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踏み台勇者になりました  作者: ろむ
1章 事の始まり
7/24

6.勇者(笑)のテンプレ行動

ちょっとシリアスだけどテンプレ


「これから話すことは女神リライに誓い、嘘偽りのないものじゃ。まずは私のことから話そう。勇者様方も不思議だったろう?何故子どもなぞが国王をやっているのか、と。私の名は、アーシア・アマンド・アルター。アルター王国第36代目の国王であり、元()7()()()の身分を持っていた正真正銘の()じゃ」


 女であるという言葉に、俺らは揃って驚愕する。格好は男のそれだし、国王陛下と呼ばれていた。間違いなく、隠されていた事実のはずだ。


 臣下たちもこのことまで話すとは思ってもいなかったのだろう。酷く動揺した様子だ。


 国王は俺らの驚きを見て、苦笑いを零した。


「嘘偽りはしないと誓った。この幼くひ弱な女の身で国王に就くのは、民たちの不安を煽る。これはせめて男の身で、と考えた結果じゃ。ーー全ては3年前、帝国が我ら王国に宣戦布告した時から始まったのじゃ」


 元第7王女の身分で、国王に就いた。第7ということは、上に多くの兄姉が居たはずだ。それなのに、彼女に国王の座が回って来た。来てしまったということは、国王の親族はーー。


「ある日突然、帝国が宣戦布告を申し出てきた。何の予兆も無かったし、それまでは良好とは言わぬものの均衡は保たれていた。王国は200年ほど大きな戦が無かったくらい平和であった」


 国王の声が震える。声だけではない。身体全体が、強い感情に震えている。


「それがっ!その日のうちに帝国兵と思わしきあの()()()どもは王国に侵入し、無抵抗の民たちを一方的に虐殺しよった!王国軍も必死に抵抗した。だが平和に慣れ、戦の準備などしていなかった王国軍は見るも無惨に散っていった。私の父が、先代国王はその状況を憂い、降伏宣言を行った。父は優しい人だった。戦で私の兄姉の多くもそこで亡くなった。これ以上、地獄を見るのに耐えられなかったのだろう」


 当時を思い出しているのだろう。国王だけでなく、騎士も、文官も、アルター王国の者たちは一様に暗い表情を浮かべていた。


「帝国は父に国まで来るよう伝えてきた。敗戦の悲しみはあったが、それよりもこの地獄が終わることに皆安心していた。それが、1年前のことじゃ」


 しかし、俺らがここに呼ばれたということは。


 帝国との戦は、きっとーー


「帝国に出向いた父を、帝国は殺したのじゃ」


 終わらなかったのだ。


 拳をきつく握りしめ、国王は尚も語る。


「父は首だけになって王国に帰ってきた。私は、父の顔を見れなかった。帝国は、絶望と怒りに暮れる王国にこう告げた。ーー『帝国は、王国民全てを滅ぼし終えるまで進軍をやめない』と。王国はそれから1年間、必死に抵抗した。だが、もう限界じゃった」


 決して10かそこらの少女がしていい目ではなかった。恐怖、不安、怒り、無力感、絶望といったありとあらゆる負の感情がごちゃ混ぜになったひたすらに暗い目だった。


「数日前、女神リライから神託があった。『異世界から勇者がやってくる。その者らは強大な力によってあなた方に救いをもたらすだろう』と。私たちは、縋るほかになかった。ーーもう一度繰り返そう。勇者様方、どうかこの国を救ってくれまいか?」


 国王から語られたこの国の状況と俺らを召喚した理由は、みな一同沈痛な表情にさせるのには十分過ぎた。


 ほとんどが、この少女国王に、王国に同情心を抱いたはずだ。だが、やりますと簡単に引き受けられるわけでもない。


 この国を救うということは、必然的に帝国との戦争に参加せねばならないということだ。


 俺らは平和な国で育ったただの一般人だ。戦うための力も心の強さもない。戦争なんてテレビの向こうの遠い世界の話だった。


 こんな話など聞かなかったことにして、元の日常に戻りたいときっと誰もが心の奥底で思っているはずだ。


 俺だってそうだ。だけど、だけどもーー。


 ちょん、と。両袖が引っ張られる感覚を覚えた。場違いなそれに慌てて両隣を、玲奈と遥を見る。彼女らは不安げな表情を浮かべていた。


 はっとする。そうだ。俺は、()()()()だ。何を迷っている。目を瞑り深呼吸を1つ、迷いを絶て。


「国王陛下、答えを出す前に何点か伺っても宜しいですか」


 沈黙を保っていた空間に俺の声は実に良く響いた。俺は国王の返答を待つことなく続ける。


「1つ目に、俺らは元の世界に戻ることは可能ですか?召喚したのは王女様だと聞きましたが、王女様はいったい何処に?」


 後ろのクラスメイトらから勇者を見るような目を向けられる。この雰囲気でそれ聞く?って言いたげだな。甘い。今、国王陛下が嘘偽りは言わないと誓ったこの場だからこそ、聞かなきゃならない質問だ。


 一方、臣下たちは苦虫を噛み潰したような顔だ。


 まあ、そうなるよな。


 場合によってはこの国を見捨てたと取られてもおかしくはない言葉だ。


 国王はほんの少し寂しげな、そして絶望したような表情をしていた。


「当然の疑問よな。結論から言おう、分からない、だ。恐らく其方らを帰すことができるのは、召喚を行った第4王女のリーシェ姉様だけだ。リーシェ姉様は身体の弱い人でな、召喚の儀式に耐えきれなかったのだろう。勇者様方を呼び出してすぐに倒れてしまわれた。今、城の医者に診てもらっているが、いつ意識を取り戻すかは……」


「そうですか……。王女様の御回復をお祈りします。2つ目です。帝国の目的はお分かりでしょうか?」


 今すぐ帰れないのは想定内だ。むしろ帰れる可能性がはっきりとした形であるだけ僥倖。


 クラスメイトらは複雑そうな反応だ。今すぐ帰れるかどうか言われなかったことに安心してしまったってとこかな。


 国王は俺のやけにあっさりとした反応に驚いた様子を見せた。少し、笑ってしまいそうになる。彼女は国王をやるには優し過ぎる。


「帝国の目的、か。これも分からないと答えるしかない。()()()どもは王国の領土にも資源にも全く興味がなさそうだった。ただ、人を殺したい、という意思のみがあるようだと。帝国に送り込んだ間者も何の連絡もなしにその消息をたった。正直、奴らの目的は私が教えて欲しいくらいじゃ」


 帝国については自分で情報を集める必要があり、と。


「3つ目です。俺らは具体的に何をすれば?見てもらったら分かるでしょうが、俺らは戦う力を持たないただの一般人です。殺しなんて以ての外な平和な国で生まれ育ってきました。国王陛下はそんな俺らに何をお望みですか?」


 この3つ目の質問こそが俺が最も聞きたかったものだ。


 異世界召喚もので、良くある勇者の役割と言ったら『魔王退治』が挙げられる。人間が魔王によって滅びの危機を迎えているから、勇者の力をもって倒して欲しい、と。


 正直、俺もここに召喚された理由はそういうものだと思っていた。魔物を、魔族を、魔王を倒して人間を救え!と言われるものだと。


 しかしその見積もりは駄々甘だったことがここで発覚した。


 場合によっては、俺は人殺しにならなくてはならないのだ。あの、冷たくてゾッとする暗さの()を与える側にならなくては、ならない。


 国王は一瞬言葉に詰まったようだった。しかし1つ息を吐くと、それまで俺ら全体に配っていた視線を俺だけに集中させた。


「力なら今は分からぬが、この世界に来た時点で女神リライによって与えらるものがあるはずじゃ。それに、分かっておるのだろう?其方らにして欲しいのは、戦争に出て()()()ども、帝国兵を退けてーー、いや、()()ことじゃ」


 場に重苦しい沈黙が落ちた。


 恐怖からか、泣き出す者がいた。


 不安からか、うずくまって震える者がいた。



 俺は視線をそのまま国王から一切外さず、皆に聞こえるようはっきりとした口調で宣言する。


「俺は、国王陛下の頼みを引き受けよう!」


 この場にいる全員の視線が俺に集まるのを感じる。


 演じて魅せろ。勇敢で、正義感に溢れる勇者をーー


「どう考えたって帝国の行いは許せるものではない!苦しむ人々がいることを知った上で放置なんかできない。俺は戦おう」


「ゆうきくん……」

「……裕輝」

「裕輝」



 そんな心配そうに呼ぶなよ。大丈夫だ。覚悟なんて大層なものじゃないが、進む道は決めた。


 視線を国王から外し、クラスメイトらの方を向く。


 踏み台?かませ犬?上等だ。そんな勇者(笑)でもやれることはある。


 天光裕輝らしく、みんなを導き、()()()()()()


「ただ、俺1人じゃあ到底無理だ。しばらくここで過ごしていたら、何もせずとも帰れるかもしれない。だが、この国を救おうとするなら、厳しい訓練を課せられるだろう。人殺しだってやらきゃならない。ーーそれを承知の上で、俺に力を貸してくれないか?」


 絶望が漂う広間に活気が戻る。


 クラスメイトらの目に希望が宿る。


「ゆうきくんと一緒なら、なんだってやるよ」


「あんた1人だと不安だしね」


「当たり前だ。俺の力もお前に貸す」


 幼馴染たちがそう言ったのを皮切りに、あちこちから賛同の声が上がった。結局、クラス全員が戦争に参加する流れになった。


「ユーキ・アマミツ。そしてみなの者。ありがとう」


 俺は堂々とした笑みを浮かべながら、片手を突き上げる。わあああっと盛り上がるクラスメイトらに、救いを見つけたと希望に満ちた目を向ける王国の人々。



 俺は心の中で、ひっそりと自嘲の笑みをこぼした。


 この場で2人だけ、俺に賛同しなかった人たちがいた。


 1人目は、佐伯先生。彼女はまあいい。唯一の大人として、そして俺らの担任として、戦争に参加するなど許容できないのだろう。それでも何も言葉を発さないのは、まだ子どもの国王に同情してしまったから、とか?今も心配そうな目で俺らを見つめている。


 そして2人目、渡瀬和也。彼は、やはり俺には乗ってこなかった。今も深く考え込んでいるようだが、心の中で俺のことをどう思っているかなんて想像に難くない。



 渡瀬和也、彼が主人公であり真の勇者のはずだ。



 俺は勇者(笑)(おれ)の役目を果たそうじゃないか。




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