第28話 魔闘祭に向けて
第28話~魔闘祭に向けて~
魔闘祭。
それはルミエール魔術学院における一大イベントであると言っても過言ではない。
魔術師というのは多かれ少なかれ自分の力を試す場を求めている。せっかく研鑽を積んだ力だ。それを試したいと思う気持ちはわかるし、何より貴族にとっては自分の力をアピールすることは何よりも大事なのだ。
だからといって平時の街中で大規模な魔術を使う場などあるわけがない。たまに魔物の大量発生などで機会はあっても、全員が全員それに参加できるはずもないのだ。
それを少しでも解消するためと学院が考えたのがこの魔闘祭と言われる行事だ。四対四のチームを組んだ魔術師による決められたフィールドの中でのデスマッチ。
そのフィールド内ではあらゆる武器や魔術の使用が認められ、いち早く相手チームの大将を倒した方が勝ちというシンプルなルールだ。
だがその人気は非常に高く、最初学生のみで始められたこの大会は月日がたつごとに大規模になり、現在では様々なクラス分けがなされていて、一般の人々が参加できるクラスまであるという学院が総力を上げて行う行事となっている。
開催されるのは十月最初の一週間。もちろん新入生であるレイン達にも出場の機会はある。あるのだが全員が参加してしまえば大会のキャパシティを超えてしまう。そのために行われるのが、六月終わりから始まる魔闘祭に向けての予選というわけなのだ。
「この予選で上位に食い込めば俺達にも魔闘祭への参加のチャンスがあるってわけだ。少しはわかったかレイン?」
そう言って一通りの説明をしてくれたリカルドだが、そこまで聞いてようやくレインはリカルドとパメラが興奮をしていた理由を察する。
F組の生徒、さらには下級貴族とはいえ貴族は貴族。それはリカルドとパメラといえど例外ではなく、自分の力を試したいという思いはあるのだろう。
だがレインにとってはそうではない。これまでの人生で、それこそその辺りの貴族の一生を足しても足りないほどの濃密な戦いの中に身をおいていたのだ。今更好んで戦いの中に身を置きたいとは思わないし、貴族でもないのだからわざわざ自分の力を見せつけたいとも思わない。
「なるほど。つまりこの大会でいい成績を残せば、二人の株も上がるってわけだな」
だからレインが思うのはその点に関することだけ。もしこの大会でそれなりのところに食い込めば、これまで自分のせいであまり周囲にいい印象を持たれていない二人の印象をよくすることが出来るかもしれない。それがレインがこれまで仲良くしてくれている二人へのせめてもの恩返しだと思ったのだ。
「レイン君、また余計なこと考えてない?」
「いいさパメラ。レインのそういうとこはもうわかってるからさ。どっちにしろやることは一緒だ。一つでも上に行って俺達の力をアピールする。それだけだ」
「まぁ、そうなんだけど。ところでレイン君、シャーロットさんは?」
なにやら今のレインの発言に対して思わしくない評価をされたようだが、二対一のこの状況では口で勝てると思わないし、藪蛇のような気もしたのでそれに対しては口をつぐむことにした。
「あれからいろいろシャーロットも大変そうだからな。授業には出ているようだけど、あんなことがあった以上一緒のパーティーってのも難しいんじゃないか?」
そう話すレインだったが、今回のシャーロット誘拐未遂の件の責任は明らかに謎の襲撃者なのだが、一部ではレイン達に非難の声が集まっているのだ。
F組の生徒なんかと一緒にいたせいでこんな事態になった。実際の現場を見ていたわけでもなく、むしろ何一つ事実を知らない生徒からの批判だったが、それでも非難が起きているのは事実。
もっとも当のレイン達は今更評判が下がったところでこれまでと何も変わらない。ドリントの停学の件で多少はマシになる可能性もあったが、それと打ち消し合ってプラスマイナスゼロといったところだろう。
だが三人はそれでよくてもシャーロットは違う。公爵家次期当主ともいわれるほどの人物だ。そんな人物がF組で、その上今回の事件の原因と言われる三人と一緒のパーティーにいることを許すだろうか。普通に考えれば答えは否だろう。
「となると、また新しいメンバーを探さないといけないな」
リカルドのその言葉に、レインとパメラもため息を吐きながら頷くのだった。
◇
「私、パーティーを抜ける気はないわよ?」
数日後に始まった魔闘祭の練習授業で久しぶりに会ったシャーロットの答えは、いろいろと考えていた三人にとっては衝撃的だった。
「いや、でも、いいのか?俺達と一緒じゃ家が黙ってないんじゃ?」
「あら、リカルドは私がパーティーにいるのは不満?」
「不満というわけじゃないが……、本当にいいのか確認しているだけだ。貴族の家の面倒さは俺のような下級貴族でも知っている。それが公爵家ともなれば面倒さは余計にあると思っているだけだ」
茶化すように返事をするシャーロットに、リカルドが冷静にそう答える。リカルドとてシャーロットがパーティーに残ってくれるのであればむしろそっちの方が非常に助かる。この時期から新たなメンバー探しなど難しいなどというものではない。すでに先日のオリエンテーリングで大方のパーティーは決まっているし、何度も言うがF組の自分達と組みたい奇特な奴などいるわけがないのだ。
だが、それでもリカルドがシャーロットの言葉を今一つ信じきれないのは、やはり貴族の難しさゆえだ。レインにはよくわからないが、それだけ先日起こった出来事というものが与えた影響というのはすさまじく、ましてシャーロットは公爵家の令嬢だ。周囲からの視線がどうなるかなど、馬鹿でもわかるというものだ。
「確かに私の周囲は少し騒がしいかもしれないけど、私は私のしたいようにするだけよ」
しかしそんなリカルドの心配をよそに、シャーロットはあっけらかんとそう言った。
「それに何も私はただの道楽であなた達とパーティーを組むと言ってるわけじゃないの」
「ど、どういうことですか……?」
「パメラ?敬語は無しって言わなかったかしら?」
「え、あ、ごめんなさ……、ごめん」
思わず敬語が出てしまったパメラにシャーロットが突っ込むが、どうやらシャーロットにもレイン達とパーティーを組む理由があるらしい。
「確かに最初はあなた達への興味だったことは否定しないわ。新入生の中である意味一番目立っている三人組。そこに興味がなかったと言ったら嘘になるもの」
「俺達目立ってるのか?」
「ええ、それはもう悪目立ちもいいところね」
自分の立場を正しく理解していないらしいレインにシャ―ロットがそう言い、さらに二人からはいつもの呆れた視線が突き刺さる。
「でも今はそれだけじゃない。この前の大森林であなた達と一緒に戦った上での判断よ。あなた達は強い。総合力では劣るかもしれないけど、得意分野であるならA組にも匹敵すると私は思っているわ」
そのシャーロットの言葉にパメラは目を見開いて驚きを見せる。リカルドの方は一見冷静さを取り繕っているようだが、内心は穏やかではないのだろう。
「リカルドは魔弓師としてすでに土台が完璧。もちろんまだまだ伸びしろはあると思うけど、きっとそこまでになるには相当の修練が必要だったはずよ。さすがはアーチス家ね」
家の話に少しだけ眉を寄せたリカルドだったが、それについて特に突っ込むことはなかった。藪蛇だと思ったのか、もしくは素直に褒められているのだから余計なことを言うのは躊躇われたのか。どちらかはわからないが、少なくともリカルドにとって悪い評価ではなかったのだろう。
「パメラは基本魔術なんかはまだもの足りなさは残るけど、でも魔奏師としての補助魔術は一級品よ。もともと少ないスタイルっていうのもあるけど、戦いの中で後衛としてきっちり役割をこなしているし、パーティーには一人は欲しい人材ね」
シャーロットの評価に、パメラは目がこぼれるんじゃないかというほどさらに大きく目を見開く。そして恥ずかし気に微笑むと、『ありがとう』と、消え入りそうな声でお礼を言って俯いてしまう。きっとそういった評価をされることに慣れていないのだろうが、レインから見てもパメラの補助魔術は優秀だと感じている。きっとこれからそういう機会も増える可能性は高いのだから、徐々に慣れてもらうしかないだろう。
「それからレインは……」
ここで初めてレインとシャーロットの眼が合うが、一瞬だけあった目はシャーロットが頬を染めて逸らしてしまった。
「言うまでもないわね」
しかも評価もどこか適当だ。だというのにリカルドとパメラも納得の表情なのだからやはりレインはどこか腑に落ちない。どうやら今日はそういう日のようだとレインは諦めることにしたのだった。
「そんなわけだから私は三人と一緒に魔闘祭を戦うつもりよ?いろいろ面倒はかけるかもしれないけど、よろしくね?」
そう言って笑顔で手を差し出してきたシャーロットに、レイン達は改めてシャーロットをパーティーに迎え入れるのだった。
一章最後のイベントとなる魔闘祭の予選がいよいよ幕を開けます。この大会でレインの実力が少しづつ見えてきますのでこうご期待ください。
三日ごとの更新でお届けする予定ですので、また次回も読みに来てください。
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