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第124話 怒らせてはならない者

第124話〜怒らせてはならない者〜


「せっかくファニアスさんが堕ちかけてたのに余計なことして貰っちゃ困るんですよね!」


 村に今にも入り込もうとしている魔物の群れを殲滅するため、自分の本分を思い出したファニアスが飛翔魔術を全開で使用して飛び去ったのを見たビリーは舌打ちした。


 ビリーにとって、今回の作戦は練りに練ったものだった。広域での魔物の移動や村への襲撃となれば、必然的に広範囲を攻撃可能なものが自分を始末しにくる可能性が高い。しかも元宮廷魔道士であるビリーが犯人であると聖都でもわかっているのだから、同じ宮廷魔導士がくるであろうことは簡単に予測できた。


 その条件に当て嵌まるのはファニアスのみであり、ビリーは宮廷魔道士の中でも筆頭に近いと言われているファニアスと戦えるのを心待ちにしていたのだ。


 だからこそビリーはそのために戦力を考えた。ビリーは戦いが大好きであるのだが、だからと言って負けるのは嫌いな人間だ。しかも自分の思うように戦いたいと言う思想を持つ、言ってみれば非常に自己中心的な人間なのだ。


 自分の土俵で相手を嘲笑い、そして自分だけが楽しめる戦いがしたい。戦闘狂でありながら、自分を上の立場におきたいと言うまさに下衆な思考の持ち主。


 しかしそれゆえにビリーは準備を怠らなかった。ファニアスの実力は宮廷魔道士の中でも折り紙付き。いくら魔物を多数使役することができるとは言え、普通に戦えば負ける可能性が高い。


 そこで考えたのがファニアスの思考を縛ると言うものだった。弱者を守りたいと言うビリーにしてみれば甘い思想は、一部の宮廷魔道士は知っていた。そしてビリーもそれを知っていたからこそそこを利用することにしたのだ。


 自分を殺すか弱者を守るかの究極の二者択一。それを突きつけられたファニアスは予想通り動きを止めた。後は流れの中で中途半端な戦いしかできなくなったファニアスを料理するだけ。そう思っていたのに予想外の邪魔が入った。


「ただの弱者が僕の戦いに口を出さないでもらえるかな!!」


 口調こそ丁寧だが、怒りに燃えた顔でビリーはデスクローに命令を下す。


「デスクロー、あの建物にいる奴らを全員殺せ」


 無慈悲な命令が夜の村に響く。本当ならファニアスが迷いながら魔物を倒し切れない様を見ながら、最後にデスクローで全てを終わらせるつもりだった。後悔と絶望に駆られながら、やめてくれと叫ぶファニアスを笑いながら殺すつもりだった。


 だがそれも一人の少年のせいで全てが変わってしまう。たった一言、しかしその一言でファニアスの迷いは消えてしまった。


 すでに吹っ切れたファニアスは村の東側に新たに現れた魔物をあらかた駆逐している。他の方角からもさらに追加の魔物は来ているが、今のファニアスであればそれら全てを倒して村人を守ってしまいかねない勢いがあった。


 だからこそ計画は大幅に変えることになるが、ビリーはデスクローを先に動かすことにしたのだ。村人が窮地にたてばファニアスはこちらに労力をさかざるを得ない。だがファニアスであってもデスクローという魔物は片手間で殺せるほど弱くはない。


 苦労して使役した上級の魔物であるデスクロー。こいつがいれば計画の修正は容易。忌々しいことこの上ないが、まずはあの少年から殺して見せしめにしよう。


 そうビリーは考えたのだが、現実はそうはうまくはいかない。


「そんな鳥を村人のそばに近づけるな」


 そんな言葉が聞こえた瞬間、デスクローに乗っていたビリーの体は激しい衝撃に後方へと吹き飛ばされる。否。吹き飛ばされたのはビリーではなく、村人に襲い掛かろうとしたデスクローだったのだ。


「は……?」


 思わず漏れてしまった疑問の声。それはそうだろう。デスクローに村人を殺すように命じたら、なぜかデスクローが吹き飛ばされたのだ。


 もう一度村人の集まる建物を見れば、その上にはやはり先ほどの少年がいてこちらを睨みつけている。


「どういうことです?」


 疑問の問いに答えるものはいない。冷静に考えてここにいる者の中でデスクローを正面からなんとかできるのはファニアスくらいのものだ。


 使役しているビリーであっても、策を幾重にも練った上でようやく使役できたのであって、普通に戦えば間違いなく負ける相手だ。


 ならなぜデスクローは吹き飛ばされたのか。ファニアスは今も村に入り込もうとしている魔物を殲滅していてここにはいない。だとするなら残された選択肢はあの少年が何かをしたということになるが。


「風に属する魔術か何かですかね?あらかじめ全力で風を集めておけば、突進を止めることくらいはできますか」


 ビリーはそう判断した。というよりもそう判断するしかなかったのだ。まさかあの少年がデスクローに対して何かをできるわけもない。できたとしてもその程度が関の山。そう考え、再びデスクローに村人を殺すように命じたのだが、それこそがビリーの選択で一番の悪手となった。


「言っただろう。そんな鳥をこっちに近づけるなってな」


 言葉とともに再び吹き飛ばされるデスクローだが、今度はその理由をビリーは見た。見たのだが、それはにわかには信じがたい光景だった。


「デスクローを殴った……?」


 そう、信じられないことが起こったのだ。デスクローが建物に近づいて行った時、あろうことかレインはそこから大きく跳躍しデスクローの顔面を殴り付けてきたのだ。そのせいでデスクローは大きく後退を余儀なくされた。一回目に関してもきっと同じことが起こっていたのだろうが、それは実際に目にしてもとても信じられるものではない。


 魔物に対して戦えるものは魔術師がほとんどだ。もちろん騎士などもいるが、何れもなんらかの魔術を使用して皆が魔物と戦っている。


 属性魔術を遠距離から放つ。もしくは武器を使用し切り伏せる。それが魔物と戦うオーソドックス。確かに魔拳師というスタイルはあるが、あんな肉弾戦で魔物と戦うというスタイルなどとうの昔に廃れたのではなかったか。


 仮にそれがいたとしても、まさかあんな少年がそれを成すなど誰が考えるだろう。ビリーが今起こった光景に大いに混乱をしているのはそんなところからくる考えのせいだった。


 だが実際にデスクローは後退をさせられ、よく見てみればダメージを受けているのか飛び方が若干怪しい。呼吸も荒くなっており、殴られたと思われる顔面からは出血もしているようだ。


「あり得ない」


 絞り出した言葉は思いの外小さな音となりビリー自身の鼓膜を震わせる。認めたくはないが、あの少年はなんらかの力を持っているらしい。このまま正面から向かって行っても同じ結果を辿る可能性は高いだろう。


 しかし別の手段を取るにしても、時間をかければファニアスがこちらへやってくる。すでにビリーがけしかけた魔物は半分を切っており、あちらもあり得ないほどの速度で魔物を殲滅しているようだった。


 自分の立てた策が崩れていく音が聞こえている。ビリーは戦闘狂ではあるが、対等の戦いなど望んではいない。相手を策に嵌め、自分が一方的に相手を蹂躙する。それこそがビリーが望む戦いであり、断じて今のような自分の思い通りにならない展開などは望んでいないのだ。


「ファニアスさんの手前、お前の対処に俺は動かないつもりだったがお前はやりすぎた。相応の報いは受けてもらう」


 まずい。そう思った時にはもう遅かった。先ほどまで村人のいる建物にいたはずのレインは、すでに眼前へと迫っていた。上空でデスクローに乗っているはずの自分の目の前にだ。


「落ちろ」


 拳一閃。レインの放った拳はデスクローの顔面を三度殴り飛ばし、今度こそデスクローはそれに耐え切ることができずに地面へと落下していく。


 すでに意識も途切れたのか羽に力は入っておらず、重力に従うままに地面へと叩きつけられるデスクロー。当然その上に乗っていたビリーもただで済むはずがなく、とっさに風魔術を使い衝撃こそ和らげたがすでに叩ける状態とはほど遠い。


「何……が……?」


 ビリーは混乱の極みの中にいた。龍などには及ばずとも、魔物としては破格の強さを持つデスクローが何も出来ずに撃退された。落下したデスクローはまだ息があるようだが、このままでは死ぬのも時間の問題だろう。


「生きてたか。悪運は強いようだな」


 状況の把握が未だ出来ていないビリーの前に、まるで死神の如き声が聞こえた。


「ひぃ……!?」


「今更何を怯えている。これから先、お前に待っているのは地獄だぞ?」


 そう言ってゆっくりと近づいてくるレインの足音に、ビリーはもはや抵抗すらできずに心を折られてしまったのだった。


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連載中である他作品、 【『この理不尽な世界に復讐を~世界に虐げられた少年は最強の龍となり神に抗う~』も引き続きよろしくお願いいたします。
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