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第23話 馬鹿者三度現れる

第23話~馬鹿者三度現れる~


 オリエンテーリングが始まって三日。レイン達は課題となっていたピクテ草の自生する地帯にようやく足を踏み入れようとしていた。


 ようやくといったものの、オリエンテーリングの期間が一週間に設定されていることを考えれば、レイン達のペースは非常に順調なものであると言って差し支えない。本来であれば上級生たちでも森の外周を抜けるのに平均して四日ほどかかることを考えれば、レイン達のペースがどれだけ早いかが分かるというものだ。


 ここまではトラブルというトラブルもない。強いて言うなら公爵令嬢であるシャーロットが、野営という慣れない環境に初めは戸惑いを見せたという非常に平和な一幕があったくらいで、世間一般からして危険地帯と言われる大森林のなかでは穏やかな行軍であったとしか言えない状況だ。


「リカルド、そのピクテ草っていうのがどんな薬草なのかはわかるの?」


「ああ、幸い家が保有している山に少ないけど自生してたからな。おかげでピクテ草なら見分けはつく」


「それは運がよかったわ。ねぇ、パメラ」


「う、うん!無事に課題が突破できそうでよかったよ」


 この三日の間にシャーロットと二人の距離は少なからず埋められていた。最初こそ声色に警戒の色が残っていたリカルドは、内心はともかく表面上はシャーロットと普通にはなせるようになっていた。パメラも未だに言葉をつっかえることは多いが、それでも普通の会話に困らないくらいにはなっていたのだ。


 A組とF組の生徒が行動を共にする。レインがこの学院で見て来たものからすれば異常なこの光景だが、それでもこうしてその異なるクラスの生徒が偏見なく一緒に行動することが出来る。その事実だけでもレインはこの行事を行う意味があると考えていた。


「お、噂をすればってな」


 ピクテ草の自生する条件は未だ分かっていないが、ある程度の魔素が多い場所に生育するということがわかっている。確かにこの大森林は魔物が多いが、それでもピクテ草の生育することが出来るレベルの魔素となると、やはり中腹近くまで潜らなくてはならなくなる。


 リカルドが周囲を警戒しながら近づいた先にあったのは、緑の葉にやや赤みを帯びた足首程までの高さの薬草の群生地。どうやらそれがピクテ草だとわかったシャーロットとパメラもまた、リカルドと同じく周囲の警戒はそのままにそこに近づいていく。


 その様子にレインは小さく感心の声を上げた。レインとは違い、多分だが三人に戦場の経験などないはずで、やっと目的のものを見つけたこの場面、しかも大森林という極度の緊張を強いられるこの場所にいる以上、ピクテ草の発見というのは心に隙を生む大きな原因となるはずであった。


 安心し気が緩む。三人の経験値を考えれば無理もないこの状況であってもそうならなかったその様子に、レインは不思議に思いながらも素直にそれを賞賛していた。


「ピクテ草は根を傷つけると一気に品質が落ちる。だから周囲の土から掘り起こして根ごと採取するんだ」


「詳しいのね」


「言ったろ。家の山にピクテ草が自生してるって。当然、採取した経験だってあるさ」


 土を掘り、課題となっていた一人一株のピクテ草を採取し、後はゴール地点へ戻ればこのオリエンテーリングも終わり。そう思い、先が見えた時が一番危険とは誰が言った言葉だろう。


「全員構えろ!!」


 突如としてレインが叫んだ先。そこにいたのは一匹の魔物だった。その姿は馬そのものだが、大きさが通常の馬よりも二回りは大きく、鼻息も荒くレイン達を見据えている。そして何よりも特徴的なのはその頭部に生えた二本の角だ。左右対称に見えるほど綺麗に、まるで刃物かのように光るその角はある魔物の身体的特徴でもある。


「ば、バイコーン!?」


 パメラがそう呟き、その声に恐怖を載せた。バイコーン、つまりは双角の獰猛な魔獣がレイン達を見据え、今にも飛び掛からん威圧感を纏いこちらを睨んでいる。


「落ち着いて」


 浮足立つパメラ。リカルドも声こそ出さないものの、それでも弓を握る手に力が入っていた。だがそれも仕方がないことだろう。バイコーンとは、大森林における魔物の中でも中位に位置し、その住処は森の中腹、どちらかといえば深部に近い場所だ。


 魔物の強さが大森林の生息域の深度に比例する以上、新入生であるレイン達にその相手は荷が重すぎると考えるのが道理。それゆえの二人の動揺だったのだが、静かな、しかしはっきりとした一声でその雰囲気を収めたのがシャーロットだった。


「大丈夫よ。これまで通り、しっかりと連携をすれば勝てない相手じゃないわ」


 そう言うとシャーロットは一歩前に踏み出す。すでに鞘から引き抜かれた細剣は、バイコーンを捉えている。


「私が引き付けるから二人は援護をお願い」


「大丈夫か?」


「ええ、これでも引き際は心得てるつもりだし、一応は私もA組の生徒だもの。少しはいいところを見せないとね」


 リカルドの言葉に軽い口調でそう返したシャーロット。その様子に落ち着きを取り戻したリカルドは弓に矢をつがえ、パメラもまたフルートに口をつける。


「行くわよ!」


 一直線にバイコーンに向かって駈け出したシャーロット。もちろんそれに対し、すぐさまバイコーンも応戦の体勢をとる。バイコーンの基本的な戦術は、その二本の角を主軸とした突進と、その強靭な足から繰り出される蹴り技だ。


 馬という速力から繰り出される突進はまさに破格の威力を誇り、加えてその双角による攻撃が加われば、巨大な岩山すらも砕いてしまうほどの威力となる。


 だが逆に言えば、その突進力を奪ってしまえばその脅威は半減されると言ってもいい。


「氷土」


 駈け出したシャーロットが使用した魔術はなんてことはない、地面を一部を凍らせるという非常に単純な魔術だ。バイコーンにダメージを与えるどころか、本来攻撃に使うはずもない魔術。


 だがそれも使い方次第では凶器へと変わる。氷土が使われたのはバイコーンの足元。スピードを上げようとしていたバイコーンの足は、突然凍った地面によって踏み込む力を弱められる。氷により滑る足は力を逃がし、バイコーンの突進力を鈍らせる。


「疾ッ!」


 その隙を逃すリカルドではない。先ほどまで戦っていたキラーバットとは違い、つがえた矢に魔力を込めバイコーンに向け放つ。


「ナイスよ!」


 その矢はバイコーンの右前足に刺さり、ただでさえ氷に足を取られて鈍っていた動きを致命的に鈍らせた。


 リカルドの矢が放たれると同時、パメラのフルートによる音色がシャーロットの体を包み、バイコーンとは逆にさらにスピードを加速させる。


「氷結」


 再度発現するシャーロットの魔術。その魔術はリカルドの矢が刺さり、出血をしている足と逆の足を凍らせその動きを完全に止めた。


 決まる。


 レインはその連携に素直に賞賛の意を示し、他の三人もまた、今まさにバイコーンの目前に迫ったシャーロットの細剣がその命を刈り取ると思った瞬間だった。


「ファイアボール!!」


「避けろ!!」


 突如として横合いから飛んできたのは軽くレインの体の大きさはあるかという火球。それが今まさにバイコーンに肉薄していたシャーロット達に迫ってきていたのだ。


 その火球をいち早く察知したレインはシャーロットに叫び、シャーロットもまたそれを聞き咄嗟に回避を行ったおかげで直撃は免れた。


 しかし事態は深刻の一途をたどる。今まさに倒す寸前にまでいっていたバイコーンは、火球の直撃を受けるもさしたるダメージはない。それどころか火球のせいでシャーロットの氷は溶かされ、再びバイコーンは動ける状況となってしまっていたのだ。


 レインはそんな馬鹿げた行為を行った者に対して視線を向ける。確かに自分たちをつけていた者達に気を配っていたが、まさかこんな愚かな行為をするとは思ってもみなかった。レインはともかく他の三人に気付かれることなくここまで尾行を続けていたのだから、それを成した者は間違いなく手練れ。そう考えて居たがゆえの油断。


「はぁーっはっは!!フリューゲル様!この私が来たからにはもう安心です!!」


 レインが睨みつける視線の先にいたのは、お供らしきみるからにガタイのいい学生を引き連れた馬鹿者、ドリント・マッケロイその人だったのだった。



タイトル通り再び馬鹿者が登場しました。どうしてここまで愚かな行動をとる姿が型にはまるのか。ドリント、残念な男です。


三日ごとの更新でお届けする予定ですので、また次回も読みに来てください。

ブックマーク、評価の方して頂けると作者が泣いて喜びます。長く続く作品にしたいと思いますので、お手数ではありますがぜひよろしくお願いいたします。


広告下に私の他作品のリンクを貼ってありますので、そちらも合わせてよろしくお願いします。

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連載中である他作品、 【『この理不尽な世界に復讐を~世界に虐げられた少年は最強の龍となり神に抗う~』も引き続きよろしくお願いいたします。
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