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世界が紡ぐ物語  作者: きっしー
3/10

違和感ー1


「意味わからん」


親友の高村千尋という高校生男子は、シンプルな事を複雑にするのが得意だった。

性モラルの低さもこの特技の変則スキルというか、もはや上級魔法だろう。

童貞を守って30越えると魔法使いになれるって言うが、早く捨てても魔法使いになるんだろうか。

きっと闇魔法に違いない。


梅雨明けが近く刺すような日射しが混じりだす季節、珍しく湿気が少ないと感じた昼休みが始まり、たまには外で食べようかと屋上に向かった。

建物の上の屋外だけに風が強く、特にこの高校は五階建てとあって、風のない日でも強めの風が吹く。

ゆっくり休みやすい環境ではないからか、意外と人が少なく穴場だった。

授業の合間に購買で買っておいたパンを持ちながら、途中の自販機でメロンソーダを買う。

普段使う教室は三階までに収められており、四階五階は美術室や音楽室、科学室等の移動教室がメインになっていて、人気も少ない。

五階への階段に昇ろうとした所で声をかけられ、階段に近い美術室の横を千尋が歩いてきた。

「レイ、どこ行くんだ、」

教室の扉よりも頭一つ分飛び抜けた高さの木偶の坊が、でいだらぼっちのようにのらりくらりと歩いている。

「屋上で昼飯、お前も来るか?」

「ああ、いいな、」

その少し後ろの美術準備室のあたりに、うつむいた女子生徒が立っていた。

左の耳元に巻いただろう癖の付いたロングヘアーを束ねて、両手を目元にあてている。

「…いいの?」

女子の方向に軽く首をかしげたが、千尋は彼女を見もせず話は済んだから、と先に階段を昇りだした。

左手にしっかり弁当と水筒を持って来ていて、最初から教室の外で食べるつもりだったようだ。

屋上への扉は開放されていて、登るのも苦労しそうな高さの縦格子の柵と、指一本がようやく入るような細かい網が設置されている。

何もない屋上だったが、棄てられたお菓子の袋や空き缶、ペットボトルが風で隅に追いやられていて、たまに使用済みのゴムがあったりした。

こんな汚い外で致すとか、しかもそのまま棄てるとか、俺的にはねぇなって思う。

女子に失礼過ぎるだろ。

柵の手前には段差があって、出入口の日陰になる場所に座って食べるのが一番使いやすかった。

「最近暑くなってきたから誰も来ないみたいだな、」

「ん、ゴミも少なくていいな、」

千尋は手早く弁当を広げはじめ、水筒に口をつけて二、三口飲みこんだ。

ごくん、ごくん、と喉が鳴る。

「さっきの子は告白か?別れ話か?」

「ん、告白。好みじゃないから断ったら泣いた」

「……何て言ったんだよ、」

高村千尋はこの長身とそこそこ整った顔面から、万年モテ期のような男だった。

小五の後半から成長期をむかえて、半年で10センチ以上のペースで伸びていったらしい。

タケノコかよ。

中学に入る頃には既に170を超えていたとか。

背が高くて顔面偏差値そこそこの男は、無条件で女子に好かれる傾向がある。

おまけに眼鏡だ。

告白の類は大体昼休みか放課後だったが、こいつと向かい合う女子は大体泣くか怒るかで、喜びに笑う事はほぼない。

というのは知っていたが。

「アンタの告白ってただの自分の願望の押し付けだよなって、」

ジュースを落としかけた。

この男は、この背丈になっていく成長期に大人と子供のアンバランスさが生まれ、それに血迷った塾の女講師に小六の冬休み、大人の階段を昇らされたらしい。

当時の写真を見せて貰った事があるが、納得の魔性度の高い風貌だった。

だがその事が無意識に本人のトラウマになっているんだろう、恋愛に関する女には冷酷だった。

察しはつくが一応聞いてみる。

「はぁー!?ただの告白で何故その返答が出てくる!!」

「や、好きです付き合ってくださいって言うから、気持ちは嬉しいけどごめんって言ったぞ、最初は。でもいろいろ詮索してきてしつこいから、早く終わらせたかった」

「お前ねぇ…」

ため息をついて、ピザパンをほお張った。

今日の購買はタイミングが良く、人気のピザパンと特大ホットドッグ、幻の生クリームパイがどれも棚いっぱいに置いてあり、豊作だった。

こんな話をしながら昼飯を食べるのもどうかとは思うが、パンに罪はない。

んまい。

「ま、最初にちゃんと断ったんなら、仕方ねぇな!」

「うん、」

嫌な言い方で断った自覚はあるらしい。

それでも、よくそんな言葉が出てくるなとは思った。

「あれ、その弁当、今日は桐島作か?」

「ん、やらんぞ」

「期待してねぇよ、その卵焼きしか」

「一番やれない」

鮭の乗っけ丼という感じだが、端にキャベツと人参の浅漬けと綺麗な形の卵焼きが添えてあった。

千尋と桐島の親は本当に仲がいいらしく、お互いの家がどっちかの家で食事する感覚らしい。

千尋の両親は出張が多く、大学生の姉貴も家を出てるので、その時は桐島が千尋のお昼も用意してくれるそうだ。

そして、桐島の卵焼きがかなり美味しい。

前に一度だけ貰ったが、料亭かってくらいの絶品だった。

本当はいろんなバリエーションがあるらしいが、千尋がシンプルなこのだし入りの卵焼きが好物過ぎて、卵焼きの時は必ずこれを入れてもらっているそうだ。

夫婦かよって思ったが、桐島にその気はない様子だった。

お互いにお互いだけなら悪い物件じゃないと思うんだけど、どうやら違うらしい。

「お前らってさ、丸く収まってさっさと結婚しちまえばって思うんだけど、」

「ははは、無理無理。百歩譲ってもメイは家族にしかなってくれないって」

「うぅん?」

「金持ちか昔の貴族同士の政略結婚みたいに」

「その発想が出るお前もそれが出来るかも知れない桐島も、こえーよ…」

生クリームパイ、んまい。




明日から資格取得の為にスクールに通います。

場所が遠くて今までの仕事よりも早い起床。

寝起きの悪い人間にはキツいけど、きっと慣れるでしょう(笑)

向き不向きがあっても、経験という慣れで何とかなると思っています。

世の中は、辛勝。

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