第5章【冒険の始まり】
「ジャック、ジャック!」
エイミーは息を切らしながらジャックを呼んだ。
ジャックが怪訝そうに振り返る。
「君は歩くのが遅いな。
あの頃はすばしっこい子供だったんだが……」
エイミーは膝に手をつきながらジャックを見上げて言った。
「あなたが早すぎるのよ!
あと、さっきから気になっているんだけど、どうしてあなたは昔から私を知っているような物言いをするの?」
ジャックは少し考える素振りを見せてから答えた。
「オレやロンを見て思い出さないんじゃ説明のしようが無いよ。
一言で言えば、君は幼い頃にも一度だけこの世界に迷い込んだことがあるんだ。
……なんて言っても、どうせ君は信じないだろうけどな」
エイミーには、さっきのロンの言葉が引っかかっていた。
時計が動き出した時、記憶が消える……。
人間界に戻される……。
それに、ロンが何故か、懐かしくも思えた。
けれどこの世界のことなど、エイミーには全く記憶の無いことだった。
エイミーは悶々とした考えを振り切り、首を振った。
「まあ、いいわ。
とにかく、私に会わせたい皆ってのが気になるの。
その皆を見たら何か思い出すかもしれないわ。
次はどこへ?さあ早く行きましょう」
ジャックはそれを聞くと少し緩んだ表情になって言った。
「ゆこう、峠へ」
草木が冷たい風に吹かれてざわざわと揺れた。
エイミーとジャックは並んで峠の方角へと歩き出した。




