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第117話 合成魔獣

第117話〜合成魔獣〜


 世の中にはキメラと呼ばれる合成魔獣が存在し、魔物と魔物をかけわせることでより強力な個体を生み出そうとした結果生まれた生き物がいる。


 一見非人道的に見えるかもしれないが、これを行う理由はしっかりと存在し、世界的にその実験は行われているのだ。


 現にルミエール魔術学院でもその実験は行われているところを考えれば、キメラの実験自体が悪いとは誰も思わないだろう。


 魔物の中にはその血液や表皮などが有益な物が多数存在する。血液が薬の原料になり、表皮が装備の素材となる。ドラゴンともなればその全身が余すことなく素材となり、大変重宝されるなど有名な話だ。


 だが有益な素材を持つ魔物は多数存在するが、捕獲するのに危険を伴う。ハンターに依頼を出してもいいのだが、経費が嵩む上に確実ではない。


 ならば有益な素材を持つ魔物を作ればいいではないか。その発想のもとに行われたのが合成魔獣、キメラの実験だったのだ。


 最初はうまくいかなかった実験だが、時間と共に少しずつ成果が現れる。例えばユニコーンやバイコーンはその角が魔術触媒として有用なのだが、個体数が少ないため流通量が少ない。それを打ち破ったのが三角獣と呼ばれる三本の角を持つ合成魔獣だった。


 三角獣は角を多く持つだけでなく、人工での繁殖も容易とあって、今では角の流通の大半を担うほどに有益な合成魔獣として世界に存在している。


 こういった例は他に多くあり、合成魔獣の実験は世界的に推奨されているのだ。


「ごめんなさい……」


 少女がそうレインに呟くと同時に変化が起きる。それまで華奢だった少女の体、特に背中の部分からいきなり真っ黒な翼が生えていったのだ。


 白かった肌は黒く染まっていき、歯は鋭く長く伸びた犬歯がのぞいている。おまけに目は金色に光っており、その様子はレインの知る限り一体の魔物と非常によく似ていた。


「まさか吸血鬼か!?」


 一点を除き符合するその特徴に、流石のレインも驚きを隠せない。


 吸血鬼といえば、世界中探しても見つかるかと言うほどの非常に珍しい魔物だ。ほとんど人と同じ姿形をしているが、知能は人よりも遥かに高い。さらには内包する魔力量も多く、ドラゴンなどと並び最強の魔物の一角として恐れられている。


 そんな魔物などレインも話でしか聞いたことはなく、まさかこのような場所で遭遇することになるなど夢にも思わなかった。


「ごめんなさい……」


 少女の口から再び謝罪の言葉が漏れた次の瞬間、その姿がぶれたかと思うと突如としてレインに向かい突っ込んきたではないか。しかもその速度はレインであっても初見では捉えられないほどに早く、誰にも何が起きたかはわからなかった。


「よくやった!!」


 少女によりレインが仕留められた。あまりの速度に床の石材から舞い上がった石材の埃を見た研究員は歓喜する。シャーロットもまさかとの思いで埃が晴れるのを待つが、それが間も無く晴れた中にいたのは、まるで無傷のレインが少女の手刀をしっかりと掴んでいる姿だった。


「確かに早い。早いがそれだけだ。直線的な攻撃だけなら予測することなんて容易い。まして殺意の乗らない攻撃など攻撃のうちにも入らない」


 諭すかのようにそう言ったレインを少女は驚愕の表情で見つめる。殺意はないとレインは言ったが、仮にそれがなくとも今の攻撃は人など余裕で殺せるほどの威力を誇っていたのだ。


 それを止められるなど思いもよらなかったのだろう。一時止まってしまった思考を無理やり動かし、レインから離れようとするが掴まれた手はびくともしない。


「何をしている!早くその男を殺せ!!弟がどうなってもいいのか!?」


 そんな様子を見た幼い男の子を連れた研究員が喚き散らす。その言葉に少女は一度びくりと震えると、それまでよりもさらに強くレインから手を引き離そうと力を入れる。


「なんで……」


 だがその手が動くことはない。それどころかレインから吹き出る殺気に、少女はそれだけで気を失いそうになっていた。


「下衆が」


 もはやそれ以上の問答はいらなかった。少女をその場に置き去りにしたレインは、男の子を連れている研究員に一気に駆け寄ると男の子を奪取。同時に振り抜かれた蹴りにより研究員の頭部が面白いように回り、吹き飛んでいく。


 レインとしては加減した攻撃ではあったが、研究員という戦闘者ではない者ではレインの攻撃は当たっただけで致命傷。しかも先程の少女の動きよりも早いのではないかと疑うような動きに誰もその動きを追うことができなかった。


 結果として頭部をなくし倒れる研究員と、それを冷たく見下ろす男の子を抱いたレインという図にその場にいる全員が戦慄した。


 自分たちは一体何を相手にしてしまったのか。


 それが地下空間で実験を行っていた全員が感じた感情であった。そしてもはや歯向かうだけ無駄であるとこれも全員が同時に感じたのだ。


「ほら、お前の弟なんだろう?」


 そんな光景を惚けたように見ていたのは少女も同じ。それまで自分の攻撃を防いでいたはずのレインが、次の瞬間には弟を助けてくれているのだ。しかもその弟を自分に差し出してくれている。


「エレン!!」


 罠かもしれない。一瞬そんな考えがよぎった少女だったが、そんなものはどうでもよかった。


 少女はレインの腕に抱かれた男の子、エレンを受け取ると力一杯抱きしめる。


「お姉ちゃん……」


「良かった……!」


 いつの間にか吸血鬼の容姿から元の人の姿に戻っている少女は、優しく弟を抱き締めると涙を流しながらレインを見る。


「ありがとう、ございます……」


 その言葉に一瞬だけ優しい表情を浮かべ少女に頷いたレインだったが、顔を上げてその場にいる面々を見渡した時、研究員たちは一斉に同じ思いを感じていた。


 終わった。


 その時のレインの表情を見たものは、その後揃って同じことを口にする。この世であれほど恐ろしいものを見たことがない。


 ゴースデル商会で行われていたことが、その日の内に全面的に凍結されることになったのはもはや言うまでもないことだった。


 ◇


「以上がゴースデル商会で行われていた非人道的な実験の詳細となります」


 明けて数日後、ライザッツ家の別邸に呼ばれたレインとシャーロットは、何か恐ろしいものを見るようなレンデルと、粛々と報告をしながらもやはり怯えたような顔をしているクラリッサからゴースデル商会の調査報告を聞いていた。


 あの後、レインたちはレンデルにゴースデル商会にすぐに来る様に連絡し、ことの詳細を調べる様に頼んでいた。


 いきなりの騎士団の来訪に商会の者は慌てふためいていたが、レンデルが有無を言わさず武力で制圧したため特に問題はなく商会内の調査は行われた。


 地下の実験施設で行われていたのは予想通り合成魔獣の実験であったが、その中でも一際非道だったのだが合成魔獣と人の合成に関するものだった。


 確かに人も生物である以上、魔物との合成は理論的には可能であるが、倫理的にはあり得ない。しかも魔物の持つ魔素は人とは馴染む事はなく、合成された人はあり得ないほどの苦痛に苦しんだ事だろう。


 現に実験室のさらに奥には、おそらく実験の末に死んでいったのであろう人の死体が無数に見受けられたらしい。しかもそのどれもがおよそ人の形を成していなかったことからも、どれだけ非人道的なことが行われていたかは察してあまりあるというものだ。


 では肝心の奴隷売買はどうなったのかといえば。その証拠もきっちりと掴んだらしい。


「巧妙に偽装されていましたが、帳簿を見つけましたので奴隷売買に関してはまず間違いないと思います」


 そういうクラリッサだが、その顔が不意にレンデルを見る。


「この奴隷売買なんですが、どうやら商会は合成に成功した人間を高値で販売していた様でもあるんです」


 言いづらそうに、だが確かにそう告げたレンデルの表情は、レインへの怯えをさらに強くした様になるのだった。


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連載中である他作品、 【『この理不尽な世界に復讐を~世界に虐げられた少年は最強の龍となり神に抗う~』も引き続きよろしくお願いいたします。
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