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第25話 シャーロットの胸中

第25話~シャーロットの胸中~


 フリューゲルという名に、最初は戸惑いと怒りを持っていたことは否定しない。


 生まれた時から公爵家の令嬢としての立場につき、そして身に余る期待を受けて育てられてきた。フリューゲルはハルバスの剣とまで言われるほどに魔術に秀でており、フリューゲルの家に生を受けた瞬間から、シャーロットの人生はレールに敷かれたものとなっていたのだ。


 最初の頃はなんとかその期待に応えようと毎日魔術の訓練に明け暮れ、気が付けばシャーロットは氷属性という稀有な魔術を扱えるようになっていた。


 基本の七属性の内、水の属性から派生したのが氷属性であるが、派生属性というのは基本属性に比べて非常に扱いが難しい。それゆえ世界を見渡しても使用できるものは少なく、小国であればそれだけで平民が宮廷魔術師になったという例すらもあるほどだ。


 もっともハルバス神聖王国、しかもその中でも筆頭貴族であるフリューゲル家においては流石にそこまでの持ち上げられ方をしなかったが、それでもやはりシャーロットにかかる期待が増えたのも事実。


 シャーロットには他にも兄、姉、そして弟や妹もいるのだが、幼くして抜きんでた才能を見せていたシャーロットは時期公爵家当主ともてはやされ、望む望まないに関わらず年を重ねるにつれて敵が少しずつ増えていった。


 特に兄や姉の嫉妬はすさまじく、命を狙われたと思われるような行為も一度や二度ではない。幼いなりに野心を抱えた弟に、一度は騙されかけたこともあった。


 家の中に信頼を置ける人など片手に数えるほどしかいなかったシャーロットだったが、それは家の外でも同じことだった。


 ルミエール魔術学院に通い始めるまで、シャーロットは王都の初等学校に通っていたのだが、そこでのシャーロットへの視線はおよそ年齢が二けたに達したばかりの子どもに向けるものではなかった。


 教師や周囲の親からは妬みや嫉み、そして触れてはいけないような腫物でも扱うような視線を受け、同年代のクラスメイトからもまた近寄ってはいけない存在として扱われていたことは記憶に新しい。


 きっと周囲の子どもたちは親に厳しくしつけられていたのだろう。あの子は公爵家の子どもであり、住む世界が違うのだと。もし何か不敬なことをしてしまえば、例えそれが貴族であろうとも一瞬にして首が飛ぶことになるのだと。


 だからシャーロットには友達と呼べる存在は一人もいなかった。従者としてアンリがいつも一緒にいてくれてはいたが、それはあくまで主従としての関係。友人と呼ぶにはあまりにその関係は遠く、シャーロットが望む関係とはかけ離れていたのだ。


 ただでさえそんな理由から信頼できる者もおらず、孤独に、そして日々襲い来る他者からの攻撃に耐えていたシャーロットだったが、その状況をさらに悪くする出来事が起こったのはルミエール魔術学院への入学一年前のことだった。


 魔眼。


 それは基本形からの派生魔術すらも遠く及ばない魔術の最奥の一つ。原理も原因もわからない魔術の神秘であるそれは、ある日突然にシャーロットの瞳に宿った。


 最初その眼を得た時、シャーロットは自分がついに狂ってしまったのかと錯覚し、大いに取り乱してその時に屋敷にいた者達を驚愕させた。後にその眼が魔眼と知るも、シャーロットの困惑は消えることはなく、またその魔眼の力を知りさらにシャーロットの精神はダメージを負った。


 魔眼の力は多種多少。そんな中でシャーロットの魔眼の力は魅了だった。その力はざっくり言ってしまえばその眼で見つめた相手を自身の支配下に置いてしまうもの。もちろん相手の抵抗力や、シャーロットの熟練度によってその力に大きな差がでるものの、それでも他者からすれば脅威に他ならない。もしその支配が完全であれば、それだけで相対した敵を死に至らしめることも可能なのだ。


 シャーロットが魔眼を持つという情報はもちろん秘匿され、公爵家の力を用いて全面的に箝口令が敷かれたが、全てを封鎖することは不可能。詳細はわからずとも、シャーロットが魔眼を持つことは段々と知るところとなり、ますますシャーロットの周りからは人がいなくなった。


 そんな時に現れたのがレインという、いかにも平凡で、しかも後で聞けば貴族ですらない少年。学院の入り口で門番に入るのを止められていた彼に話しかけたのは本当に気まぐれだった。


 ただなんとなく。今思い出してもそれ以外の理由に思い当たるところはない。ただ気まぐれに門番との間を取り持っただけだったが、その気まぐれはシャーロットにとってまさに転機ともとれる気まぐれとなった。


 無駄に自分のことを覚えられて後で付きまとわれるのも面倒と使った魅了の魔眼だったのだが、なんとその少年はあっという間にそれを看破し、しかもレジストまでして見せたのだ。


 これまでシャーロットの魔眼に対して抗える者など一人もいなかった。それを知った人々はシャーロットに魔眼の仕様を極度に制限し、例え家族であろうとも目を合わせようともしなかたのだ。


 しかしレインはそれを成した。しかもあろうことかレインはすぐに魔眼に気付き、それに忠告すらしてきたのだ。


 シャーロットの心はこの瞬間にレインに惹かれたと言っても過言ではない。これまであらゆる人に避けられ、そして忌避すらされてきたシャーロットを受け入れてくれるかもしれない少年。


 だからこそシャーロットはレインと少しでも仲良くなりたかったのだが、それはなかなかうまくいくことはない。


 まず第一にクラスが違う。シャーロットは家柄的にも実力的にもA組の生徒であったのだが、あろうことかレインはこの学院でも最底辺と言われるF組だったのだ。


 シャーロットはその事実に愕然とした。というよりもあり得ないと思った。自身の持つ魔眼をレジストした存在が実力のないF組などありえないと思ったのだ。魔眼への抵抗力とは、それすなわちその者の魔術への抵抗力に他ならない。これまで王国の剣とまで言われるフリューゲルの家の者であっても誰一人レジストしえなかったシャーロットの魔眼。それをレジストしたレインがF組などありえないとはずだった。


 だがその後もレインに対しては魔術がろくに使えないなど、およそシャーロットの思うレインの印象とかけ離れた噂ばかりが聞こえて来ていた。


 そして起こったのだがあの食堂での一幕だ。伯爵家の子息であるドリント・マッケロイが、レインに対してあろうことか学院を出て行くように迫ったのだ。


 当然シャーロットはそれを見過ごすことなどできるはずがない。後ろで何かを言っているアンリの言葉を無視し、二人の間に入ろうとしたのだが、その時に信じられない出来事が起こったのだ。


 突如として溢れる濃密な殺気。その出所がレインであると気づいた時、シャーロットはその場から逃げ出したい気持ちにかられた。だがそこでシャーロットは諦めない。端から見れば平然としていたシャーロットだが、二人の間に割って入ったその胸中は冷や汗しかなかった。


 押し潰されるのではと思うほどの濃密な殺気。その殺気を真正面から浴びたシャーロットは、やはりレインがF組の生徒であるとは到底思えなかったのだ。


 その後、なんとか場を収めたものの、そんなシャーロットに浴びせられたレインの言葉はシャーロットの心を深くえぐった。


『あんたのやり方は好きじゃない』


 振り狩ることなく立ち去るレインに、シャーロットは酷く心を乱され、それからしばらくの間何も手につかなかったほどだ。


 だがそこでシャーロットは諦めない。その後もなんとかレインに近づくチャンスを探し続け、そして見つけたのだ。きたるオリエンテーリング。そこで行われる学院の保有する大森林での新入生に与えられる険しい課題。


 幸か不幸か、レイン達の評判はすでに新入生の中でも悪いものになってしまっており、既定の人数である四人に届く見込みがなかったのだ。


 だからそこに付け込んだ。レインにはきっと嫌がられるかもしれないが、それでもシャーロットはなんとかレインに近づきたかったのだ。すでにあまりいいものになっていないシャーロットの印象だが、同じパーティーになり少しでも一緒に過ごすことが出来れば変えることが出来るかもしれない。そう思ったからの少し強引な加入の申し出だったのだが、果たしてそれはうまくいった。


 レインのパーティーへの加入が決まった夜、シャーロットはまるで夢が叶った少女のように喜んだのだった。


 そんな浮かれた気持ちに対してきっと罰が当たったのだろう。


 王国内に不穏分子が紛れている。すでに将来を嘱望される魔術師が何人も行方不明になっている。未だにその影はつかめていないので、十分に気を付ける様にと言われたのはつい最近だったはずだ。


 だがシャーロットは内心で奢りがあった。すでに高位の魔術師にも引けを取らない氷魔術。さらには希少な魔眼の使い手である自分であれば、その辺の不審者ごときに遅れをとることはない。そのおごりが招いた結果がこれだ。


 バイコーンとの戦闘中に現れた乱入者に瞬く間に連れ去られるという失態。加えて何か痺れ薬でも嗅がされたのか動かない体。どうなるのかは分からないが、少なくとも今までの生活には戻れないことは確実だろう。


 友達もなく、信頼できるものもいない誰からも疎まれ続けたこれまでの人生。それならそれもそれでいいかと思った矢先だった。


「殺しはしないが腕の一本や二本は覚悟してもらおうか」


 シャーロットを放り出した何者かが突如として追いついたレインに襲い掛かり、そしてなぜか顔面へダメージを受けるという目にも止まらぬ速さで起こった事態。


 理解は出来ない。何が起こったのかもわからない。だがシャーロットは静かにたたずむレインに対し、改めてこう思ったのだった。


 この人しかいないと。


三日ごとの更新でお届けする予定ですので、また次回も読みに来てください。

ブックマーク、評価の方して頂けると作者が泣いて喜びます。長く続く作品にしたいと思いますので、お手数ではありますがぜひよろしくお願いいたします。


広告下に私の他作品のリンクを貼ってありますので、そちらも合わせてよろしくお願いします。

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連載中である他作品、 【『この理不尽な世界に復讐を~世界に虐げられた少年は最強の龍となり神に抗う~』も引き続きよろしくお願いいたします。
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