作品紹介
『庸滅亡』 作者:文叔様
https://ncode.syosetu.com/n7549cw/
宦官の支配により腐敗しきった庸帝国は、あやうい安寧の中に爛熟期を迎えていた。しかしその夢も一朝で破られてしまう。北辺を守る長城を北の蛮族、勇猛な遊牧騎馬民族に突破されてしまったのだ。
溶岩流さながらに、北から南へ殺戮と略奪を繰り返しながら進撃をつづける騎馬民族に対し、為す術のない庸の宮廷と軍隊。しかし騎馬民族の内部でも戦いや抗争があり、央華の大地は混沌の濁世に飲み込まれてゆく――
書評
中国を参考に設定された央華大陸という架空の世界を舞台にした『リアル系戦記もの』である。舞台設定が秀逸で、まるで現実の歴史を舞台にした物語を読んでいるように感じることができる。特に騎馬遊牧民族の荒々しさが躍動的に描かれているのが特筆すべきところだ。『銀河英雄伝説』や『アルスラーン戦記』を読んで小説が好きになったと語る作者様は、この央華大陸を舞台にした物語をシリーズとして投稿している。関連作品もぜひお勧めしたい。
『愚者達の戦記』 作者:六三様
https://ncode.syosetu.com/n7857u/
第1章 <征西編>
宿敵カルデイ帝国との数百年に及ぶ戦いの末、ランリエル王国はついに帝国を打ち倒した。ランリエル王国の次なる目標はバルバール王国。大国コスティラに接し、攻め寄せるコスティラ軍を幾度となく退けてきた小さな国である。ランリエル王国稀代の名将サルヴァ・アルディナと、バルバール軍総司令官フィン・ディアス。知略をかけた2人の戦いの幕が上がる。
第2章 <皇国編>
国々に軍勢を進めたボルディエス大陸東域の若き覇者ランリエル王国第一王子サルヴァ・アルディナ。戦いは終ったと、彼はその統治に力を尽くしていたが、大陸にはまだ多くの野心を持つ者達がいた。覇道を目指す皇国の皇子。野心に燃える王国の宰相。自らの野望の為、彼らはランリエルは危険なりと唱え、大陸を戦乱の渦に巻き込もうと画策する。これも自らが招いた事か。サルヴァ・アルディナは新たな戦いに身を投じるのだった。
書評
投稿開始が二〇一一年であり、現時点で七年半もの間投稿をつづけ、文字数は二二〇万字におよぶ大作である。賞賛すべき創作意欲だが、優れているのは物量だけではない。登場人物が皆有能かつ魅力的に描かれており、その才覚によって鎬を削っている。策謀が交錯し軍勢がぶつかりあう様は、戦いにおける仄暗さも荒々しさも共に引き立てている。国家の大戦略から戦場の一騎打ちに至るまで物語に組み込む作者様の意欲には、ただただ敬服するしかない。『リアル系戦記もの』に興味があれば、ぜひお勧めしたい一作である。
『戦鬼の王国』 作者:高嶺の悪魔様
https://ncode.syosetu.com/n8537dx/
遥か昔、世界にまだ大陸が一つしかなかった頃。二つの巨大な勢力が睨み合う大陸の中心で中立を掲げる小さな〈王国〉へと巨大軍事国家である〈帝国〉が侵攻を開始した。
圧倒的な〈帝国〉軍を相手に、孤独な悪戦を強いられる事となった〈王国〉軍。その中で〈王国〉軍大尉、ヴィルハルト・シュルツもまた戦争へと巻き込まれてゆく。
これは戦争により全てを失い、戦争によって全てを得た男の、史実では無い物語である。
書評
こちらは近世から近代くらいの文明水準における戦争を描いている。戦鬼と呼ぶに相応しい才覚を武器に、寡兵を以て大敵に挑む現場指揮官の物語である。血生臭い上に泥臭いが、匂い立つ戦場の描写が素晴らしい。主人公がただの天才ではなく、天才であるがゆえに苦悩する人間であるところもまた魅力である。巨大帝国の大軍勢という怪物を相手に知略と勇気で挑む主人公には、英雄の姿を見ることができるはずだ。私としては倒幕の英雄である楠木正成の面影を感じた。更新を心待ちにする一作である。
『ディリオン群雄伝~王国の興亡~』 作者:Rima様
https://ncode.syosetu.com/n0918ci/
大国ディリオン王国は暴虐な王と貪欲な貴族の対立により戦乱の嵐に包まれた。
若き領主ジュエスは否応無しに戦いの渦中へと引きずり込まれていく。
そして悲劇の姫君、無力な平民、王土の覇者達と共に無情な時代を築いていく。
戦乱による歴史の大流を幾重にも描く、英雄と狂人達の群像劇。
書評
登場人物はほぼ「悪いヤツ」と作者様が仰る通り、作中の人物それぞれの負の面も生々しく描いている。そのため癖のある人物が多いように感じるが、英雄は決して完全無欠ではなく、清濁併せ持つ人間なのだということを興味深く示してくれる。それが本作の魅力であると言えるだろう。さらに特徴的なのが綿密な地図と布陣図である。これが大変わかりやすい。固有名称が多くなりがちな『リアル系戦記もの』において、読者に寄り添う謙虚な作者様の姿勢を見ることができる。ぜひとも一読いただきたい。
『ガロア剣聖伝』 作者:北見りゅう様
https://ncode.syosetu.com/n6156ed/
第1部・謀略編 あらすじ
統一帝国時代を経て、十三諸王国に分裂し、割拠時代を迎えたガロア大陸。
大陸で最も重要物資とされる、薪と塩の権益を巡り、北方では、対立する国家間の武力衝突が不可避の様相を呈し始める。
北にとっての薪供給地にして、塩の大きな市場である南方も、権益にまつわる争いに否応なく引きずり込まれてゆく。
戦争勃発に向かう雰囲気の中、大陸にある各国では、多くの王国が、王政につきまとう後継者問題に悩まされている。
そして、北方の強力な王権国家エルンチェアは、敵対する国家と戦争へ突入、一方で南方でも内乱、暗殺を含んだ王座争奪戦が続発し始める。
危ういながらも平和を保ってきたガロア大陸は、少しずつ、動乱期に差し掛かろうとしているのだった。
第2部・戦乱編 あらすじ
北方では東国境における戦争が終結した。が、正式な休戦協定には程遠く、未だ戦火はくすぶり続ける。
更に、異民族間の感情対立が激化、流血騒ぎも起きて、世情は不安定になってゆく。
南方では内乱と王座獲得戦が激しくなり、犠牲者も現れるのだった。
書評
架空の大陸における架空の歴史群像劇である。群雄割拠する十三国という設定だけに情報量が多い。私も理解のために何度か読み直したが、最近地図がついたのでかなりわかりやすくなった。ともすると読書の難になりがちな情報量だが、しかしそれが『リアル系戦記もの』の魅力の一つでもある。政治、経済、策略、戦争の繋がりにおける蠢動が、本作の興味深いところだ。全体的に謀略よりであるが、戦争描写もまた優れている。これから開花しようという英雄の蕾を見るような作品である。