#01-01この世界は夢現に繋がる?
取り敢えず最初は呑気な筈?
2019/11/5 微修正
憂鬱な気持ちを抱え、学校へと向かう。道を歩き、駅へと向かう。道中に哀しいものを見る。せかせかとマグロが如く歩く者、弱い人を見ては苛めてしまうもの、何も言い返さずただ舌打ちをするもの。ただ刻限に追われる者を見て、ああはなるまいと思いつつ歩を進める。
地下鉄の駅を降り、電車の中に入り、席に座る。すれ違いざまに声をかけられる。
「危ねえよ。喧嘩売ってんのか。どう責任取んだコラ。」
座り切るに、未だに煽り続けるのを聞いて思い出す。そういえばこの人はいつも喧嘩を売る練習をしていたことを。
そちらを放置し、リュックから本を取り出し、没頭する。狭い現実を逃れ、本の世界へと逃避する。文字を辿り、世界を周囲に構築する。
頭上の影がふいに動きの角度を変えた。降りてくる、と見て取って柄を握る手に力をこめる。振り上げるまもなく、鳥はもう一度角度を変えて、ふたたび宙を旋回する体勢にもどった。
世界が山岳に変化する。空に戦闘態勢の鳥が浮かび、目前に剣構える少女が佇む。返り血と紅髪と左手に握り込まれた蒼い珠とが鮮やかに彩る。風音と足音と羽ばたきとが空間を揺らす。
「絢織三条ー。絢織三条ー。」
地下鉄の声に日本へと戻される。つい口から独り言が溢れる。
「はあ、もう少し頑張ろ。」
虚空に消えるのを意識しつつ、歩いて校門を通る。そのまま玄関を抜け、教室へと向かう。現在時刻am7:35のため誰もいない教室にて挨拶をする。
「おはようございます。」
必要はないが習慣ということで残し続けている。席に腰を下ろし、本を開き、ふたたび沈み込む。チャイムが鳴り響くのに合わせて、さらなる深みに落ちる。
帰りのミーティングが終わるとともに教室を出て、昇降口にむかう。玄関を出てすぐ声をかけられる。
「絢波。金貸して。」
自称『友達』が寄ってくるが無視して足を進める。その反応に気を害したのか、つかつかと歩み寄ってくる。
「友達が困ってんだから助けてくれるよな?」
物凄い妄言を発すのに堪え兼ね私は声を荒げる。
「私には芹澤さん、あなたと友達になった覚えはないしなる気もない。あなたと私は同級生というだけでそれ以上でもそれ以下でもない。」
そう言い捨て、校門から出て行く。後ろからさらに騒ぐ声が聞こえるが黙殺して駅へと向かう。
あまりの鬱陶しさについ愚痴っぽくなる独り言。
「高校生にもなって脅迫とお願いの違いも分かんないとか頭おかしいんじゃないの。親の顔が見てみたい。」
地下鉄が遠野に着いたことを確認すると急いで降り、走って家に帰る。家に帰り着くと、鞄を下ろし制服から作務衣とも浴衣とも袴とも言えない和服擬きに着替えると、足袋と草履に履き替え折り返すように家を出る。そのまま山へと入り、神社に向かう。古地図で照合するに雪嶺神社というらしい。鳥居は辛うじで残り本殿は崩壊しかかっているが、それを修復することをここのところの趣味としている。
今日も例に倣い修復に入る。懐から図面を取り出し、頭に叩き込む。そして足場を組み立て直し修繕しつつある部分に取り付ける。
「よし。準備は終わり。神様に奉納してから、修繕に入りますか。」
独り言を呟きながら、荷物を下ろす。記憶に従い綱を張る。即席の結界作ると中に入り、心を落ち着かせる。用意を整えると、古書に従い足を運び、腕を動かす。古くからの伝承に従い、舞う。
一通り舞いおえると作業に取り掛かる。荷物から鉋を取り出し、前日切り出しておいた木材に鉋をかける。そうして出来上がった大黒柱を立て、新たな木材を『ローレライ』を歌いながら探しに森の奥に向かう。
「Inc Weiß nicht, was soll es bedeuten, Daß ich so traurig bin ・・・・・」
30分程歩いた頃、視界に動く物が引っかかる。不思議に思って追ってみると、鹿がいた。晩ご飯に丁度良い為、神社に戻って弓を回収したのち追跡に移る。枝の繁り方から、鹿の行動を予測し先回りする。そうして追跡していくが、予測を外され続けていた。まるで此方の行動を読んでいるが如く鹿は動いて行く。さらに深追いすると見失い、私自身道に迷っていた。だがまだ日は高い。気にせず進むと、一つの館に行き当たった。外観としてはとても赤い西洋館でありこの空間とは不相応で怪しい感じになっている。それをさらに怪しくしているのは門に掲げられた可愛らしいwelcomeの文字と居眠りしている中華風の服を着た門番である。とはいえようこそと歓迎されているようだし、かなり好奇心もくすぐられるため、門を堂々と開けて侵入する。ぱっと見と違い入った直後に道があり両サイドに庭園があった。あったが何故か日本庭園だったという事実を置いてさらに先に進む。
扉を開け館の中へと入ると使用人らしき人に案内され客間へと通された。客間の奥には女性が一人腰掛けており、私にも腰掛けるように促してきたため、それに従い手前の椅子に座った。
私が座るとすぐに彼女は話始めた。
「ようこそ、蓬莱紅茶館へ。館主の薄雲深雪です。よくお越しくださいました」
「いえいえこちらこそ丁寧に歓迎していただきありがとうございます。私は絢波狭霧と言います。よろしくお願いします」
丁寧な挨拶に私も答える。
彼女は続けていう。
「それにしてもよく似た名前ですね。私たち」
「どこらへんがですか?」
「少しこじつけになってしまうのですけど、”薄雲”に”深雪”に”絢波”に”狭霧”でしょう。これは全て特型駆逐艦の艦名なんですよね。しかも私は吹雪型で、貴女は綾波型で統一されています。なので似ているかな、と」
その答えに私はつい笑ってしまった。
「笑ってしまってごめんなさい。でも私、こじつけと言われたのでとあるラノベの妹キャラに”深雪””沙霧”がいたのを思い出してそちらかなと思っていたら、もっと別のことだったので。」
「確かにそういう共通点もあったわね」
そういうと二人で顔を見合わせ盛大にに笑いあった。
「それはそうと深雪さん、一つ気になっていたのですけど、予め私が来ることがわかっていたような感じだったんですか?」
その質問に彼女は少し躊躇った後、こう言った。
「森の中で弓を片手に走ってる貴女を見つけて、来てくれたらいいなって思ったからwelcomeって掲げて使用人に話を通しておいたの。貴女自身と貴女の家族さえ良ければ夕食もここで食べてくれないかしら?」
「私には家族もいないので貴女とご飯を食べれるのなら願ったり叶ったりです」
その答えに彼女はしまったという顔をする。
「狭霧さん、家族のことは聞かない方がよかったことなの?」
「ううん、大丈夫よ。私は捨て子だったらしくて、そこの住職さんが親代わりになって、お寺で育ったの。で高校生になる時に一人暮らしになったの。それよりも、まだ5時だしもっとなにかして遊びましょう」
「そう、そうね。その方がいいわ。じゃあ、チェスでもしましょう」
「私、チェスは弱いですよ。将棋にしましょう」
「わかったわ。ちょっとまってね。道具を取ってくるから」
彼女は隣の部屋へ行き、将棋盤と駒を取ってくる。ーー
「あらもう七時ね。楽しい時間は短いわ」
その声を聞いて私は悲しくなって、ついこう言った。
「えっと、また明日も来ます」
私の答えに何かを考える深雪。
「こんな妹が欲しかったかな」
そうポツリと言った深雪の声を私の耳は律儀に聞き取っていた。
「いえあの、私もこんな感じのお姉ちゃんが欲しかったですし」
深雪はそれならと言った感じで話を切り出す。
「なら、私が姉がわりになりましょうか?」
「不束者ですがよろしくお願いします、お姉ちゃん」
それを聞いて深雪が一瞬固まった後に嬉々として返す。
「こちらこそよろしくお願いします、狭霧。それともう一回呼んで?」
「お姉ちゃん」
「狭霧」
「お姉ちゃん」
「狭霧」
その問答で嬉しさのあまり、深雪に抱きついた。
「お姉ちゃん、ありがとう。それと、大好き。」
「なんなら泊まっていってもいいのよ。」
「凄い嬉しくて魅力的だけど、自分の家もあるからね。」
「そうね。じゃあ、狭霧の運命、占ってあげるわ。」
そういうと深雪はどこからかタロットカードを取り出し占う。
「貴女の見たがっている神秘は意外と早く見れるでしょう。こんな感じね。後、これをあげるわ。もうちょっと近寄りなさい」
「うん。」
そうすると深雪は髪に何かをつけた。
「鏡をみてみなさい。」
その声に従って鏡をみると、綺麗な蒼い小さな珠のついたヘアピンが留めてあった。
「ありがとう、お姉ちゃん。でもこんなに綺麗なの、貰っていいの?」
そう聞くと少し照れたように深雪はいう。
「いいのよ、貴女の方が似合うし。それにたった一人の妹だしね。」
「本当にありがとう。それとおやすみなさい。」
「ええ、おやすみなさい。暗いから気を付けてね。」
その声を背に館を出る。門を通り抜け、少し歩いて後ろを振り返ると、そこにはただ野原が広がっているだけだった。
「化かされたかな?まあ、お姉ちゃんができたし食費も浮いたから、いいかな。」
そんなことを考えつつ、もう少し歩くと雪嶺神社に戻ってきていた。道具を回収すると、急いで家に帰って、眠った。
翌朝、教室で本を読んでると、クラスが全員集まったタイミングで床に見たことあるような魔法陣が展開された。私はあの占いはこういうことだったんだなと思いながら、安心して魔法陣の光に呑まれた。
これはのちに、神隠しの一つとして伝えられたそうだ。
できれば続きも読んで欲しいです。