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第101話 新たな火種

第101話〜新たな火種〜


「強くなるためにハンターになったのに、なんだかよくわからない事態に巻き込まれて終わった気がするわ」


「別に強さは戦闘力だけじゃないだろう?状況判断や洞察力、そう言ったものも強さの要因一つだ。それは今回の件でシャーロットも身にしみたはずだがな」


「わかってるわよ。感情的に動きすぎたことは反省してるわ。最初から最後までね」


 あの後、リンダから事情の説明を受けたレイン達のもとにギルドから派遣された調査員及び、フォーサイトの衛兵がやってくるまでにそれほど時間は掛からなかった。


 レインはリンダがほぼ黒であると確証を持っていたため、事前にファフニールをフォーサイトのシルフィの元へと飛ばしていたのだ。


 そのおかげでシルフィはすぐにギルドなどへ連絡を行い、程なくして調査員達がこの村にやってくることとなった。本来であれば確実でない情報へこれだけ早く動きを見せることはまずないが、そこはシルフィという人の人徳であろう。


 なんにせよ、リンダをフォーサイトまで護送する必要がなくなったのは大きい。ほぼ確実に大丈夫であるとは思うが、魔殺師を護送するというのはそれなりに気を遣う。できればやりたくなかったため、衛兵に任せることができてレインは内心非常に安堵していたのだ。


「ハンターって奥が深いのね」


「でなければ、これだけ重宝され、尚且つあらゆる国で中立機関として成立するわけがない。有能であるからこその独立性を保てる理由だ」


「本当に貴族でいるだけじゃわからないことが多いわ」


 リンダが護送され、調査員達が村の検分をする様子を見ながら、シャーロットは今回の依頼を反省していた。


 全てが間違った行為だとは思わないし、人として曲げたくない部分もあった。だが、ハンターとして見れば今回自分は明らかにミスばかりしていた。


 フォーサイトでの衝突に始まり、村の異変に気づけなかったことやリンダを不用意に信じたこと。もし一人であれば、確実にどこかで命を落としていただろう。


 レインがいたからこそ、今自分はここでこうして話すことができている。今回の依頼の間に何度感じたかわからない悔しさと未熟さを胸に抱きながら、シャーロットは静かにそう漏らした。


 それを見ていたレインはといえば、厳しい言葉をかけながらもシャーロットに対しては一定の評価をしていた。


 確かに反省すべき点はいくつもあったが、すでにそれらをシャーロットはしっかりと自身で認識している。加えて今回の本来の依頼は飛龍の討伐がメインであり、その依頼自体は完璧にこなしているのだ。


 想定外のことに対する対応も、初動はともかく切り返しは上々。ハンターデビュー戦としてははっきり言って高評価をつけてもいいだろうとレインは内心でそう評価をしていたのだ。


 だがそれをシャーロットに伝えることはしない。自分で反省をし、まだまだ未熟だと思い次に繋げようとしているものに対し、余計な言葉は邪魔にしかならない。


 その代わりに、この夏はできる限りシャーロットのハンターとしての手伝いをしてやろう。レインはそう思いながら、反省を続けるシャーロットの様子を黙って見守るのだった。


 ◇


 リンダを護送するのはフォーサイトの衛兵達。その数は十人。一見少なく感じるかもしれないが、ルミエールのあるフォーサイトの衛兵の練度は非常に高い。


 何せ衛兵の職に就く大半はルミエールの卒業生なのだ。国内でも有数の魔術学院からの卒業生が大半を占める衛兵隊は、それすなわち国内有数の衛兵隊である。


 もちろんそれはしっかりと訓練を重ねた上でという条件がつくが、今回リンダの誤送にきたメンバーは全員が衛兵になってから五年以上のしっかりと訓練されたもの達で構成されている。


 本来なら今回のような事件に対してはベテランが数人と若手が多く帯同するものなのだが、事件の情報をもたらしたのは五芒星の魔術師たるシルフィであることが問題だった。


 情報の発信源はレインなのだが、それを伝えたのはシルフィである以上、中途半端な対応は許されない。だからこそ衛兵隊長も人選は相当念入りに行った。


 何が言いたいのかというと、今回の誤送メンバーは総じて実力が高く、例え新たな襲撃者が現れたとしてもそれを跳ね返す力を持っている、はずだったのだ。


「随分と遅かったですね。事前にこの場所に向かうと言っていたと思いましたが?」


「そう言うなよ。衛兵の連中も手だれが多かったんだよ。流石に俺でも無策で突っ込めばただじゃ済まないかもしれないだろ?」


「その結果がこれですか。どの辺りがただじゃ済まない可能性があったのかを教えてもらいたいですが、とりあえず礼だけは言っておきます」


 死屍累々。村での惨劇が再び繰り広げられたと言えばわかりやすいだろう。


 リンダの護送にきた衛兵十人は全員が血を流し倒れ伏し、リンダを乗せていた鋼鉄製の馬車もまるでバターでも切ったかのように真っ二つに切り裂かれている。


 それを成したのは一人の青年だった。


 柔和な表情に寝癖の残る癖っ毛。そして手には身の丈ほどの長い槍を携えた一人の青年により、フォーサイトから派遣された衛兵は全てが物言わぬ死体となってしまったのだ。


「それにしてもあなたほどの人が捕まるとは。どれほどの敵がいたんです?」


「化け物ですよ。多分組織のほとんどの者ではあれには太刀打ちできません」


「まさか。幹部達でもか?」


「全員が束になっても無理だと思いますよ?それこそ組織のトップに近い方達でないと厳しいと思います」


「なるほど。生粋の魔殺師であるお前にそれほどまで言わせる者が相手だと、確かに今回は運が悪かったのかもな」


「そうですね。ですけど失態は失態です。至急幹部の方に申し開きをさせていただきたいので、すみませんがこのまま私は支部に向かいます」


「あぁ、それなら心配には及びないさ。お前はここで死ぬからな」


「は?あなたは何を……」


 それ以上にリンダは声を出すことができなかった。レインにより捕らえられ、フォーサイトへと護送されることが決まっても静かにしていたのは、こうして助けがくることがわかっていたからだ。


 自分がどこで何をしているかを組織は把握していて、尚且つ定時連絡がなければ組織の構成員の誰かが様子を見に来る手筈となっている。それは不測の事態への対応という意味もあるが、組織のメンバーが余計なことをしていないかの監視の意味もあったのだ。


 レイン敗北したことにより、リンダは定時連絡が不可能となった。そのため組織の誰かがやってくる。しかもリンダは組織内でもそれなりの立ち位置だったため、やってくる者も相応の実力者の可能性が高い。


 そう踏んだからこそリンダは大人しく連行され、その上で助けを待っていたのだ。


 その狙いはその通りになったと言って良かった。リンダの様子を探りにきた組織のメンバーは、リンダの現状を知るとすぐに衛兵を殲滅し、こうしてリンダを解放してくれた。


 とは言え自分の失態は消えることはないのだから、まずは幹部に今回のことを説明しなくてはと思い歩き出した。


 しかしそれは叶うことはない。胸から突如として飛び出しているのは、装飾のないシンプルな長い槍。それは今自分を助けたはずの仲間のものであり、自分に害をなすはずがない者からの明確な攻撃だったのだ。


「な……ぜ……?」


「なぜ?そんなこともわからないほど耄碌したのか?組織にとっては失敗は死と同一だ。お前だってこれまで失敗をした奴を何人粛清した?まさかそのルールが自分位は適用されないと思ったわけじゃないよな?」


 胸部に突き刺さった槍は、正確に心臓を貫いておりもはや死を免れることはない。魔殺師として背後から刺されるなど言語道断ではあるが、仲間に対しての警戒を完全に緩めていたのが間違いだった。


 いや、そもそも組織のメンバーは仲間などではない。ただ同じ目的のもとに集まったいわば烏合の衆。圧倒的力を持ったトップに群がる蛾のようなもの。


「安心しろ。あの村の処理は俺がしといてやる。お前はそのままここでくたばりな」


 薄れゆく意識の中で聞こえる声に、リンダは同情した。彼はあの村に今いる者がどれほどのものかを知らないからあんな態度が取れるのだ。もし対峙すればきっと後悔することになるというのに。


 そう思いはしたが、同時にリンダはこう思う。いや、自分を殺したのだから、あいつも殺されてしまえばいいのだ。こんなクソみたいな世界の中で、自分と同じように惨めに死んでいけばいいのだ。


 今際の際の呪いの言葉は確かに届くこととなる。何せリンダを殺した者が向かう先には、この世界の最強の一角、五芒星の魔術師がいるのだから。


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連載中である他作品、 【『この理不尽な世界に復讐を~世界に虐げられた少年は最強の龍となり神に抗う~』も引き続きよろしくお願いいたします。
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