第31話 予選 三
第31話~予選 三~
広大な魔闘祭のフィールドでレイン達が選択したのは荒野。というよりも選択させられたと言った方が正しいだろう。選択順は公平を期すためにくじ引きで行われるはずなのだが、どういうわけかレイン達のフィールド選択の権利は最初から一番最後にされており、残った荒野を選択するほかなかったのだ。
「あの審判。買収されてるわね」
「だよな。あいつ、一度もこっちを見ようともしなかったし、何よりランデルの野郎とアイコンタクトをとってやがった」
割り振られたフィールドに向かいながらシャーロットとリカルドがそう話す。もちろん選択順の不正などは許されるわけもなく、シャーロットは異議を唱えたのだが審判は嘲るような笑みを浮かべこう言ったのだ。
『これは正式な順番です。こちらの選択用紙にもフリューゲル様たちのパーティーが一番最後であることは明記されています。もし私に異を唱えるのであれば、これを覆す証拠をお持ちください』
順番の選択が終了すると、そこに不正がなかったことを確かにするために、各パーティーのリーダーがそれぞれ所定の用紙に順番を書きこむことになっているのだが、今回なぜかレイン達が誰も書いていないにも関わらず、そこにすでに順番の書き込みがされていたのだ。
もちろんレイン達が誰も書いていない以上、それが偽造であることは間違いないのだが、流石にそこにその用紙がある以上、いくらレイン達が書いていないと言っても水掛け論にしかならないどころか、下手をすればこちらが非難を浴びる可能性も考えられる。
それだけその用紙には魔法契約の要素があり、まさかそこに細工をされるなどと思ってもみなかったレイン達にはそれを否定するだけの材料が何一つないのだ。
「なんでそんなことを……?」
「そりゃ決まってる。ランデルはレインに恥をかかされたと思ってるんだ。俺に言わせれば勝手に突っかかってきて勝手にやられただけだが、それでもあいつにとっては屈辱だったんだろうよ。なんとか仕返しをと思っていたところにこの組み合わせだ。汚名返上も兼ねてレインを叩きのめそうとしてると考えるのが妥当だな」
「後は私へのアピールかしらね。あの人、しつこいぐらいにいろいろとアプローチをしてくるのよ。あそこへ行こうとか、是非家のパーティーに出席してくださいとか。あまりにもうっとうしいから、つい強く言っちゃったのも原因の一つかもしれないわ」
「ちなみに聞くがなんて言ったんだ?」
「そのしつこさに器の小ささが表れてるわねって」
「レイン、気を付けろよ。あの馬鹿、お前をマジで殺しに来るかもしれん」
いろいろな推測が出るが、とにもかくにもこの状況はレインが招いたこととみて間違いない。少なくとも三人はランデルに腹を立てているようではあったが、レインに対しては何も言わない。それがレインには嬉しくもあり、逆にこの状況を招いたことに対する責任を感じさせた。
「みんな、少し話があるんだがいいか」
やられたらやり返す。それがレインが戦場で学んだことの一つであり、絶対的指針。ここまでされたのだ。だったらランデルにはきっちりとその責任をとってもらうことにしようと、レインは今思いついた作戦を三人に伝えるのだった。
◇
五つあるフィールドの内、もちろんパーティーにとっての相性はあるが、一番不利とされるのは荒野だ。他の場所に比べて荒野は遮蔽物がなく、一度踏み込まれてしまえば相手からの視認性も高く容易に包囲される確率も高い。地形の利をいかそうにも、あまりに物がなさ過ぎて利用するものが困難と、この場所を選択した段階で勝率は五割を切ると言われるほどだ。
「だからそこを逆手に取る」
遮蔽物がなく、他のエリアからみれば明らかに不利な場所。加えてそこにいるのがF組が主となるレイン達のパーティーとなればこの場所に他のパーティーが一堂に会するのは自明の理。
「ほら、始まったぞ」
荒野フィールドから全力で移動するレイン達の耳に聞こえるのは、すでにはるか遠くから聞こえてくる魔術による爆発音と誰かの悲鳴。
どうやら事はレインの思惑通りに運んでいるようであった。
「でもなんであんなにあからさまな罠に気付かないのかしら?」
「要因が一つなら話は別だが、いくつもの心理的な罠があるからな。実戦経験の足りないやつがこれに気付くのは容易じゃないさ」
「それってもしかして、試合前にレイン君がランデル君を挑発したのも関係あったりする?」
「もちろんだ。意味も無いのに挑発するなんて具の骨頂だぞ?」
パメラが問うてきたのは、レインが試合前に全てのパーティーが一度フィールドの中央に集まった時のことだった。
参加メンバーが一堂に会した中、あからさまにレインを睨みつけるランデルに対し、レインは去り際にある一言を放ったのだ。
『弱い犬程よく吠えるな』
それはランデル以外にも聞こえるように調節された、囁くような声だったが、効果はあまりにてき面だった。一気に怒髪天をつく勢いで顔を赤くし、いまにも殴りかかってきそうだったランデルだったが、あの状態でよく持ちこたえたものだとレインは逆に感心したくらいだった。
「ランデルが総合魔術訓練の授業で俺に攻撃を止められ、あまつさえペナルティを受けたというのはすでに学院内では有名な話だ。俺にとっては嬉しくない話だが、それでもそれを利用しない手はない」
しかしこれだけでは周囲にこの戦いでランデルがレインを間違いなく狙うと確信づけるには弱い。それゆえの挑発だったのだが、レインの想像以上にランデルが誘いにのってくれたため、他のパーティーもランデルがレインのことを叩きのめそうとしているということには間違いなく気づいただろう。
「でも、どうしてこっちの方向は大丈夫なのかな?レイン君、絶対にこっちは大丈夫って確信してたみたいだけど」
「簡単なことだ。森林地帯にはA組がいる。誰もが避けたい方向に逃げようとする馬鹿はいない。他のパーティーはそう思っただろうな」
さらに遠くなった荒野で誰かがやられたと実況者が言っているが、すでにレインにはどうでもいいこと。自分の策が上手く嵌っていることにほくそ笑み、レインは見えはじめた森林を見据える。
レインはこの戦いを始める前に策を三人に伝えた。
『試合が始まったらすぐにパメラは全員に身体強化の補助魔法をかける。その後は全員で一気に森林に向かって走るぞ』
荒野エリアというのは先にも言った通り、どう頑張っても地の利が味方にはなりにくい場所だ。だったらそこで素直に戦う必要はない。それゆえのエリアの移動なのだが、当然それを他のパーティーが許すはずもなく、F組であるレイン達をすぐにでも潰したいと他のパーティーが荒野エリアに集まることは容易に想像できた。
荒野エリアはフィールドの中でも中央に位置しており、それも不利な要因の一つだ。三方から攻めて来たE組とB組が二組。それぞれのエリアから一気に荒野に向かって来れば、必然、全てのパーティーが荒野で相まみえることになる。
「一度出会えば戦う以外の選択肢はない。しかも三つ巴とくれば、どこも無事済むはずはないさ」
「だがどうして全員が一気に来るなんてわかるんだ?もちろんいくつかのパーティーは俺達を狙いに来ると思ったが、そんなの全員予想できることだろ?様子を見るパーティーがいてもおかしくなかったんじゃないか?」
「それはないな。あいつらは確かにリカルドの言う通りその予想は立ててたが、それを実行に移せるほど心が強くない」
他のパーティーにとってのレイン達は、言ってみればまさに不気味な存在なのだ。一緒にいるリカルドはその認識が少し薄れているようだが、其の辺りの情報を調べたレインにしてみれば他のパーティーがレイン達を不気味に思うのは無理もないことだと思っている。
まず一番は公爵家の次期当主と目されるシャーロットの存在。そして詳しくは調べなかったが、リカルドのアーチス家というどうにも他の貴族から下級貴族にも拘らず一目置かれている存在。そしてなぜかシャーロットに気に入られているパメラ。それに加えて魔術が使えないという話なのに、ドリントをはじめランデルをも下したと噂されるレインの存在。
これだけの不確定要素があるパーティーを誰が一F組の雑魚と思い楽観視することが出来ようか。一度疑念が生まれれば、危険と分かっていても先に倒してしまう方がいいと考える。
もし他のパーティーがいたとしても、ひとまずは共闘してレイン達を倒してしまおう。多分そう考えたのだろうが、それこそがレインの手のひらの上だ。
その考えを予測したレインはすぐに森林エリアに逃走する選択をした。森林にはA組のいるランデル達がおり、明らかにレインを敵視しているランデルのいる場所にレイン達が逃げるとは誰も思わない。誰もが思わないからこそそれを実行する。その策が見事に嵌った結果、他の三パーティーがつぶし合い、レイン達は無傷で荒野から森林に移動できたというわけだ。
「っ、氷壁!」
しかしそれはあくまで戦いの始めを乗り切ったにすぎず、本番がここからだということは森林に辿り着いたばかりのシャーロットがすぐさま防御魔術を展開したことからも明らか。
レイン達の目の前に現れた巨大な氷の壁に、森の中から放たれた何かが当たり鈍い音をたてる。それが二回三回と続くが、シャーロットの作った氷の壁が壊れる様子はない。
「リカルド、ここからの指揮は任せるぞ」
「まったく。一番面倒な選択をしやがって」
「なんだ見返したい奴がいるって言うからいいところを譲るって言ってるのに、嫌なら代わるが?」
「うるせぇよ!見てろよ!A組なんか完封してやるよ!!」
そう言うとリカルドはすぐさまつがえた弓に多量の魔力を込め始める。
「さぁ、開戦だ!」
勢いよく森の中に放たれたリカルドの魔力矢が遠くで轟音を立てるのと同時、レイン達は勢いよく森の中へ突入するのだった。
三日ごとの更新でお届けする予定ですので、また次回も読みに来てください。
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