第120話 宮廷魔道士の役割
後書きにお知らせがありますのでお読みください。
第120話〜宮廷魔道士の役割〜
今から二年前。ファニアスは聖教会からの命を受け、リーツの街へとやってきていた。
ファニアスの所属している宮廷魔導士というものは、言ってみれば聖教会の守護者。言い換えるなら王都騎士団や王家の警護隊など、魔術師の中でもエリート中のエリートだけがなることを許された職業だった。
本来は王都を離れることはない宮廷魔導士だが、時には遠隔地へと赴くこともある。その数少ない理由の一つが、聖教会の信仰する神に背く者への神罰を代行するというものだ。
回りくどい言い方をせず、ストレートに言えば国家の反逆者や凶暴な魔物の討伐。それが宮廷魔導士の仕事の一つなのだ。
ファニアスがリーツの街へやってきたのもそれが理由。その時にファニアスに下された神命という名の討伐任務は、リーツの街周辺に出没するという魔物及び、それを使役しているらしい魔術師の駆逐だった。
魔物を使役するというあたりから、おそらくは魔役師あたりが該当するであろうとファニアスは当たりをつけていた。魔役師とは、魔物を調教し飼い慣らすことができるという稀有なスタイルであり、魔物と共存するというところからあまり人々に好まれないスタイルでもあった。
それでもそんなスタイルが存在しているのは、生来魔物などをはじめとした生き物に好かれるものが必ずいるからだ。本人の好む好まないにかかわらず、そう言った者は生き物がいつでもまとわりついてくる。そのうちに生き物の魔力の流れが見える様になり、最後には自分の思うままに命令ができる様になっていくのだ。
このスタイルはあまり好まれはしないが非常に便利なことも事実。何せ自分以外に何かをこなしくれる者が複数出来上がるのだから便利でないわけがない。
それが動物であればできることは限られてくるが、魔物となれば話は別。力も強く、知性の高い個体もいる。手先が器用であったり魔法に優れる個体もいる。
もしそれらを複数使役することができれば、術者は相当に利便性を享受する事ができるのだ。
だがそんな便利なスタイルも、使う者が悪であれば途端に脅威となり周りのものに襲い掛かる。
今回の討伐依頼もそんなところだろうとファニアスは考えていた。聞かされていた情報自体は至って凡庸。リーツの街は地方でもそれなりの規模の衛星都市であるが、当然その周囲には小さな村々が点在している。どうやらその小さな村を標的にして魔物が定期的に襲撃してきているらしいのだ。
最初は本当に魔物による襲撃だと思っていた村の者も、次第にその襲撃が法則に則っていることに気づく。
まず必ず夜の、しかも決まった時間に襲ってくるということ。人々が最も寝静まっている深夜二時の辺りに魔物が決まって現れるのは明らかに異質。
さらには魔物の対策に罠を仕掛ければ、それを全て回避するどころかご丁寧に破壊していく。さらには襲撃の方法もおかしかった。
まず村の正面から攻めてきたかと思えば、そちらを対応している間に裏からも魔物が現れる。それに気づき人を分ければ、伏せていた伏兵がその横から奇襲を仕掛けてくる。
どれも完全な戦略であり、いくら知能の高い魔物がいたとしても所詮は魔物。本能に突き動かされる魔物にしては明らかに動きがおかしいのだ。確かにそこまでの知性を持つ魔物もいるが、そんなものは本当に上位の魔物だけ。
村への襲撃で目撃されている様なウルフやオークなどの言って仕舞えば下級の魔物にそんな芸当をすることなどできるはずがないのだ。
以上の情報からファニアスはこの一連の襲撃が魔役師による犯行だと予測した。
だが予測したからと言ってすぐに犯人を捕縛や始末できるはずもない。リーツの周囲の村を襲っているとはいえ、それなりの数が点在している以上、その一つに的を絞るのはいくら宮廷魔導士であるファニアスでも難しい。
そこでファニアスはリーツのハンターに応援を頼むことにしたのだ。
とは言ってもファニアスはハンターに対しあまりいい感情は持っていなかった。というよりも、そもそも今回の依頼をハンターにあまり知られたくはなかったのだ。
本来なら衛星都市とはいえ王都から離れた場所での仕事を宮廷魔導士は行わない。よっぽどのことであれば話は別だが、魔物が村を襲っているというのであればその周辺のハンターが対応すればいいだけの話。宮廷魔導士を投入してまで解決を図る様な案件ではない。
しかしここにファニアスがいるということは、それなりの理由があるからに他ならない。今回はそのそれなりの理由に該当することになった。だからこそファニアスが王都から遠く離れたリーツにまで自ら赴いてきたのだ。
「それでしたらちょうどうってつけのハンターがいますよ」
ハンターギルドでファニアスが頼んだのは、リーツの街周辺の案内だ。今回の件をあまり大っぴらにしたくないファニアスとしては、正直に自分の身分などを明かすわけにはいかない。だが土地勘のない場所では動きに制限が出てしまう。
加えて任務の性質上、他の部下などを連れてくることもできずファニアスは単独で魔役師を探す必要がある。そんな理由で街の周囲の案内ができ、それでいて秘密を厳守できる腕のいいハンターというなんとも大雑把な依頼を出したのだが、意外にもファニアスのその依頼はすぐに受注されることとなった。
「今回依頼のため、あなたの案内をすることになったレイン・ヒューエトスです。どうぞよろしく」
ギルドに紹介され出会った少年。それこそがレインであり、これがファニアスとレインとの初めての邂逅となったのだった。
◇
「魔物がこれまで襲った村は全部で五つ。その頻度が不定期かつ、法則性もありませんがどうも周囲が開けた場所から襲っている様だということはわかりました。そう言った村だけを抽出すると、これまで被害にあった村の方角から考えて次に被害に遭うのはこの村の可能性が高いと予測できます」
レインと初めて会ったファニアスが抱いた第一印象は、年端もいかぬ少年がハンターをしなければいけないほどに、この世界はまだまだ厳しいのだなというものだった。
第二次魔道大戦の爪痕は未だ深く世界に根付き、親を亡くした子どもも山ほどいる。ファニアスはレインもそんな子どもの一人だと思い、日銭を稼ぐためにハンターをしているのだろうと予測した。
だからこそ案内は受けつつもしっかりと守ってやろうと思っていたのだが、そんな認識は街を出てすぐに覆されることとなった。
「この地図はどこで手に入れたのだ?見たところ市販のものではない様だが」
「これは僕が自分で作ったものです」
「君がか!?この精巧な地図を!?」
「はい。前に地図の作り方を教えてもらいましたので、街の周辺の地図くらいは作っておこうと思ったので」
何気なく言われた言葉だが、ファニアスはこの地図を見ただけですぐにレインの異質さに気がついた。
気軽に見せられた地図ではあるが、確かに範囲がリーツの周辺に限定されていることを除けば、これほどにできの良い地図をファニアスは見たことがなかった。
村と村の距離やそこに分布するものとの正確な縮尺。書き込まれた魔物の生息図に加え、地形の起伏の情報までもが記されたその地図をもし軍の上層などが見れば大金を積んででも欲しがることは間違いない。
軍の侵攻において地形の把握は何よりも重要視される。これほどまでに精巧なものであれば、それだけで作戦の立案が容易になるのは目に見えている。
だがファニアスが驚いたのは、何よりもその範囲を一人で測量したということだ。範囲の広さだけであれば時間さえかければなんとかなるが、書き込まれた地図には魔物の情報もあり、中には危険な魔物がいることもわかる。
それを一人で測量したということは、少なくともレインはそれらの魔物をどうにかするだけの力があるということだ。
「どうやら私は君のことを見誤っていた様だ」
「気にすることはありません。僕は街の周辺を案内するという依頼を受けたハンター。あなたはそれを依頼した依頼人。どう言った理由があれ、それ以上でも以下でもありません。なので僕はあなたの行きたいところへ確実に案内をさせてもらうだけです」
大人びたビジネスとして割り切ったレインの言葉に、ファニアスはもう何度目かもわからない驚きを覚えていた。どうすればこの歳でこんな境地に至れるのか。
聞いてみたい気持ちはあったが、レインがこっちの事情を一つも聞くことなく自分の仕事を確実にこなしているのだ。ならばこちらがそれを聞くのは失礼に値する。
そう思ったファニアスは、それ以上を聞くことなくレインの提案に従い次の襲撃の可能性が高い村へと移動をすることにした。
だがこの時、ファニアスはレインのことをそれでもまだ見誤っていた。ファニアスがそれに気づくことになるのは、そう時間もたたないその日の夜のことだった。
しばらくの間、プライベートが多忙なため更新が土曜日のみとなります。
またストックが溜まりましたら元に戻りますので、何卒ご容赦ください。
その間よければ私のメインで書いている作品を読んでいただけると幸いです。そちらは隔日で更新をしていますのでよろしくお願いします。
『理不尽なこの世界に復讐を~世界に虐げられた少年は最強の龍となり神に抗う~』
以上、勝手ではありますがよろしくお願いいたします。




