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踏み台勇者になりました  作者: ろむ
1章 事の始まり
2/24

踏み台勇者、生まれる

4/15改稿

短編からだいぶ内容が変わりました

♢♢


 桜の花が咲き誇り、暖かな日差しが降り注ぐ4月某日。私立白木院(しらきいん)高校では新入生を迎えるべく入学式が執り行われていた。


「これより新入生代表による挨拶を行います。1年A組、天光裕輝」


「はい」


 返事とともに、最前列から1人の少年が席を立つ。漆のような黒髪の端正な顔立ちをした美少年だ。


 白い花飾りを胸元につけた彼は、緊張した様子もなく壇上に登っていく。その姿は新入生とは思えないほど大人びているし、壇上での堂々とした振る舞いは年齢に見合わぬ色気さえを感じさせる。


「本日は私たちのためにこのように盛大な入学式を催して頂き、まことにありがとうございます」


 低すぎも高すぎもしない、耳に心地よい落ち着いた声が響き渡った。視線を手元に落とすことも言葉に詰まることもなく、少年は挨拶を続けていく。


「暖かな日差しと美しい桜や春の花々が、私たち172名の白木院高校への入学を祝福しているように感じられました。これから、私たちはきっと迷うことも困難につまずくこともあるでしょう。しかしそれに挫けず、常に自分自身の可能性を広げることを意識しながら、人間的に成長できるよう精進していきたいと思います。先生方、先輩方、保護者の皆様方もどうかお力添えをよろしくお願いいたします。白木院高校の生徒として誇りを持ち、自己研鑽に励んでゆきます。以上をもちまして、私の宣誓の言葉とさせて頂きます」


 一拍おいて、一礼。


「新入生代表、天光裕輝」


 そして、会場中から盛大な拍手が送られた。


 天光(あまみつ)裕輝(ゆうき)


 全国模試でトップととったことがあるほどの頭脳に、各分野のスポーツ強豪校から推薦が来るほどの運動能力。幼稚舎から白木院に通う彼は周囲からの人望も厚く、中学では生徒会長を務めていた。その優れた容姿も相まって「天才中学生」として雑誌やテレビに出演することもあり、彼の影響で白木院への入学志願者数が激増したとの噂があるほどだ。


 そんなまさしく文武両道を地で行く裕輝だが、彼には1つ、誰にも打ち明けたことも、打ち明けるつもりもない秘密があった。


「みんなキラキラしてんなあ。若いっていいね」


 ――()()()()()を持っている、ということだ。


♢♢


 俺が前世の記憶を思い出したのは、5歳の誕生日の時だ。


 前世といっても、剣と魔法の世界で無双したわけでも、SF的世界でエイリアンと戦ってたわけでもない。現代日本で生まれ死んだTHE平凡な男だった。それなりの大学を出てまあまあの企業に就職し、仕事に忙殺される日々や彼女ができないことを愚痴りながら日々を過ごして、そして30を迎える前にその生を終えた。


 どうやって死んだかは思い出せていない。ただ、ぞっとするほど冷たくて暗いという()の感覚は覚えている。自分は確かに()()()ーーその事実は頭に深く刻み込まれている。


 それまでの裕輝――『ぼく』は普通の男の子だった。テレビの中で悪者をバッタバッタと倒すヒーローに憧れ、


「ぼくもヒーローになるんだ!」


と口癖のように言っていたし、子供なりにその夢を叶えるために真面目に頑張っていた。公園で泣いている子がいれば誰よりも早く駆け寄って慰めたし、街中で困っている人を見かければ1人でどうしたのと話しかけにいった。


 両親譲りの容姿――当時はいわゆる「可愛い男の子」だったから、両親は随分と心配していたみたいだけれども。それでもぼくはヒーローごっこを楽しんで、大きくなったら彼らみたいになれると信じて疑わなかった。


 そして運命の5歳の誕生日の日。ぼくが両親とバースデーケーキを囲んでいた時のことだ。


「(ヒーローになってみんなを助けられますように)」


 そう願って、ロウソクに息を吹きかけてーーぶっ倒れた。


 前世の記憶を思い出した。


 倒れたのも当然のことだ。頭の中に急に30年分の記憶が流れ出したら誰だって混乱するし、5歳の幼い精神で受け止めきれるわけがない。そのあとぼくは知恵熱を出して3日間生死の境を彷徨うこととなった。


 朦朧とする意識の中、この記憶は『俺』のものなのだと受け入れてーーそして体調が回復するときには、ぼくは俺になっていた。


 5年生きている『ぼく』と、30年分生きた『俺』。記憶に押し流されるようにして、精神は俺のものになった。『ぼく』と『俺』はきっと、鏡写しのような存在なのだろう。魂は一緒、けれど血も容姿も生きる軌跡も考え方も違うifの世界の自分。同一だけれども、別の存在。


 今世の両親を確かに両親だと認識できるし、この体も自分のものだと思える。それでも()()()俺がまだ生きているということに、思うところがなかったわけではない。


 だから「前世の記憶を思い出した理由」を求めた。


 すぐに思いついたのは「自分には何か特別な使命があるのかもしれない」というものだ。前世ではよく漫画やラノベ、アニメを見ていてオタク知識は無駄にたくさん持っていた。その知識の中に、「転生した元冴えない系主人公がチートで無双する」といったものがあったからだ。


 この世界も前世と変わらない現代日本のように見えたが、裏で魔術師が日夜戦闘を繰り広げているだとか、とある研究所で超能力の開発が進められているだとか、妄想は捗った。


 人間、自分に都合のいい仮説は捨てられないものである。とどのつまり、「自分がこの世界の主人公なのかもしれない」と大真面目に思い込んだのだ。天光裕輝、僅か5歳にして厨二病を発症する(※なお精神年齢)。なかなかに気持ちの悪い発想だが、モテないオタクが転生するなんていう一大イベントを起こしたら転生! チート! ハーレム! と思考が誘導されていっても仕方がない……はずだ。


 兎にも角にも、厨二な5歳児がまずやったことは身体を鍛え知識を身につけることだった。神様が死なせてしまったお詫びに能力をくれた……という件は残念なことになかったので、自分で強くならないといけない。目指せ俺TUEEE系主人公だ。


 まずは走り込んだ。前世はインドア系で慢性的な運動不足に悩まされていたから、何をするにも体力が大事なことは知っていたからな。朝早く父親と一緒に走り、幼稚舎から帰ったらペットのアイン(シベリアンハスキーのオス)と駆け回る。


 それから両親に頼み込んで剣道を始めた。同じ幼稚舎に古来から続く流派を教える剣道場の息子がいて、彼と仲良くなったのを機にと剣道を学ぶことにしたのだ。日本男児たるもの侍に憧れぬわけがない。……主人公といえば剣だよなという動機もなかったわけでもない。


 知識に関しては、ひたすらに本を読み漁っていった。ファンタジーから歴史書までジャンルを問わず読むことで幅広い知識を身につけようとしたのだ。幸い母親が大の本好きなため、家の書斎には図書館と見間違うほど大量に本があったし、書斎に引きこもって本を読んでいても、


「ゆーくんは私に似てご本が大好きなのね」


の一言である。気持ち悪がられるどころか、親バカな両親は5歳でこんなに読めるなんて天才! と大いに喜んだ。


 そして身体を鍛え知識を身につけいる間にーー俺は厨二病を抜け出していた。


 妄想する暇もないくらい自分磨きに夢中になっていたのだ。この身体は前世とは比べ物にならないくらい才能に満ち溢れ、それに子ども特有のスポンジのように何でも吸収する成長性が合わさり、まるで育成ゲームをしているかのような楽しさがあった。


 走れば走るだけ体力が増える。一度見ればその通り身体が動く。覚えようとすれば苦もなく頭に入ってくる。努力が目に見える形で返ってくるから、鍛えるのも勉強するのも最高じゃないか! とそうしている内に何の為に自分磨きをしていたのかも忘れ、ついには手段(じぶんみがき)目的(しゅじんこうになる)が完全に入れ替わっていた。


 当然、前世の知識に加えて自分磨きにハマった俺は同世代の子供と比べて頭1つ抜きん出て優秀だ。美男美女の両親から生まれただけあって容姿もいい方だから、何もしなくても幼稚舎や小学校で注目された。


 いくら子供らしさを意識しながら振舞っていても限界はあるし、俺からしたら同級生たちは皆幼い子供だ。喧嘩をしているのを見れば仲裁に入り、輪に入れない子を見かければ一緒に遊んだ。


 そうしているうちに、いつの間にか頼りになるリーダー的ポジションに収まっていた。白木院が幼稚舎から高校までエスカレーター式だということもあり、それは進級しても揺らぐことなく、中学3年生になるときには生徒会長にまで就任することになった。


 そして自分で言うのも何だが、モテるようになった。前世の自分が見たら嫉妬と怨嗟の目で呪っただろうレベルでそれはもうモテる。


 ……だがしかし、彼女ができたことはない。


 いくら可愛いJCやJKから告白を受けようが、俺の中身は魔法使いになりかけた非モテのおっさんから変わることはなかった。どうしてもロリコンという単語が脳裏を掠めるし、悲しいことかな。転生しても女の子との距離感はイマイチ掴めず、未だ友人から一歩を踏み出すことが叶わずにいた。


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