表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/146

第40話 期末試験に向けて

第40話~期末試験に向けて~


 魔闘祭の無期限延期。


 その発表が行われた学院内では、信じられないという意見が大半を占めていたが、それと同時に仕方がないという意見も同程度あった。


 ランデル家の子息が魔力炉の暴走で死んだ。それが公に公表されたものだった。


 魔術師の根幹たる魔力炉だが、その歴史を紐解けばその暴走で命を落としたものは少なくない。それはランデルのように魔力炉暴走剤という外部からの要因を利用したものではなく、極限まで魔力を絞り出したゆえの結末。


 すでに枯渇した魔力をさらに引き出そうとしての暴走。壊れかけたエンジンを無理やり使い、オーバーヒートを起こす。つまりは魔力炉のオーバーヒート。それが魔力炉の暴走というものだ。


 暴走した魔力炉は魔術師を犯し、莫大な魔力を与える代わりにその命を奪い取る。一度暴走した魔力炉を抑える方法はなく、暴走した者は全てが死に至る。


 今回の件はそれが起こったということで処理されたのだ。


「真実は闇の中だな。流石に表には出せないにしても、なんかこう、もやもやするって感じだ」


「だよね。本当にランデル君死んじゃったんだよね……」


 七月に入り気温が夏本番を迎えようとしているルミエール魔術学院の中庭。そこでレイン、リカルド、パメラの三人が昼食を片手に話している。


 話題はもちろん先日の魔闘祭予選でのこと。魔力炉暴走剤によって暴走したランデルをレインが殺した一件。だが其の事実を知っているのはレインとシャーロット、そしてシルフィのみだった。


 他の関係者にはあの場を収めたのはシルフィであるとなっている。しかしリカルドとパメラは気づいていた。あの時の実際の光景は見ていないが、それでもあの場を収めたのはレインであるということを。


「聞かないのか?」


 それはレインも気づいていた。二人はまさかレインが五芒星の魔術師であるとは思っていないが、それでもはるか高みにいる魔術師であるということに気付いているということを。


 だからこそレインは二人に聞いたのだ。これまでもいろいろと思うところはあっただろうに、何も聞かずに俺と友人でいてくれた二人。


 正直なところ、レインは二人にはもう本当のことを話してもいいんじゃないかとも思っていたのだ。まだ四カ月弱という短い付き合いではあるが、レインは二人のことをかつての仲間と同じくらいに信頼するまでになっていたのだ。


 だからこそそう聞いたのだが、二人からの返事はやはり変わらなかった。


「言っただろ。レインが話したいときに話してくれたらいいってさ。お前がどんな奴であろうと今の俺達の関係は変わらない。だから好きな時に話してくれ」


「そうだよ。レイン君が強いのは最初からわかってるし、そのおかげで私は助けてもらえたんだもん。だったらそれ以上に聞くことなんてないかな」


「リカルド、パメラ……」


「それにな、今俺達が考えるべきはそんなことじゃない。そうだろパメラ?」


「うん、はっきり言ってそっちの方が重要だよ。だって」


 二人の言葉に感動しているレインをそっちのけで進む会話。一度言葉を切ったパメラは、レインの顔を見ると非情な一言を告げたのだった。


「一学期の最後。一年生で退学を決める人の内、ここが一番多いと言われるほどの鬼イベント。期末試験がもうそこに迫っているんだよ!!」


 パメラが言い放ったその言葉に、レインは案の定こう答える。


「期末試験って何をするんだ?」


 その言葉に、リカルドとパメラは揃って大きなため息を吐いたのは言うまでもない。


 ◇


 ルミエール魔術学院の期末試験は大きく分けて二部に分かれている。


 筆記試験と実技試験の二部。しかもただの二部制ではなく、合格制の試験となっているのだ。


 一日目にまず筆記試験を行うのだが、そこで合格点を得られた者のみが次の実技試験に進むことが出来る。そして合格点をとれなかった者に待ち受けているのは退学という二文字。


 そうこの学院における試験とは、まさに自身の進退をかけた試練と同義。そのためどの生徒も少しでもこの学院に残るため、入学から勉学はもちろん、自身の研鑽を怠ることはない。


「それでこれまで試験なんて受けたことがないから私の所に教えを請いにきたと」


 夜の学生寮。その中でも特に位の高い貴族や成績優秀者のみが住んでいる区画の一室。そこでゆったりとした部屋着を着たシャーロットは、まさかの来客に努めて平静を装いながらそう言った。


「迷惑なのはわかっているんだがな、シャーロットなら俺の素性も含めて知っているから余計なことを聞かれることもないと思ったんだが、ダメか?」


「だ、ダメとは言ってないわよ」


 無論ダメなはずがない。少なからず想っている人であるレインが自分の部屋に来てくれたのだ。平静をなんとか装うとはしているが、その心臓はばくばくだった。


 お、落ち着くのよシャーロット!レインはあくまで筆記試験のことを聞きに来ただけ!決してやましい気持ちなんてないのよ!!


 食事を終え、夜のゆっくりとした時間を楽しんでいたシャーロットの部屋にレインがやってきたのがつい十分前の事。


 突然やってきて勉強を教えて欲しいというレインを部屋に招いたはいいものの、部屋にレインがいるという事実にシャーロットは狼狽えた。


 部屋とは一番自分がくつろげる場所。それはすなわち自分の色が一番色濃く出る場所だ。その場所に、気になる異性がいる。心の準備もなにもしていなかった乙女の心情は推して知るべしであろう。


 しかしそれに対しなんの遠慮もしないのがレインだ。


「綺麗に片付いてるんだな」


「え、ええ、、そうか、しら?」


「ああ、俺の部屋はもう少し乱雑というか、散らかっているというわけじゃないが綺麗ではないからな。流石は公爵家の令嬢なんだろうな」


 普通は遠慮するであろう部屋を眺めるという行為。本来なら無遠慮とされる行為だが、シャーロットはレインに褒められたという事実にしか思考が向いていない。


 え、私褒められたの?なんだろう、なんかすごく嬉しいんだけど。


 なんとか抑えていた口角が持ち上がるのを感じ、慌てて表情を取り繕うがなかなかにうまくいかない。そんなシャーロットの影での頑張りを知ってか知らずか、レインはそれに気づくことはなく本題へと入っていく。


「それで試験についてなのだが」


「あ、し、試験ね!!」


「大丈夫か?体調が悪いのなら日を改めるが」


「だ、大丈夫よ!さぁ、何が分からないのかしら!?私が全部教えてあげるわ!!」


「そうか、ならよろしく頼む」


 一瞬怪訝な顔をしたレインであったが、それを力技で押し込んだシャーロットにより二人の夜の勉強会はその後一時間ほど開催され、レインが部屋に戻っていく頃にはシャーロットはいろいろと精神的に疲れ果ててしまったのだった。


 そのままベッドに崩れ落ち、眠ろうとしたところでふと気づく。


「女子寮って男子禁制よね?入り口や窓には侵入を防ぐ結界が張ってったはずだけど、レインは一体どうやって……」


 不可思議な現象に首を傾げるシャーロットだったが、疲れからくる眠さにまけて思考を打ち切り意識を手放したのだった。


三日ごとの更新でお届けする予定ですので、また次回も読みに来てください。

ブックマーク、評価の方して頂けると作者が泣いて喜びます。長く続く作品にしたいと思いますので、お手数ではありますがぜひよろしくお願いいたします。


広告下に私の他作品のリンクを貼ってありますので、そちらも合わせてよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
連載中である他作品、 【『この理不尽な世界に復讐を~世界に虐げられた少年は最強の龍となり神に抗う~』も引き続きよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ