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ファニー・レイヤー  作者: ほしP
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第一話 私、バーチャルキャラクターになります!!


【第一話 私、バーチャルキャラクターになります!!】



ファニー・レイヤー。

彼がそう呼ばれているのを知ったのは、ちょうど2年前のことだった。


当時、私、〔水島みずしま 歌恋かれん〕は、不慮の事故により半年くらい意識を失っていて、記憶も一部欠如しているそうだった。正直、記憶がないと言われても全く実感がないのが感想です。


寝ている間に、体力がかなり落ちていて、その回復のため一緒に暮らしている祖父の自宅付近の北竹病院という結構大きな病院にリハビリ入院をしていた。


入院していた病院内での私の楽しみは、三日に一回来てくれる祖父のお見舞いと毎日、動画サイトで【生配信】という形で放送される彼の…ファニー・レイヤーの配信だった。


ちなみに、この動画を教えてくれたのは祖父…なんで知ってたんだろ…。


彼は、動画プラットフォームを通し、キャラクターを演じている人だ。これを、バーチャルキャラクターというらしい。バーチャルキャラクターの登場は今から5年前で世間一般では今から認知され始めたような文化だ。


そして、そのキャラクターを演じている役者さんを、みんなは〔演者〕さんと呼んでいる。

しかし、ファニー・レイヤーだけは、リスナ―間で〔ピエロ〕だとか、〔キザなお笑い芸人〕とかいろんな呼び名があった。

私は、彼の動画を病院の消灯時間まで何度もみた。暇さえあれば、彼のSNSなんかをチェックしていた。…直接コメントできるようになったのは最近だけど。


そうして、ファニー・レイヤーにたくさんの元気をもらった私は、次第にこう考えるようになった


========================================


「おじいちゃん! 私、有名バーチャルキャラクターに…なります!」


その身長150センチ無いような小さな身を乗り出し、見舞いに来ていた老人に啖呵を切った少女がいた。

名前は、【水島 歌恋】。

啖呵を切られた相手、彼女のセリフにあるように彼女の祖父である【水島 猛】はこの言葉を聞いて、少々あっけにとられていた。



そして、祖父は少し間をおいて次のように返した。

「せやなぁ…。」


「おじいちゃん!私は真面目に話しているの!! そんなネタで乗ってくれるのはうれしいけど…今はちがうの!!」


「しかしまあ、いきなりどうした。何かに影響されたのか?」

猛は尋ねた。


「え、影響…っていわたら…そうなるかも…。」


猛には心当たりがあった。彼女が影響を受けている奴は、おそらくではあるが自分が紹介した【役者ファニー・レイヤー】であると。

しかし、この話は今の彼女の現状からしたら到底かなうはずもない事である。猛は深いため息を吐いて歌恋に語り掛けた。


「歌恋ちゃん…。歌恋ちゃんが、ファニー・レイヤーにあこがれる気持ちはわかる…。だが、お前さんの今の状況…入院なんてしている状況じゃそんな話は始まることさえできないぞ。だいたい、バーチャルキャラクターはわしもよく知っているが…うちのような山の集落じゃ、配信ができる設備さえ用意が出来ん。」


「で、でも…。あの…。」

歌恋は、うまく返せなかった。頭の中に言葉がいくつも浮かんでいるのに、声に出そうとすると詰まってしまう。


「…そうだな、じゃあ、一晩ワシにくれないか? お互いに冷静になろうじゃないか。お前も、約一年は寝ていて、二年間くらいの記憶がないといっても、もう21歳だ。現実は…甘くない。」



その夜、歌恋は天井を見上げて考えていた。確かに、現実は甘くはない。それは、ファニー・レイヤーも言っていた。

彼は、以前の動画でこう話していた。


『努力と結果は比例しない。けれど、それを最大限近づけるものが、ひらめきや経験だろう。それは、努力する過程でしか生まれない。』


…と。


「…私は、努力さえしていない。ただ毎日動画をみて、妄想をして、リハビリをしているだけ。」

病室のベッドに覇気もなく寝転びながら、歌恋はそういう思いにふけっていた。

この際、自分自身を客観視したところで、現状は変わらない。そんなことは彼女自身もわかっていた。そして、歌恋には以前の記憶が欠如していたり、あやふやな部分が多い。

『自分は過去に努力はしていたのか』と聞かれてしまうと、その部分がない彼女は自身が何一つ持てなかった。


スマホの画面を見ると、大好きな『ファニー・レイヤー』を背景に、23時と時刻が表示されていた。

歌恋はただ、暗い部屋で時刻が過ぎるのを見ていた。


「あと23分で、3月10日になるよ。ファニー・レイヤーさん。…私、どうしたらいいんだろ。」


そんなとき、またファニー・レイヤーの動画のなかで、彼が言っていたセリフを思い出した。同時に彼の動画を何十回とみていた彼女だからこそ、

そのロック画面のファニー・レイヤーが語り掛けてきているように感じた。


『明日なんかじゃ手遅れ。次のバスに乗り込もうぜ。』


とたん、歌恋に勇気が湧いてきた。


「そうだよ、明日じゃ遅いんだよ…。今しかない!!!!」


彼女は、勢いよくベッドから飛び起きると、ナースセンターの元へ走った。カルテ記入を行っていた当直看護師の目に、すごい形相で走ってくる

少女が映る。あわてて、イスから立ち上がり、歌恋の前に立ちふざがった。

当直看護師にしてみれば、正直な話、気でも動転したのかと思ったに違いない。


「電話を貸してください!! おじいちゃんと話したいんです!!」


「え、が、外線ですか?一体なんででしょうか?」


歌恋は戸惑った。これに対してどんな風に言葉をだしていいのか…また文字通り、言葉に詰まっていた。

それでも、彼女は止まるわけにはいかなかった。


「い、いま電話しないと明日になってしまうからです!!」

歌恋は咄嗟に答える。


もう、当直看護師もこの日の疲れも重なり、ほとんど頭が回っていなかった。

ついに、看護師は「あ、はい。」と答えてしまった。


「ありがとうございます!」


外線番号にはナースが繋いだ。その繋ぐ先は…彼女の祖父、水島 猛宅だった。


4~5回のコールののち、祖父が電話に出た。


『はい、水島です。』


「おじいぃぃぃぃぃちゃん!!!!私、歌恋!!!」


『なんだ、なんだいきなり…』


「おじいちゃん、私…やっぱり、バーチャルキャラクターになりたい!!そして、私がファニー・レイヤーからもらったものを、みんなに返したいの!!」


夜間で静かな病棟で、彼女の声は響くのは十分であった。

当直看護師は隣で、必死に口に人差し指をあてて、【静かに…!】というジェスチャーをしていた。

しかし、そんな看護師の素振りに気付くこともなく、歌恋は電話ただ一点を見つめていた。



『で、歌恋ちゃん、その為にはどうするんだい?』


「…わ、私なりに考えてみたんだけど…まず、えっと、オーディションを受けようと思っているの!」


『オーディションとな、一体どこのどんなオーディションなんだい?』


「えぇ…と…。」


歌恋はまた言葉に詰まってしまった。

というか、見切り発車過ぎて、どうやってこうやるといった行動までも考えていなかったのだ。

彼女の、頭のなかはまた、混乱状態が始まりかけている。色々と感極まって、今にも泣き出しそうな気分だった。


『なら、こういうのはどうだ?URLを携帯に送る。確認してみてくれ。』


彼女のスマホに猛からのメッセージが届く。

歌恋が、リンクにアクセスすると、そこには『蓮華団 バーチャルキャラクター新人選抜会開催のお知らせ』という文が書いてあった。


「蓮華団…新人採用…。こ、これって…、おじいちゃん?」


『わしができることなんぞ、これをお前さんに伝えることだけだ。本当は、お前さんには…普通の人生を歩んで、それでいて…』

ガチャンッ!!!!

猛が、言葉を言い終える前に、通話は切られていた。

その一部始終をただ見ていた看護師は、何とも言えない感情に支配されていた。


その看護師に向かって、歌恋は再び、宣言した。


「看護師さん…」


「は、はい…」


「私、有名バーチャルキャラクターになります!!!!」


23時58分に行われた水島 歌恋の宣言は、響くには十分なほど病棟に響いた。

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*この物語はフィクションです。

実際に存在する人物・団体とは一切関係ございません。

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