そのせいか他の魔術、例えば属性魔術などは他のスタイルに比べると劣ると言わざるを得ない。
うまくかみ合えば無類の強さを発揮するスタイルも、正しく運用できる者がいなければただのお荷物となってしまう。余計な風評被害も相まって、セリアは期末試験が迫るこの時期となっても、未だに新たなパーティーに入ることが出来ないでいたのだ。
「このままじゃ一人で実技試験うけなきゃだよね。そうなったらきっと私一人じゃ無理だから退学。そしたら家に帰されて、それであの人と結婚……」
下級貴族と言えどセリアも貴族の娘。その将来は家の繁栄に使われるものということは幼いころからわかっている事だった。
セリアもまた例に漏れず、学院を卒業後は他の貴族、伯爵家の子息と婚姻の予定となっているのだが、当然それも政略結婚だ。
子爵という貴族は非常に弱い。平民よりも立場は上だが貴族の中では下。言ってみれば中間管理職のようなもので、下からの不満と上からの要求にいつもその身を置いている不遇な立場と言っても過言ではないだろう。
それゆえ野心のある子爵家は上へのコネをなんとかして得ようとする。セリアの伯爵家との婚姻もまた、そのコネのひとつというわけだった。
「あの人気持ち悪いからやだな……」
将来を想像し、零れるのはそんな本音。もし誰かの耳に入ったらそれこそ大問題となる本音であったが、この場にはセリア以外いないのだから問題はない。
思い出したことを後悔するほどのセリアの結婚相手であるのは、エジャノック伯爵の息子である、アーリヒ・エジャノック。年は三十を超え、その若さで頭皮はだいぶ後退している。肥え太り、顔には年中脂汗浮かべているその姿は、お世辞にも美しいとは言い難い。
しかも貴族の男子ともなれば、早々に結婚をするのが通例なのだが、アーリヒが結婚できていないのにはそれなりの理由がある。
あまりにもその性格が陰湿なのだ。なにもこれまで妻を娶らなかったわけではない。その歪んだ性格ゆえ、一年と持たずにみんな逃げてしまったのだ。
そんな人物のもとに嫁ぐ。すでに父親は伯爵家とのつながりにしか目が言っておらず、意見を覆すことはないだろう。
もしそれを避けることができるとすれば、今在学しているルミエール魔術学院で優秀な成績を残し、王都の宮廷魔術師にでもなるしかない。
そうなれば自分の立場も上がり、婚姻も白紙になる可能性があったのだが、その可能性も今まさに消えていこうとしていた。
このままどのパーティーにも所属できなければ落第は必至。おそらくは期末試験を越えられず、一学期で退学となるだろう。そうなれば待ち受けるのはアーリヒとの結婚という二文字のみ。
暗い絶望しか見えなくなってきたセリアは、半ば本気で出家を考え始めていたのだが、希望というのはいつだって突然目の前に舞い込んで来るもの。
「あの、どうかしました?」
顔を上げたセリアを覗き込んでいたのは、茶髪のサイドテールを揺らした、小柄な女生徒だった。
◇
「というわけなんだけど、私たちのパーティーに彼女を入れてあげられないかな?」
夜の談話室。もはや通例となったその場所でのひと時に、パメラがつい最近見た顔を連れて来た。
「もしかしなくてもこの前の魔建師か?」
「もしかしなくてもその人だよ」
「へぇー、あの時はちゃんと見なかったけど、よく見りゃ結構可愛いな」
ほぼ初対面でそう言うリカルドがあまりに遠慮がないのは今に始まったことではないが、レインはリカルドの言うことも一理あると思った。
少し茶色の混じった黒髪をリボンで後ろで束ね、今は居心地の悪さにおどおどしているが、はっきりした顔立ちを見るに普段は快活で明るい性格なのだろう。身長も高く、横に並んでいるのが小柄なパメラのせいもあるが、スレンダーという言葉がよく似合う女性だ。男なら大半が食いつくと言っても間違いはないだろう。
思ったことを正直に言うのは美徳だが、それも時と場合による。現にそれを忠実になしたリカルドは、パメラに脇を小突かれ悶絶することになってたのだから。
「それはともかく、セリアは俺達のパーティーに入りたいということでいいのか?」
そんなリカルドを尻目に、レインは審判を待つかの如くびくびくしているセリアに聞く。
「は、はい!この前戦った身でこんなことを言うのも何ですが、できたら入れて頂けないかと!」
「いいのか?知っているとは思うが、俺達のパーティーの評判はあまりよくないぞ?」
レインはさらに忠告をする。実際、レイン達の評判は魔闘祭予選を終えてもまだ悪いままだった。これまでのF組であるレイン達の評判に加え、シャーロットをたぶらかしたというデマ。さらにはランデルが死んだ際に最後に近くいたものとして、謂れのない噂まで囁かれているのだ。本来ならこんなパーティーなど頼まれても入りたくはないだろう。
「それでもいいんです!私、このままじゃしたくもない相手と結婚しなきゃいけなくなるんです!!それに比べたら悪評くらいどうってことありません!!」
悲痛な叫びでそう訴えるセリアに、さらに詳細な事情を聞いたレイン達が満場一致で加入の許可を出したのはその三十分後の事。
後日、同じ話を聞いたシャーロットが無言でセリアを抱き締めたことにより、めでたくセリアのパーティー加入が正式に決まったのだった。
三日ごとの更新でお届けする予定ですので、また次回も読みに来てください。
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