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我慢少女

作者: 戯画葉異図

 ヤバイ。

 マジでヤバイ。

 何がヤバイのかと言えば、俗に言うおしっこが、もうそこまで来ている点が、である。

 学校にて。

 俗に言う漏らしそう。

 五分ほど前に授業が終わり、その時点で既に危険地帯に突入していた私はすぐに教室を飛び出したわけだが、トイレまでの道のりの半分も過ぎていないような場所で、あまりのヤバさに立ち止まってしまった。

 ヤバすぎてヤバイとはまさにこのこと。

 ヤバイ。

 膀胱の限界も、もうそこまで迫っている。

 今にもイエローな液体が噴出しそうなほどに、膀胱の限界は近かった。

 しかし足が動かない。

 百メートルに二十秒かかる私の足は、肝心な時でも役立たずだった。

 両手で股間を押さえる私の姿はさぞ見っともなかったであろう。

 が、今手を離せば、そこでエンドロールが流れてしまう。

 製作に携わった人たちの名前が、私の尿とともに流れてしまう。

 それは嫌だ。

 私はハッピーエンドが好きなのだ。

 バッドエンドは嫌いだ。

 終わるならハッピーな状態で終わりたい。

 何とかしてトイレに駆け込みたい。

 しかし、足が動かない。

 石像みたいに動かない。

 ゲームだったら石像だって動くのに、私の石像は動かないタイプの石像らしい。

 この上なく理不尽。

 それでいて尿意は上昇を続けている。

 うなぎ上り。

 あ。

 ヤバイ。

 少し出た。

 これはヤバイ。

 ヤバヤバしい。

 どうしよう。

 そうだ、誰かに助けを求めるというのはどうだろう。

 恥を忍んで、しかし漏らすよりかはマシだと思って、「つべこべ言わずに私をトイレまで運べやあ」と頭を下げて頼み込むのはどうだろう。

 我慢の体勢であるので、既に頭は下がっているのだが。

 ずっとお腹の辺りを見ているので、頭を下げているというよりかは丸まっているのだが。

 猫背の究極系みたいな感じなのだが。

 いや違う。

 それはどうでもいい。

 誰かいないか。

 誰かいないか。

 ここは廊下だ。

 廊下のど真ん中だ。

 もう恥ずかしいとか消えてしまいたいとか、そういうのは全部捨て去って、助けを求めよう。

 人との交流を盛んに行ってきた私ではないけれど、それでも誰か一人くらい、私を助けてはくれるだろう。

 誰かいないか。

 誰かいないか。

 …………。

 いなかった。

 廊下は無人だった。

 マジかよ。

 マジでヤバイんですけど。

 絶体絶命のピンチなんですけど。

 私はどうすればいいの。

 膀胱はさっきから悲鳴を上げている。

 叫んでいる。

 私も叫びたいが、あいにく声が出ない。

 尿は出そう。

 声は出ないけど尿は出そう。

 こういう時人は、どうするのがベストなのだろう。

 そういうのを学校では教えるべきなのではないだろうか。

 『失禁回避学』。

 そんな授業があってもいいのではないだろうか。

 少なくとも今の私ならば喜んで受ける。

 いや受けてる場合じゃない。

 この期に及んで何をわけの分からぬことを考えているのだ私は。

 膀胱の限界はとっくのとうに超えていて、少量ではあるがもう、一滴や二滴では済まない尿が出てる。

 尿道から出て、下着に染み込んでいる。

 見てはいなが、シミが作っていることだろう。

 しかし待てよ。

 待てよ私。

 今、この場には誰もいない。

 誰もいないということは、だ。

 最悪漏らしても、たとえイエローな水たまりを作ってしまっても、その犯人が私であるとはバレないのではなかろうか。

 そうだ。

 そうだ。

 そうじゃないか。

 さっきは無人であることに絶望したものの、それはむしろ朗報じゃないか。

 もう一度、周囲を確認する。

 大丈夫だ。

 誰もいない。

 ここには今、私しかいない。

 これはチャンス。

 いっそのこと漏らしてしまおう。

 漏らしてしまって、そうすれば足も動くだろうし。

 その足ですぐに逃げよう。

 ひとまずは当初の予定通り、トイレに逃げよう。

 それからのことは、それから考えよう。

 それでいいじゃないか。

 大丈夫だ、私。

 大丈夫だ、私。

 問題はない。

 漏らそう。

 トイレじゃない所で、おしっこしちゃおう。

 尿道の力を抜いて、気も抜いてしまおう。

 楽になろう。

 楽になろう。

 そうしよう。

 ……。

 …………。

 ………………。



 後になってからその辺りのことを思い出そうとしても、ひどく記憶があいまいで、記憶を喪失していて、ありていに言えばよく覚えてなかった。

 ただ、どうやら私の計画は成功したらしく、廊下のど真ん中で失禁した私は、水たまりをそのままにトイレへ逃げて、下着とか脱いで、足とか拭いて、その他諸々、うまくやってのけた。

 幸いその時は下校の時間だったので、私は脱兎のごとく家に帰った。

 誰かに見られていた、なんてこともなかった。

 変な噂が広がった、なんてこともなかった。

 本当に良かった。

 万事がうまくいった。

 清掃の人には申し訳ないけど、私としては十分ハッピーエンドだった。

 結局失禁したのにハッピーエンドとはこれいかに、とも思わなかった。

 ああ、良かった、良かった。

 良かった。

 良かった。

 どうなるかと思ったけど、本当に良かった。

 良かった。

 良かった。

 漏らしちゃったけど、良かった。

 良かった。

 良かった。

 気持ち良かった…………。ヤバイくらい、気持ち良かった。

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