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踏み台勇者になりました  作者: ろむ
1章 事の始まり
6/24

5.勇者(笑)は見極めたい

主人公視点

 俺、踏み台勇者なのでは疑惑があるが、それは一旦頭の片隅に置いておく。


 今はそんなことより、情報を集めて状況を分析することの方が大事だ。


 ドニ・クレードと名乗ったハゲ神官からは大した情報を得ることはできなかった。ニコニコと笑って俺を煽てるが、何とも腹黒そうというか、胡散臭い雰囲気がある。


 ハゲ神官と無駄に疲れる会話をした成果は、ここが異世界だと確定したというものくらいだ。


 召喚された理由だとかは、これから王様に直接聞いてくれということだろう。



 俺らがハゲ神官に案内され入室した謁見の間は、荘厳な雰囲気が漂う非常に広々とした部屋だった。入り口から玉座まで青い絨毯が敷かれ、左右には騎士や文官らしき姿が見える。


 ハゲ神官は真っ直ぐと進んでいき、玉座の数メートル手前のところで跪いた。


「国王陛下、勇者様方をお連れしました」


「ご苦労。勇者たちよ、よくぞ参った!」


 国王陛下の口調こそ壮年の男性がするものだが、声色は若々しい、いや幼いものだった。


 俺は目の前の()()に目を向ける。


 金髪碧眼の10歳前後の少年。中性的な出で立ちで、国王陛下と呼ばれてなければ少女にも見えた。数年後には絵本に出てくるような王子様になっているだろう、将来有望な美少年だ。外人は大人っぽいから、もしかしたら10にも満たないかもしれない。


 どうやら彼が国王陛下らしい。予想外にも程があるだろ。しかも召喚を行なったという王女様らしき姿も見えない。ここで会えると思ったんだがなあ。


 小さな身体とは裏腹に、態度は堂々としたものだ。その身体に比べると大きすぎる(というか足が床についていない)玉座に座り、俺らを見下ろしている。顔には堂々とした笑みが、目には好奇心と……期待が浮かんでいる。



 この国、大丈夫か?異世界から人を呼び出すって時点で良い印象がないのは確かだけど。


 どうせ元の世界にはすぐに戻してくれないんだろうし、ここに暫く留まることになるんだろうが……。今のところ、不安しかないぞ。



 どう見ても10歳前後の少年を国王に据えるとは、本当にどうかしている。いくら異世界とはいえこれが普通だということはないはずだ。


 理由として考えられる可能性は3つ。


 1つ目は、見た目と中身の年齢が一致していないというもの。俺みたいに転生してきたとか、某有名探偵みたいに子どもになってしまったとか、もしくは異世界クオリティな合法ショタとか。これだったら、まだまあいい。


 2つ目は、傀儡王の可能性。これは非常にきな臭く、面倒くさい。わざと分別のつかない子どもを王に据え、自分の思い通りに国政を動かすやつがいることになる。その場合、俺らは政治の道具に利用されること間違いなし。帰れる可能性は0に近い。


 3つ目は、少年が国王の義務を()()()()()()()()()状況にある、ということ。これは、最悪だ。この国がそれだけ追い詰められているということになるし、俺ら勇者の役割も必然的に重いものになる。


 理想は1つ目、現実的なのは2つ目、最悪なのは3つ目。もし3つ目ならば、俺は、()()()()は、どうする?


「陛下の前だ!さっさと跪け!」


と、そこまで考えたところで殺気混じりの怒声が俺らに向けられた。発したのは国王の後ろに控える女騎士だ。


 国王の御付きだし偉い立場なんだろうが、随分と若い。赤髪をポニーテールにしたつり目の美人さんだ。凛としたその佇まいからは強者の匂いがする。間違いなく、俺では5分ともたない。


 それに、ただ唖然と国王を見ていた俺らの態度に腹を立てているのは彼女だけではないらしい。彼女のように言葉を発さずとも、俺らを取り囲むように控える騎士や文官らの圧力が凄い。


 これは2つ目が消えたな。傀儡にされているのならここまで臣下からの忠誠は厚くないはずだ。


 クラスメイトたちはその言葉に顔を青くしながら、ぎこちなく跪き始めた。完全に空気にのまれてしまっている。


「おい!そこのお前らも跪かないか!」


 従うやつがいれば従わないやつだっている。俺と幼馴染たち、そして渡瀬は女騎士を無視し未だ立ったままだ。


 へえ。幼馴染たちはそうするとは思っていたが、渡瀬もか。意外と根性あるんだな。


「聞いているのか!」


 当然、女騎士はお怒りだ。周囲の敵意も俺らに集まってくる。


 国王はというと、彼女の態度に何か言うつもりは無いらしい。一言も発さず、しかし笑顔は消してじっと俺らを観察している。



 異世界に勝手に呼び出され、国王に敬意を示せと怒鳴られる。それで怒りを覚えないほど人間できちゃいないし、いい機会だ。試させてもらおう。


 まだ10歳くらいの子どもにこういうことをするのは気がひけるが、曲がりにも国王陛下なんだ。仕方がない。


 俺はにっと口の端を吊り上げ、言い放った。


「俺らは異世界の人間だ。そちらの()()に敬意を示す必要性は一切感じない」


「貴様ッ」


 国王を侮辱する言葉が癇に障ったんだろう。女騎士が腰の剣に手をかける。


 こんな挑発に簡単に乗ってくるとは、余程忠誠心があるみたいで。剣を抜かないところも、まだ国王が許可をしていないからだろう。


 周囲からの敵意も一層強くなる。


 俺はその全てを受け流し、飄々と表情を一切崩さない。さて、国王陛下はどう出るかね。


 後ろからハラハラとした視線を感じるが、大丈夫だ。殺されはしない。俺が挑発じみた言動を行なったのは、殺されないという確信があってのこと。


 ……あの、だから幼馴染方もその『後で覚えておけよ』って顔やめてくれます?渡瀬も困ったような微笑ましいような視線は何なの?



 こほん。


 俺が殺されることはないと確信した理由についてだ。


 王国の人々が俺らを害そうとする気は無いと、分かっていたからだ。


 ここに来るまでに言葉を交わしたハゲ神官は信頼こそできないが、俺に執拗に胡麻を擦る様子から害意はないと見ていい。


 ハゲ神官の周囲の神官からもそういう意思は感じられず、むしろ俺らを崇めたてるような態度であった。


 歩いている最中にすれ違った使用人なども、俺らに敬意を示していた。ところどころから、


「あれが勇者様か」


「ようやくね。それにしても、素敵な人……」


と、俺らの召喚を知っていたかのような言葉が漏れ出ていた。どうやら勇者様とやらは、随分と望まれた存在らしい。


 兎にも角にも、彼らにとって、俺らが役割を果たす前に死ぬことは、更に言えば味方の手にかかって殺されるなんてことは言語道断のはず。


 最悪、斬りかかられて怪我をするくらいだ。()()()()()()()



 俺がこの挑発で確かめたかったのは、国王、ひいてはこの国が信じるに値するかどうか。


 ここで俺を殺すよう命令したら、信用も置けない。どうにかしてこの国から逃げ出さなければ、俺らは道具のように扱われ、ぼろぼろに使い捨てられること間違いないだろう。



 さて、どうだ?俺は殺気立つ女騎士や周囲を敢えて無視し、真っ直ぐと国王を見つめた。


 国王は俺と目を合わせ、やがてーー頰を染めた。



 ……え?



 ……なしてその反応?



 心なしか、うっとりとした目で見つめられているような。やめろ、ショタからそういう目で見られるのは中1のトラウマが蘇ってしまうだろうが。



 困惑し始めた周囲に気付いたのか、国王は1つ咳払いをし、そしてゆっくりとした動作で玉座から飛び降りた。……まあ、身長が足りないもんな。思わず肩の力が抜けてしまいそうになる。



 これは1つ目も無しかな。行動や態度の節々に子供っぽさが見え隠れしている。もしわざとやっているとしたら、名俳優賞を差し上げたい。もしかしたら、臣下たちの態度はまだ幼い子どもを守ろうとする意味もあったのかもしれない。


 だとしたら残るのは3つ目だが……。これは外れてくれていた方がありがたい。



 現実逃避に色々頭を回らせていた俺だが、国王が口を開き始めたので意識を現実に戻す。


「ミリア、剣から手を離せ。皆の者もよい。勇者()方、楽にしてくれ」


「はっ」


「其方、名は?」


「ユウキ・アマミツと()()()()。先程は失礼いたしました」


「構わぬ、謝るのは此方の方だ。すまなかった。どうか私のーー私たちの、話を聞いてくれまいか」


 謝罪とともに頭を下げられる。


 どうやら中身は立派な王のようだ。まだ幼いからか、甘さは残るようだが。一国の王が俺ごときに頭を下げるもんじゃない。


 臣下たちは国王の謝罪に一瞬動揺したようだが、俺らに向けていた敵意は抑え込まれていた。あれだけ殺気立っていた女騎士も、今は王の後ろに静かに控えている。



 国王は真剣な眼差しを俺らに向けた。


 呆然と俺らのやり取りを眺めていたクラスメイトたちもそれに気付き、真面目に聞く態勢になる。


「感謝する。単刀直入に言おう。勇者様方、どうかこの国を救ってくれまいか?」


 深刻みを帯びた声色に、皆の表情に緊張が走る。



 ああ、最悪だ。



 どうやらこれは3つ目で確定のようだ。



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