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第100話 夜襲

皆様のおかげで100話に到達することができました。

これからも是非当作品をよろしくお願いいたします。

第100話〜夜襲〜


 村への襲撃から二回目の夜がきた。


 結局、この日も村から動くことはせず、翌日の早朝にフォーサイトに戻ることになったのに理由はいくつかあるが、一番大きいのはやはりシャーロットが強硬に反対したからだろう。


 レインとしてはやはりすぐにでもフォーサイトに戻るべきだと思ったのだが、状況説明をしたリンダがまた寝込んでしまったのだ。


 この状況でリンダを動かすべきではないと主張し、頑として寝室を動こうとはしなかった。


 しかもこれが銀級であるレインに対しての反抗であり、ギルドに報告するならすればいいというおまけ付きだ。深く感情移入してしまったシャーロットは完全にリンダのために行動することにしたようだった。


 そのまま非情に行動しても良かったのだが、これ以上の強行策は余計にシャーロットを意固地にさせるだけ。仕方がないので翌日まで待って、リンダの体調が改善していればフォーサイトに戻るという折衷案を取り付けることにしたのだ。


 もっともその案にもレインにはある予感があってのことだったのだが、それがこうもうまくいくとは思っていなかった。


「まさかここまで簡単に釣れるとは思っていなかったな。お前、もしかして自分の演技が完璧だとでも思っていたのか?だとすればそれは大きな間違いだ。言動に対する矛盾もさることながら、あの状況ではどれだけ嘘を並べようともお前が有力な容疑者であることには変わりない。にも関わらず、裏も取らずにお前のことを簡単に信じるとでも思っていたのか?」


 冷たくそう言い放ったレインの目の前には、夜の闇に乗じてシャーロットの命を刈り取るために動いていた者がいた。


 手には短刀が握られており、レインが割って入る直前にはシャーロットの首筋にその短刀の刃を当てていたのだ。言い逃れは不可能。殺し方からしてこの者が村人を殺した襲撃者で間違いはなかった。


「どうして……」


「どうしてもこうしても、最初から全部こいつが描いていた戦略だ。俺たちの戦闘力が高いと判断して、こちらに取り入ってから殺すことにしたんだろう。そっちの方がはるかに楽だろうし、何よりこいつにはその実績がある。だとすればプロとして確実な方法を選ぶだろうさ」


 動揺を隠しきれないシャーロットにレインがそう告げた。


 多分、この襲撃者はもう一人の仲間である魔銃師がなすすべなくやられるのを見ていたのだろう。


 それなりの戦闘力を持つ仲間があっさりと無力化されてしまった。ならば自分はどうするべきか。


 逃げる?それでもいいかもしれないが、それではこの場の口封じという任務が達成されない。結局逃げても組織により粛清対象になり、自分の未来はない。ならばこの場でいかにレインたちを始末するかを考えなければならない。


「おそらくだがその考えのもとでこいつは動いていた。スタイルとしては魔殺師。暗殺に特化したこのスタイルだが、直接戦闘では他のスタイルに劣るからな。それゆえの潜入と暗殺だ。自分のフィールドであれば俺たちを殺せると踏んだんだろう」


 魔術師のスタイルには得手不得手がある。敵に勝つにはいかに自分の土俵に相手を引き摺りこむかが鍵になるのだ。


「レインは……、最初からこれがわかっていたの?」


「あくまで可能性の高いものを選んだだけだ。シャーロットに説明しても良かったが聞かなそうだったからな。いい機会だから教育も含めて囮になってもらった。万が一はあるが、この場には俺がいる。そうそう大事にはならないからな」


 そういったレインにシャーロットは目の前の襲撃者から視線を切ることなく、苦渋の表情を見せた。


 それは自分がまんまと敵の策に嵌ったことへの後悔か、それとも信じた者に裏切られた悲しさか。それはわからないが、それでもこの場ではそれまでの感情を捨て、正しく相手を敵と認識した切り替えはハンターとして及第点は与えられる。


「ハンターである以上、あらゆる可能性を考慮しろ。それが今回の依頼で俺がシャーロットに伝える中で一番大事なことだ」


 レインは伝えるべきは伝えると、襲撃者に改めて向き直った。


 それと同時、襲撃者が一歩後ずさるが逃げることはない。正しくは逃げられなかったのだ。五芒星の魔術師たるレインが正面から敵と認識している以上、襲撃者には逃亡の余地などありはしなかった。


「人の中に溶け込み期を窺う。暗殺者としてのあんたの腕は見事に尽きる。村人の中に紛れ込み、いざとなれば今回のように口封じを行い、格上の相手であってもその懐に潜り込んで暗殺する。だが今回は粗が多かった。多分、あんたにとっても予想外のことが多すぎたんだろう」


 窓から差し込む月明かりが襲撃者の顔を照らす。その明かりに照らされるように浮き上がるのは、数時間前までレインに事情を説明し、シャーロットに痛く同情されていた少女の顔。


「リンダ、いや、本当の名前がどうかは知らないが、お前の知ることを全部話してもらおうか。悪いが逃すつもりはない。背後の組織のことも何もかも洗いざらい話してもらう」


 そう言って一歩詰めるレインにリンダはさらに一歩後ずさる。


 襲撃者の正体、夜の闇に紛れてシャーロットを暗殺しようとしていたのは誰であろう、村人の最後の生き残りであるリンダだったのだ。


「どうしてわかったんですか?」


「言っただろ?粗が多かったんだよ。本来はあんたほどの魔殺師ならあり得ないんだろうが、俺たちはあんたにとってイレギュラーすぎた。だからこそ急ごしらえのストーリーで対応するしかなかったんだろうが、あれだけ疑う余地が多ければ欺き通すのは不可能だ」


「そんなにですか。確かに時間はなく、設定も中途半端だったかもしれませんが、そんなにあっさりバレるほど私の演技が下手だったとは思わないんですけどね」


 すでに正体がバレたからか、リンダは特に否定する様子もなく淡々とそう答える。その様子にシャーロットは物言いたげではあるが、特に口を挟むことなくレインとリンダの会話を聞くに徹しているようだった。


「疑わしいところはいくつもあったが、決定的なのはあんたが口走った矛盾だよ」


「矛盾ですか?言動には十分注意していたつもりですが」


「あんたは言ったな?悲鳴が聞こえてきたと。しかもそれが段々近づいてきたと」


「確かに言いました。ですが村人が何者かに次々と殺されているんです。悲鳴の一つや二つあってもおかしくはないでしょう?」


「普通ならな。だが俺たちは村にいて、そんな悲鳴の一つも聞いていない。仮にそれが魔銃師の襲撃前なら聞こえなきゃおかしいし、同じタイミングならあんたの口からはまず銃声の音の発言が出るべきだ。そこに目を瞑り、もし襲撃がその後だったとしてもやっぱり俺たちが悲鳴を聞いていないのは矛盾する」


「ハインツ村長の執務室が特別防音性が高いのには気づきましたか?あんな商売を行っている人ですから、聞かれたくない情報は全てそこで扱っているのでそういう構造にしたそうですよ?」


「確かにそれなら説明はつくな」


「でしょう?だからこそ私はその設定を採用したんですが、もしそれが疑うポイントなら私は随分あなたを買いかぶっていたようです」


 少し呆れたようなため息をつくリンダの様子をみたシャーロットが、にわかに魔力を放出し始める。レインはそれを制するが、おそらくはリンダの態度に行き場のないイラつきが怒りへと変わっていっているのだろう。


 だがリンダからは情報を聞かなくてはならない。もちろん抵抗するなら容赦はしないが、仮に戦闘になって逃げられたら面倒だ。レインならばそれはほぼあり得ないが、魔殺師とはこと搦手に関しては相当の技量を持つ者が多い。交渉でなんとかなるならできればそうしたいのが本音なのだ。


「悲鳴って言ったよな?突然他の村人の悲鳴が聞こえてきたって?」


「言いましたよ?ですけどそれは当然ことじゃないですか?何せ目の前で人が次々と死んでいくんです。騒ぎにならない方が不自然ですから」


「確かにそうだ。村人が本当にその現場を目撃していたという条件がつくがな」


 そう、リンダの証言の綻び。その最たるものはやはり村人が悲鳴をあげたというものだ。


 確かにリンダの言う通り、ハインツの執務室が防音だったとしたらレインたちに悲鳴が聞こえないのはわかる。だが、こと今回の村人の殺し方、つまり背後からの不意打ちによる殺し方で悲鳴が上がるわけがない。


 加えて村人の倒れていた場所を全て確認したが、どの死体も全て互いが見えない位置関係にあったのだ。おそらく殺す際に、目撃されることを嫌っての行動なのだろうが、その魔殺師としての仕事の完璧さが証言に穴を残した。


「これに対する言い分があるなら聞かせてもらおうか」


「ないですね。むしろそんな穴を残した私の完璧な失態です。魔殺師としてこれ以上の抵抗をする気はありませんよ。何よりそちらのお嬢さんはともかく、あなたにはどれだけ足掻いても逃げるとすらできないでしょうしね」


 そう言って手に持っていた短刀を納めたリンダは、大人しく手近にあった椅子へと座りレインに向き直った。


「それじゃあ改めてお話をしましょうか。最も、私が話せることはあまり多くはないですけどね」


 リンダの言葉に従い、レインもまた近くの椅子に腰掛けリンダと話をするために向かい合うのだった。


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連載中である他作品、 【『この理不尽な世界に復讐を~世界に虐げられた少年は最強の龍となり神に抗う~』も引き続きよろしくお願いいたします。
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