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ファニー・レイヤー  作者: ほしP
3/3

第三話 私、バーチャルキャラクターになります!!3

前回までのあらすじ

バーチャルキャラクターになります!!と啖呵を切ったはいいものを、

その結果は見事書類落ちしてしまう。

それでも、やはり夢をあきらめきれない彼女は新たに大型オーディションへの

参加へと新たな一歩を踏み出す。


第三話 私、バーチャルキャラクターになります!!3


3月18日、午後12時。早めに昼食を済ませた歌恋は、自分の部屋の机の上の突っ伏せてうたた寝をしてしまっていた。

うたた寝の最中、彼女は夢を見た。ぼんやりとしていて、本当に曖昧な雰囲気の夢だった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――


夢の中で彼女は病院の検査室の椅子に座っていた。周りを見渡すが、あまりにもぼやけすぎていて、なにも視認できない。

そんな中、二人の男性の声のやり取りだけが聞き取れた。


「先生…彼女は…?」


「おそらく………でしょう。希望であれば、薬物投与などを用いた記憶治療を…いかがなさいますか?」


「…いえ。今は答えが出せません。少し時間を…。」



医者であろう声は全く身に覚えがなかった。しかし、もう一つの声には聞き覚えがあった。だが、全く思いだせない。


夢の中で瞬きをすると、場面が変わった。次は、祖父の声と、その男性の声だった。

歌恋は、その男性の声は確かに聞き覚えがあった。何回も、何十回も、ともすれば祖父よりも聞いた声だ。

その男性と、祖父の会話が続く。



「お前さんは、それでいいのか?」


「…たぶん。忘れたほうがいいこともあります。それに…大切なものは…」


夢はそこで途切れた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「…寝てた。…まじか。」


重たい頭を机から起こして、起きたばかりのぼんやりとした脳で彼女はぼーっと考えていた。

今の夢は、歌恋が時々見る夢のひとつである。彼女は他にも様々な夢を見るが、この夢を見る確率は非常に高い。

夢のせい…とは限らないが、入院時期を含めて、歌恋はあまり自らの病名や、状態を知ろうとはしていなかった。興味がないわけではない。

なぜか、決して触れてはいけない何かのような気がしてならなかったのだ。


「私って、なんなんだろう。」




-----------------------------------------

その日の午後19時。

祖父と夕飯を食べているとき、歌恋は思い切って過去の自分を祖父に尋ねることにした。

それは入院していた時期の彼女では、一切聞いた事はなかったことだ。


「…ねぇ、おじいちゃん。私って、昔、どんな人間だった?」


すこしだけ、あっけにとられたのか、祖父・猛の咀嚼のスピードが一瞬下がる。

「…。」

猛は茶碗を机に置いて、その上に箸を重ねた。そして、歌恋の目を見つめると…ゆっくりその口を開いた。



「…基本的には今と変わらんよ。」


「基本的には…?」


「ああ。ただ、今の歌恋ちゃんのほうが…以前のお前さんよりも、ずっと前を見ておるよ。」


その一言は、彼女に過去の自分に対するある印象を与える言葉になった。それは…


(え、過去の私…そんな根暗な感じだったの?)


この会話により、歌恋の中に、

「以前の水島 歌恋 根暗説」が浮上した。

しかし、そんな彼女の心中など無視して、猛は夕飯を食べ続けた。

結論的に…心の中で歌恋は…


「今のままでいいや…」となって、この話はこれ以上進むことなく、会話は終わった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


その夜、祖父の猛が歌恋が眠ったことを確認すると、猛は自分の書斎へと入った。


そこで、パソコンを起動し、メールを開く猛。しかし、その手つきは、かなり不慣れな様子の操作であった。

一つ、一つ紙で操作方法を確認しながら、彼はようやく送信画面にたどり着く。

その内容は「相談」と打ってあるものだけであった。


しばらくすると、彼の携帯電話に着信が入った。


「もしもし…猛だ。そう、いつも助かる。…で、次は何をすればいいんだ?…ん、なろほどな。つまり、メールに書いてある指示書通りに動けばいいんだな?…わかった。」


彼は電話を続ける。


「なぁ、わしが言えたことではないが…あんたがあの子を見てあげたほうがいいのではないか?…そうか、わかった。」


そして、別れの挨拶をした猛は、そのまま電話を切った。その後、慣れない様子でメールの受信トレイを確認し、その文面を自らの手帳に書き写す。

内容は…「歌恋の今後の行動指針」と書かれていた。

それを書き写す最中、猛は終始、なんとも言えない感情に支配させていた。

そして、感情を吐露するように一言、こうつぶやいた。


「…。お前さんが…それでいいなら、わしは付き合うぞ。」


その後、彼はパソコンの電源を落とし、就寝した。



3月25日。

祖父の家事を歌恋が手伝い、一週間が過ぎた。その間、全くと言っていいほどダメだった歌恋の家事スキルは、多少であるが上達していた。

そして、その日の暮れ方…ついに「大型オーディション準備会」から連絡メールが彼女のメールアドレスに届いた。


「つ、ついに来たよ…!おじいちゃん!」


「ああ…果たして、どうなることやら…。」


二人して、スマホの画面に張り付き、メールを開封する。

そして、簡単な挨拶が書かれた後に


『カレン・ミー様この度は…』


名前を見た瞬間、猛が口を出した。

「なあ、もしかしてこのカレン・ミーって…」


「う、うるさい!!思いつかなかったの!!」


文は続く。


『カレン・ミー様 この度は、【新人大量発掘!! 第三回大型バーチャルキャラクター、オーディション!!】に、ご応募いただき誠にありがとうございました。厳正なる審査の結果、カレン・ミー様はエントリーナンバー《67》になりました。』


歌恋と猛は、一瞬止まった。

何度か目を合わせ、そのあと歌恋が天高く拳を突き上げ、


「やったぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!」


と歓喜したことは言うまでもなかった。


その孫の溢れんばかりの笑顔を見て、微笑ましい気分になる猛。


「お前さんの諦めない心が、チケットをくれたんだろうな。」この言葉に対して、歌恋の答えは意外なものだった。


「うん…でもまだチケットだよ。今からが勝負なんだ…!」


その言葉に、猛は…自分の回答が間違いではないことを再認識することになった。

歌恋のまっすぐな瞳は、猛にはとても眩しいくらい輝いていた。


「うん、それで、これは…二次審査はどうなるんだろう…?」


メールをしたにスクロールすると、詳細なイベントの情報が乗せられていた。

その情報を、歌恋は小さな声で読み上げていく。


「開催場所は東京展示場…あ、会場あるんだね…。開催時期は…4月25日…。面接では…なるほどね。」


「…本当に大丈夫か?」

嬉しい気持ちとは裏腹に、若干心配になった猛がつい歌恋に尋ねる。



「だ、大丈夫だよ!!えっと…ゲーム実技…あのレースゲームかぁ。」


その一言に、猛は反応した。

「歌恋ちゃん、そこに書いてあるゲーム…知っているのかい?」


「え…だって、このゲームは…えっと…」


そう言いかけた時、また歌恋は言葉に詰まった。そして、歌恋はそのまま頭を抱えてうつむいてしまった。

なぜ、このレースゲームを知っているのだろう…。それは彼女自身にもよく理解できなかった。

猛もこの状況も見て、驚いていた。なぜならば、これまで、彼女が何かを自発的に思い出すことはなかったからである。


そして、猛は思わず歌恋に問いかける。


「…まさか、歌恋ちゃん。なにか、このゲームに思い出がある…」

そう言いかけた時、その言葉を遮るようにバッと頭を上げ、猛のほうをみて歌恋は勢いよく語りだした。


「そ、そうだよ。このオーディションを調べているときに記事で見たんだ!! いやー、すっきりしたよ!!」


猛は、その答えに腰を抜かしていた。

それは、【この子が記憶を思い出すのではないかと思った】からである。

ため息をついた彼は、小さな声で


「なるほどな…。わしは少し休むよ」というと、立ち上がり居間をでた。

そしてそのまま、彼の書斎に引きこもってしまった。


この祖父の行動には、歌恋は「はーい。」と返事をしただけだった。


「…私…なんか…悪い事…したのかな…?でも…とりあえず…がんばる!!」

両手を軽く握り、歌恋は気合を入れなおした。



そんな、らんらんと輝く目の傍らで書斎に戻った祖父は、ある古い新聞記事の詰まったスクラップブックを読んでいた。

様々な記事が書いてある記事の中で…彼は一つの記事に目をやっていた。

記事の日付は三年前の3月7日。


記事にはこう書いてあった。


『バーチャルキャラクターの演者・飛び降りで自殺未遂か。共にいた男性も重症。』…と。








この物語はフィクションです。

実際の人物・団体とは一切関係ありません。

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