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第134話 スパイを手に入れる

第134話〜スパイを手に入れる〜


「今はまだ、俺はお前達のことを誰かに話すつもりはない。この商会でのことも、組織のことも限られた人間にしか話さないつもりだ」


 キドニー商会のジェニーの執務室の中、レインはシャルフとジェニーにそう告げた。


「正直なところ、情報が圧倒的に足りなさすぎる。少しはシャルフに聞いて組織のことを知れたが、全容を掴むにはまるで情報量が足りないと言わざるを得ない」


 組織の概要はわからないが、本拠地が西側の大陸だとすれば、帝国が絡んでいる可能性は高い。もし帝国が絡んでいるとするならば、やはりその狙いは龍穴と世界の支配となるはずだ。


 第二次魔導大戦を経て、ようやく手に入れることができた平穏。レインはそれを再び戦乱の世にしようとしている帝国のやり方に賛同できるはずがない。


 あの戦争で全てを奪われ、そしてその悲惨さを目の当たりにしてレインは今ここにいるのだ。もう二度と、あんな悲劇を起こさせるわけにはいかない。そう思うからこそレインは組織のやろうとしていることを止めたいと思っていた。


 だからこそ利用できるものは利用する。組織がすでに世界に盤石の基盤を作っているのなら、その基盤を利用することで相手の勢いを削ぐ。


「僕たちにスパイになれってことかな?」


「そういうことだ。ここへの俺の侵入は現状お前達二人以外は知らない。ここで余計な騒動を起こさなければ今夜ここでは何も起きなかったことになる。お前たちは明日からもいつも通りの日常を過ごせばいい」


「組織が見逃すとは思えんが……」


「そこはお前たち次第だ、俺からすれば仮にばれたとしても、組織の一部が潰れることになるのだからそれはそれ。その選択をするのはお前たちの自由だよ」


 突きつけられる二択にシャルフとジェニーの選ぶ答えは決まっていた。


「具体的にどうすればいい?」


「できるだけ組織の情報を探れ。どんなに小さなことでもいい。拠点の一つ、構成員の素性。何かわかれば俺に連絡をしろ」


「連絡の手段は?」


「この商会の規模なら通信用の魔石くらいあるだろう?それを使えばいい」


 レインのその提案にジェニーは苦虫を噛み潰したような顔をするが、何もいうことは無かった。通信用の魔石は非常に貴重であり、それを一対手に入れるだけでも相当のコストがかかる。


 確かにキドニー商会には通信用の魔石のペアが五つほどあるが、これは万が一の時のためにジェニーが長い年月と莫大な金を注ぎ込み集めたものだ。


 その二つを使うというのは、キドニー商会の数年分の利益を使ってしまうことに等しい。


 できるなら断りたい。だがそれをするという選択肢はすでにジェニーからは剥奪されていた。


「……わかった。すぐに用意しよう」


「そうしてくれ。それからわかっていると思うが、ゴースデル商会から買っていた半魔人の情報、並びにここから先の販路を知っているだけでいいから資料として用意してくれ」


「……わかった。すぐに用意する」


 一度従うと決めた以上、余計な駆け引きは必要ない。ここでレインの機嫌を損ねれば、それこそどうなるかはわからない。それに自分たちがレインの言う通りにしていれば、当面は今の日常が変わることはないのだ。


 時間と共に事態が悪化する可能性の方が高いが、それでも時間さえあれば考えることも、それこそ何かしらの手が打てるかもしれない。


 様々な計算のもと、ジェニーはレインに言われた通りの通信の魔石や資料の準備を始める。


「僕はどうすればいい?」


 そんなジェニーの様子を見て、シャルフもまたレインに自分のすべきことを尋ねた。


「お前はそのまま組織の中でのポジションを確立しろ、幹部らしいが、それだけの情報しか持っていないということは、まだ組織内での重要性は高くないということだ。少しでも上を目指し、そこで手に入れた情報を俺に流せ」


「簡単に言うけど、それすごく難しいことだってわかってる?」


「そんなことは俺には関係ない。さっきから言っているが、俺にとってはお前なんてどうでもいい存在なんだ。ただ利用できそうだから利用している。それ以下でもそれ以上でもない。気に入らないなら今この場で殺してやる」


「……了解。死に物狂いで上を目指すよ」


 何かの要求を突きつけてくる方がまだ交渉のしようもあるが、最初からどうでもいい上に、特に価値を見出してもらってないのならその限りではない。


 レインにとってのシャルフの重要性などまるでない。組織の情報を知ることのできる可能性が少しでもあるならそれでいい。失敗しても別にたいした問題ではない。


 それはレインの圧倒的な強さがあるからこその対応。もしこれでシャルフが組織に密告、そうでなくともスパイがバレればその矛先はレインに向かうことになるのは必死。


 だがレインはそれすらもどうでもいいと言っているのだ。誰がこようとも別に関係ない。むしろ情報源が来てくれるのだから、願ったり叶ったり。そのくらいのことは考えていても不思議ではないのだ。


 そんなレインに必要とされる存在になるには、求められたことをこなすしかない。幹部になれただけでも相当の幸運だったが、ここからさらに上を目指すのはまさに至難の技。それでもシャルフに残された道はそれしかないのだ。


 おそらくだが、レインはこの後シャルフが逃げたところで追ってはこないだろう。ただシャルフという存在を表に報告し手配をする。


 それをされてしまえばシャルフは仮に逃げることができても生活がままならなくなる。レインがゴースデル商会からここへ来たということは、今や世界最強の国であるハルバス聖王国から来たことに間違いないのだ。


 もしその国に手配をかけられればとてもじゃないが普通になど暮らせない。加えて間違いなく組織の粛清対象になることは目に見えている。


 つまりシャルフにとっても選択肢など最初から一つしかないということだ。レインに従い、レインのために自分の力を使う。もしそれが出来なければ破滅するだけ。


「通信魔石だ。二ペアある。我々が一つずつ、君が二つ持っていれば私たちからいつでも連絡を受け取れる」


「資料は?」


「これがゴースデル商会との取引記録。そしてこっちが買い取った品を流した先だ。港のこの船にいつも運び込むように言われていたから相手の情報はわからない。だが、船体についていたエンブレムを見る限り、リオット商会の物ではなかったのは確実だ。第三者が仲介に入っていると見て間違いない」


「なるほど、確かに資料の通りだな」


 レインはジェニーから渡された資料をめくりながら、今の説明との矛盾はないことに頷いた。


「お前はこのエンブレムに見覚えはあるか?」


「見せてくれるかな。あぁ、これは僕も知ってる奴らのものだ。スカルチーム。主に暗殺や襲撃を得意とする血が大好きなイカれ野郎たちのチーム。組織でも僕のような斥候や警護がメインのチームとは相容れない存在だね」


 侮蔑を込めたシャルフの言葉から察するに、組織も一枚岩というわけではないのだろう。世界中に根を張る組織ともなれば、その規模は察してあまりある。それを同じ思想を持つ集団にまとめることなど不可能。派閥のようなものができてしまうのはむしろ当然のことと言える。


「となると俺の次の目的はこいつらだな」


「一応忠告しておくけど、こいつらは強いよ?血が大好きなイカれ集団だけあって、戦闘においてはアホみたいに強い。少なくとも僕は正面からの戦いを選びたくはないかな。認めたくはないけどね」


「なら俺も一応聞くが、お前から見てこいつらに俺が勝てないと思うか?」


「……それはない。もしスカルチームが絶対に勝てない存在なら、君は出会いたくもない存在だ。悪いけど、比べるまでもないよ」


「なら何も問題はない」


 そういうとレインはそれ以上のことは何も言わず、ジェニーの執務室を後にする。残された二人は去っていく後ろ姿に何かをいうことなどできる筈もなく、己のこれからに思考を巡らせるのだった。


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連載中である他作品、 【『この理不尽な世界に復讐を~世界に虐げられた少年は最強の龍となり神に抗う~』も引き続きよろしくお願いいたします。
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