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ファーストコンタクト

 飛び起きるように目が覚めた。

 窓からは朝日が差し込み、トースターで焼かれた香ばしいパンの匂いが朝を告げる。


「玲汰ーー? あっ起きてたんだ! 今日から高校でしょ? 早く支度しなさい」

「うん。 おはよ」


 ベット脇のハンガーには紺色のブレザーに濃い灰色のズボンが掛けられている。

 いそいそとそのブレザーに着替え、パンを咥えながらバス停へと急ぐ僕。


 隣町の高校までは、バスで30分程度。

 入学式を終え、A組に決まった僕は放課後の午後3時、教室を後にする。


 休み時間の間は、A組で友達になったばかりの奴と一緒に、隣のクラスのB組に居る他中学出身の、可愛いと評判の子の姿を覗き見に行ったり、廊下内を散策したりしていた。


 その時に、僕は1個だけ気になる物を発見していたのだ。


 廊下を歩いて、目的の場所まで向かうと同じ中学だったギターの祐也君に声を掛けられる。


「玲汰! 部活、何に入るか決まったのかよ? 玲汰の事だから軽音か?」

「祐也君、部活は入らないでバンドに入ろうと思ってさ」


 僕は廊下の掲示板に張られたメンバー募集のポスターを指差す。

 そのバンドはこの辺では割と名の知られたバンド【ネメシス】。

 ライブは見に行った事は無いが、デモ音源を聴いてカッコいいと思っていた。


「マジ? そのバンドってヤンキーばっかって聞いたぞ? まぁ頑張れよーー」

「うっ、うん」


【バンドメンバー募集! 外見とギターに自信のある奴だけ! 他は連絡してくんな】


 マジックでそう殴り書きにされたポスター。

 ポスター下部にはホチキスで止められた、電話番号とギター募集の文字が書かれた紙が。


【入部希望者募集! 初心者、未経験者大歓迎! 楽しくエンジョイしよう】


 カラフルなマジックで書かれた字に、楽しそうな写真が添えられたポスター。

 隣に張られたポスターは軽音楽部の物だ。


 軽音の入部届けとメンバー募集の電話番号が書かれた紙がそれぞれ、1枚ずつ。


 高校でのんびり軽音に入るか、バンドデビューするか……


 この選択が、高校3年間を左右しそうな気がする僕。

 何故か異常な程、ドキドキしていた。


 勇気を出すべきか? 否か……


 そんな時に頭の、いや直接耳に届くような女の子の囁くような声が聞こえた気がした。


「踏み出しなさい。 玲汰」


 あの時の声だ。 それに従って今の僕がある。

 プルプルと震えた手で、そのメンバー募集の紙に手を伸ばす僕。

 その紙を掴んだ瞬間、僕の鼻孔をくすぐる女の子の香りがし、耳元にフッと吐息がかけられた。


「うわぁぁっ」


 突然の出来事に驚いて、腰を抜かし地べたに座り込む僕。

 それを見下ろすように仁王立ちする、どこかで見た事のある女の子がいた。


「だ…… 誰かな?」

「私? 日野渡 莉梨」


 日野渡さんと名乗る少女を見てハッとした。

 間違いなく、昨夜夢で見た子そのものだったからだ。


「何してんの? 早く立ちなよ」

「えっ? う、うん」


 日野渡さんが差し出した手を握り立ち上がる僕。

 思わず尻もちをついた僕のブレザーの、少しずれたネクタイを彼女が直してくれている。


「どしたの? 私の顔に何かついてる?」


 特徴のある瞳とホクロを間近で見て、僕は彼女が夢で見たあの子だと確信した。

 でも何て切り出せばいいんだ?


「ねぇ玲汰? 玲汰はそのバンドに入りたいんだよね? 何で?」

「えっ? 何でって、そりゃギターが好きだし…… バンドやりたいなって」

「そうじゃないよね?」

「そうじゃないって? というか、何で僕の名を……」


 突然現れた日野渡さんが僕の名前を知ってる事が凄く気になる。

 要領を得ない僕の返答に日野渡さんは、眉間にシワを寄せていた。


「じゃ質問変えるね! 何でギター始めたの?」

「そりゃ……」


 今ではギターは僕の生活の一部と言っても過言じゃない。


 でも…… 何で始めたかと言われたら……


「思い出した? モテる為でしょ? ねっ」


 僕は日野渡さんの言葉に無言で顔を上下させる。


「私がその願い叶えたげるよ! 玲汰をこの学校で一番のモテ男にしてあげる。 そのかわり」


 日野渡さんは右手の人差し指で僕の胸をツンツンと突きながら、


「絶対に彼女は作らせないし、童貞のまま卒業してもらうから」

「はぁぁ!? なんで?」


 僕はギターが好きだしバンドをやりたいと思っているのは本心だ。


 でも、心のどこかでモテたい。 キスしたい。 エッチしたい。


 いや、最終目的はやっぱりソレなのかもしれない……。


「何でってそんなの当然でしょ?」

「いいよ! 別に願いなんて叶えてくれなくて良いからっ」


 僕は少し語気を強め、日野渡さんの謎の提案を拒否した。


「それは無理! もう決まった事だから」


 それが…… 日野都さんと僕のファーストコンタクト。

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