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第127話 マリット海洋王国の港町

第127話〜マリット海洋王国の港町〜


 降り立ったのはマリット海洋王国の中でも山岳地帯に位置する場所。目立たないようにとその場所を選んだはいいが、この場所は目立たない代わりに人里から離れすぎていた。


『主人よ!?少しペースを落としてもいいのではないか!?』


「着いてこれないなら無理に来なくていい。元から一人で行く予定だったからな」


 龍であるファフニールが根をあげるほどの行軍スピードでもって山間を疾走するレイン。レインがここにきた目的は、ゴースデル商会が販売した半魔人の買い手を突き止めること。


 そのためにはまずは人里に出なければいけないのだが、そこに行くにはそれなりの距離がある。それゆえにレインはほとんど休みなく行軍を続けていたのだが、そのスピードは尋常ではない。


 五芒星の魔術師として身体強化を極めたレインのスピードは、まさに目にも止まらぬ速さと言っても過言ではない。そのスピードで疾走するのだから、いかに龍のファフニールとて根をあげるのは致し方ないのだ。


 しかしそれでもレインはスピードを緩めることはない。先ほどレインの持つ魔道具の一つ、通信石に連絡が入ったのだが、やはりシャーロット達へ刺客が送られてきたとのことだった。


 すでに撃退したとのことだったが、この先も同じようにうまく行くかはわからない。そのために宮廷魔導士であるファニアスを呼んだのだが、いかにファニアスと言えども相性というものは存在する。


 飛翔魔術と放出魔術による絨毯爆撃による殲滅がファニアスの得意戦術であり、もちろんそれ以外の戦闘もできるがやはり得意なことを考えれば細かい防衛や護衛などには向いていない。


 それでもファニアスを頼ったのはこの局面で頼れる者が他にいなかったからだ。


 頼みのシルフィはすでに膨大な量の仕事を抱えておりこれ以上の負担はかけられない。ならば他の者をとも思ったが、今回の組織に対するにはいずれも力不足か門外漢。


 レインが自分の正体を隠しているが故に交友関係が少ないことも災いし、ファニアス以外に適任者がいなかった。もっとも、宮廷魔導士であるファニアスの護衛など、本来贅沢すぎるのだが万全を期すためにはやはり不安は残る。


「とっとと終わらせて戻ろう」


 レインだけならどうとでもなるが、シャーロットのことを考えれば元を潰す必要がある。不可抗力とは言え巻き込んでしまった形になったのだから、しっかりと身の安全を図るのが巻き込んでしまったものの務め。


 シャーロットが聞けば怒りそうなことを考えながら走るレインだったが、密入国から一時間もする頃にはマリット海洋王国の港町が見えるところまでやってきていた。その速さからレインがどれだけの速度を出していたかが察せられるが、それを知るのはファフニールのみであり、かつ龍であるファフニールが息も絶え絶えになっていることからもその速度が尋常ならざるものだったことへの予測は容易だ。


「確かキドニー商会だったな」


 クラリッサから聞いた情報によれば、ゴースデル商会が取引を行っていた商会の中で唯一その商品が不明だったところがマリット海洋王国のキドニー商会だったということだ。


 ことの経緯を考えれば半魔人の販路はキドニー商会である可能性が非常に高いが、ハルバス聖王国の一近衛騎士団員であるレンデルやクラリッサでは他国の商会を調べることはできない。


 故にレインがここにきたのだ。自身が敵対している組織であり、かつ身内を狙われていることもある。さらに言えばゴースデル商会の地下で戦ったあの吸血鬼の少女。


「全部潰す必要があるな」


 最初から最後までやり口が気に入らない。黒幕が誰であれ、その秘密を守るために村人を全て殺す所業、口を塞ぐためならやり方を問わない姿勢。人を人とも思わず実験の材料にする非道さ。


 その全てがレインの怒りを買うには十分だった。吸血鬼の少女と弟は、レインの信頼する者に預けたのだが、どうやら姉も弟もあそこで魔物と合成をされたらしい。


 半魔人としての成功例。レポートを見る限りはその事実で間違いはなく、未だ容態を見ている最中だが普通に戻れる可能性は低いそうだ。


 そんな姉弟のような人々がまだ他にもおり、しかもそれらはこのマリットに売られていた。その事実だけでレインは全てを殺しても治らないほどの怒りを覚える。


 あの時、なぜレインはあんな命がけの戦場で戦っていたのか。もちろんアーノルド達と肩を並べたいという思いもあったが、それよりも何よりももう自分のように全てを失うような思いをする者が出て欲しくないと思ったから。だからこの戦争を終わらせて、早く平和な世界にしようと思ったのだ。


 だがその世界も蓋を開けてみれば真っ黒な闇がうごめいている。戦争が終わったのに、人々は未だ争いをやめる気配はない。レインの望んだ平和な世界からは程遠い蛮行が自分の生活圏ですら行われている。


 何もレインは救世主や英雄を気取っているわけではない。ただあまりに今の平和を手に入れるために失われた命を軽んじている者がいる。


 戦場の最前線に立ち、多くの命を奪い、そして掴み取った平和を汚している奴らが心底気に入らないのだ。


 だからこそ国が違うからと言って引くわけにはいかない。引く理由もない。さらにはせっかくできた友人を狙われているのだからただですますわけにはいかない。


 様々な思いを抱え突き進むレイン。その眼前に広大な海と一際大きな港町が見えてきたのは、密入国してから二時間ほどが経過した時のことだった。


 ◇


 マリット海洋王国の玄関口とも言える港町。その名はシーボル。他の国に対して唯一国へ入ることを許している港だけあって、その規模は他国の港とはサイズからして一線を画している。


 大型の帆船がいくつも並び停泊している様子はまさに圧巻の一言であり、もし船が好きな者がこの光景を見るならば歓喜に包まれることは容易に想像がつく。


 大型の船が多いということは、それに伴い人も増えるということ。故にこのシーボルには多くの人が滞在していることに加え、それをもてなす人も多い。つまりは人口も非常に多いのだ。


 まさにマリット海洋王国の人口密集地。それこそがシーボルであり、あらゆる国の文化が行き交う街なのだ。


「これだけ人がいて、かつ品物が多ければ半魔人の密輸も容易だろうな」


 人混みに紛れ込みながらレインは街の様子を観察しつつそう呟く。


 何せこのシーボルはマリットの玄関口だけあって、他国との輸出入が頻繁に行われている。それこそ小型の荷物から時には小さな家ほどの大型の荷物まで。食糧に始まり生き物までと、荷物として運ばれる物の種類には事欠かない。


 だとするならマリットの検疫さえ越えてしまえば、ゴースデル商会が密輸をすることはなんの問題もなかったのだろう。たとえそれが半魔人という合成獣だったとしても、あらかじめマリット側のキドニー商会が裏で手を回せば検疫という最後の国境線も素通りだったに違いない。


 シーボルの目抜き通りを歩きながらレインはそう予測を立てる。ハルバス聖王国は世界有数の大国であるが、どちらかと言えば聖教会という統一された意識が強く仲間意識が強い。それはいいことでもあるが、逆に言えば異なった文化の流入を妨げることになる。


 だがマリット、しかもこの玄関口であるシーボルは様々な種族が行き交っており、それに伴い同じ街であるにも関わらずまるで他国に紛れこんだかのようにエリアによってガラッと街の雰囲気が変わるのだ。


 レインが今いるのはそれまでのレンガ作りの建物群とは打って変わり、木造建築が主流となっているエリア。この作りはレインは実際に見るのは初めてだが、聞くところによればこの技術は西側の大陸、つまり帝国のある大陸の技術だと聞いたことがある。


 そしてキドニー商会はそのエリアの中でも中心に近いところにあり、しかも明らかに他の建物とは大きさもきらびやかさも突出した建物を有している商会だった。


 つまりはこのエリアの中でも大手の商会。きっと西側の大陸でも幅を利かせている商会なのだろう。


『主人よ、どうするつもりだ?』


 隠蔽の魔術で自身の姿を消し、かつ小型化してレインについてきていたファフニールが静かにそう聞いた。


「別に、いつも通りだ」


 レインはキドニー商会の外壁沿いにぐるりと一周回り、周囲を確認しながらそれだけ言った。


 警備の数はゴースデル商会の比ではない。魔術的な結界も多く、気配からして何人かの精強な魔術師に加えてどうやら人工生命、つまりはゴーレムのような存在も複数配備されているようだ。


「あの辺りか」


 警備の様子を確認したレインは、さらにその周辺を見渡して当たりをつける。別に正面突破ができなくもないが、無意味に騒ぎを大きくする必要はない。面倒ごとが増えるだけだし、何より処理に時間がかかる。


 となればすることはいつもと同じ。前回のゴースデル商会に対するやり口と同じく夜襲が一番。


 最初からそう考えていたレインは、キドニー商会の下見を終えると夜を待つためにゆっくりと去っていったのだった。


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連載中である他作品、 【『この理不尽な世界に復讐を~世界に虐げられた少年は最強の龍となり神に抗う~』も引き続きよろしくお願いいたします。
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