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世界が紡ぐ物語  作者: きっしー
7/10

不快ー2

R指定の部分が入っています。

苦手な方は読まずに次話をお待ちください。

読まなくてもわかるようには作っているので、大丈夫だと思います。

登場人物が増えてきてます☆

どこまで登場人物に寄り添える視点で書けるかわかりませんが、引き続き宜しくお願い致します。

スナを見送って、バス停に向かった。

路線のアクセスに恵まれて、最寄り駅にしてる大学や高校も多いからか、平日の午後なのに人は多い。

ここ数年で大きなビルが何個か建ったし、学生の街として賑わいラーメンの激戦区でもある。

全国的に有名なラーメン屋が何軒もあるし、有名な公園もあって、有名な漫画家もよく見かける駅だ。

隣駅が家からの最寄り駅だけど、学校からはこっちのが近い。

本当は学校から家にまっすぐ帰るのが一番近いけど、それじゃ面白くないし、今日は駅に寄りたい気分。

アイスコーヒーは奮発して一番大きいサイズを買った。

帰っても夕食まで持つだろう。

バス停は見慣れた景色のように人が沢山並んでいて、殆んどのバスは最寄りのバス停にとまっていく。

一番列が少ないバス停でバスを待った。

歩いても帰れるけど、今日はバスの気分。

見慣れたバスで見慣れた地元の街を通って、見慣れたバス停から見慣れた道を歩いて家に帰る。

部活があると時間も遅いしあんまりこっちまで来る事もないから、学校帰りの放課後の寄り道気分を楽しむには、やっぱり日常の通学では乗らないバスが一番だ。

少しの時間だったけど、スナと駅ビルを眺めてたら放課後の寄り道気分をまた違う感覚で楽しめたし、スナには感謝だな。

スナは同級生でも気が合う方だったから、男女問わず気軽に話す。

悪ふざけもするし、一緒に勉強もする。

だからスナがあんな冷めた目で彼女や同級生の女子を見ているとは思わなかった。

「普通が一番」

無難さが一番魅力的だっていつも言ってる。

まだオレもスナも中学生だ。

自分を特別と感じたい中二病じゃダメなんだろうか。

特別じゃなくても、無難よりちょっと上みたいな。

たとえば、部活で先輩差し置いてスタメンになるとか、テストで上位二桁前半に入るとか、そのくらいでも十分、ちょっと上だって思うのに。

それもスナは要らないっていう顔をするんだ。

オレは、自分はちょっとだけ特別って思いたい。




家に着くと、メイちゃんのローファーと不自然にデカいスニーカーが目に入った。

このスニーカーの持ち主は間違いなく幼なじみの千尋だ。

物心ついた時には既にからかわれていた記憶しかない。

昔は学年標準の範囲内だったのに、気付いたらどんどん伸びてきて、今やバスケをしている身としては羨ましすぎて憎たらしいくらいの身長になっていた。

手足もぐんぐん大きくなって、今は服も靴も店頭で買うよりネットで買う事が多いらしい。

店頭でもサイズがあるか聞いてあれば取り寄せてたから、ネット通販が気軽に出来る時代になって良かったなーって思う。

ま、オレには関係ないけども。

「ただいまー」

いつも通り、テキトーな声で玄関を上がると、そのままリビングに向かった。

台所に行って、メイちゃんがいつも作ってくれてるルイボスティーをタンブラー半分くらい入れて、一気に飲み干す。

一番冷えてて美味しい。

そのままアイスコーヒーの残りを注いで、氷を四つ入れると、カップと蓋を洗ってプラスチックゴミのゴミ箱に捨てた。

普段使うコップが二つないのを見て、部屋にいるのかなって思った。

台所からそのまま一階の自分の部屋に行ってコーヒーと鞄を置くと、二階の階段を上がっていく。

「ーーーっーー…」

「ーー…」

よく聞こえないけど、

「やっぱ部屋にいるんだ、」

階段を数段上がると二人の声が聞こえた。

普段通り、帰宅報告をして部屋に戻ろうって思っていた。

メイちゃんが不安にならないように、リビングと台所にいない時は部屋まで行って声をかけているから、いつも通りにだらだら階段を上がっていた。

が、あと数段上がる辺りで、声がまた聞こえてきて、足を止めた。

「……っ、はぁ…っ」

「ここーーきーーー…っ」

何か、普段聞くような感じじゃない。

息が荒いっていうか、そんな声じゃないっていうか。

多分、そういう事だって、足が震えた。

静かに一段一段、何故か上がっていて、奥のメイちゃんの部屋に向かってゆっくりと歩いている。

手も足も勝手に震えていて、身体が戻ろうとする気持ちと逆の動きをしている。

部屋に向かって足元が進む度に、声がよく聞こえてきて、頭の中が痺れるような感覚になっていく。

息が出来ない。

部屋のドアが少しだけ開いていて、ドアノブには手をかけなかった。

何故かまぶたが熱くなって、間から見えた部屋の中では、肌をさらして向かい合うメイちゃんと千尋が荒い息を吐きながら唇を重ねていた。

余裕のない声音がメイちゃんから漏れていて、その背中を千尋の指がなぞっている。

千尋がメイちゃんの首筋に唇を這わせて、その腰を抱えるように手を伸ばしていた。

その視線がふとこちらを向き、千尋と目が合う。

千尋の口角が上がって、くっと喉が鳴る音が聞こえた。

「…………!!!!!」

瞬間、全身の血が逆流したように熱くなり、ドアから後ずさった。

口元を振れたままの手で押さえて、息を殺し、今にも倒れそうな足元で静かに階段まで歩いて、階段で座りこむ。

声にならない嗚咽が自分から漏れる事があるとは思わなかった。

とにかく自分の部屋に帰りたい。

座ったまま一段一段降りて、部屋まで歩いたのか這ってたのかもわからない。

涙が溢れて止まらなかった。

こんな事はあってはいけない。

こんな感情、あってはいけない。

オレはこんなの知らない。

激しい怒りが乱気流のように荒れ狂っている。

何に対しての怒りか、知ってしまった。

そこにまた反発したくて怒りを覚えて、どうにもならない事にまた怒りがこみ上げてきて、悲しさと空しさが怒りと入れ替わり立ち替わりで押し寄せてくる。

吐き気がするけど、吐くわけには行かない。

鞄を持って、ふわふわの絨毯を歩いているような感覚のまま、玄関に向かった。

オレは今、ここにいてはいけない。

必死に身体が熱くなるのを抑えて歩くけど、どこに行けばイイのかもわからず近所の公園に向かった。

広い公園だから、学生も少ない時間帯、端の方で中学生が一人でいたってどうもないだろう。

鼻をすすりながら、未だ落ち着かないいろんな感情が何度も何度も津波のように重なって押し寄せてくる。

寄り道しないで帰ってたらとか、もっと遊んで帰ってたらとか、異次元を想像したりして、変わらないのに無駄な事を考えてしまう。

涙が零れてくる。

近くの水道に頭を突っ込んで蛇口をひねった。

勢いよく出てくる水はなまぬるくて、鉄の味がした。

こんな感情、オレは知らない。

あってはいけない。

実の姉に触れてる千尋に嫉妬してるなんて。

認めたくない。

こんな特別な自分なんか、要らない。




近くの小学校のチャイムが、五時を知らせた。

まだまだ外は明るくて、真夏日の今日は特に暑さが引かない。

そろそろ帰らないと。

落ち着ききらない感情のまま、家に帰った。

メイちゃんはいつも通り、おかえりと短く言って、台所で夕飯の準備をしている。

勉強しながら部屋で食べる事を伝えて、自分の部屋にこもった。

勉強道具を一通り並べて、ベッドに突っ伏する。

アイスコーヒーの氷は既に溶けきっていて、机に水溜まりが出来ていた。




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