第12章【オオカミ男との遭遇】
じり……じり……
エイミー達は崖に追い詰められて行く。
ゾンビ達はゆっくりとエイミー達と距離を詰める。
エイミー達はここから落ちるのだろうかと絶望しながら崖の先端を振り返った。
「……?」
なにやら崖の先端に大きな影が見える。
眩しいくらいの満月に照らされ、逆光で見えない。
1つ、分かるのはその大きな影が4本足で立っていることだった。
その影は突如、大きな声で鳴いた。
「ウオーーーン……!」
遠吠えのような鳴き声だった。
その鳴き声を聞いて、エイミー達は確信した。
オオカミ男だ……!
エイミー達は一か八かの勝負だとオオカミ男のいる崖の先端まで全力で走った。
ピンと立った大きな耳に大きな体、尖った目をした毛むくじゃらのオオカミ男がゆっくりと振り向く。
ジャックは息を切らしながらオオカミ男に言った。
「頼みがある!
峠の魔女の城まで連れて行ってくれ!」
オオカミ男は、ゾンビがすぐそこまで迫っているのにも関わらずゆっくりと口を開く。
「……何故だ?」
ジャックは大きな声で叫んだ。
「今は話している時間は無い!
頼む!」
するとオオカミ男は崖の先に視線をやった。
向こう側にも崖が見える。
その先には赤紫色の不気味な山が見えていた。
しかし、ジャンプして渡るにはかなりの距離があり、崖下に落ちようものならまず命は無いだろう。
フレディとイヴ、そしてドクロも不安を隠せず動揺し出した。
オオカミ男はエイミー達を横目でチラリと見ると言った。
「……乗れ」
エイミーは決心して頷くと、フレディとイヴを急いで先に乗せてあげた。
そしてドクロとジャックと共にオオカミ男の大きな背中に慌てて乗った。
「歯を食いしばって、しっかり掴まっていろよ!」
エイミー達はオオカミ男の背中にしがみついた。
ゾンビ達の手がすぐにでも触れそうなほどギリギリのところまで伸びかかっていた。
オオカミ男は少しの助走をつけ地面を大きく蹴ると、高く高く、満月に重なるくらいに飛び上がった。
満月に手が届きそうだった。
エイミーは満月の眩しさに思わず目を瞑った。
ジャックとフレディ、そしてイヴとドクロがオオカミ男の背中にしがみつきながら墓地を振り返ると、ゾンビ達は手を伸ばしたまま恨めしそうに崖の先端からこちらを見ていた。
取り敢えず、助かったのだ。
ダンッ!!!!
オオカミ男は、さっきから見えているもう1つの崖に大きな音を立てて着地した。
砂煙が舞い上がる。
エイミー達はゴホゴホと大きな咳をした。
生きた心地がしなかった。
エイミーは心臓に手を当てた。
やはり、生きている。
エイミーは砂埃の中目をこすりながら言った。
「この世界には、危険がいっぱいなのね……」
フレディとイヴとドクロはゼイゼイと息を切らしている。
ジャックが疲れた表情で答える。
「峠の城まで行くのに他のルートも勿論あったんだが……。
それだとフレディやイヴ、ドクロにも会わせることは出来なかっただろう。
こればっかりは我慢してくれ」
「ええ……分かっているわ」
エイミーは頰に伝う汗を拭った。
オオカミ男はエイミー達に言った。
「まだ気を緩めずにしっかり掴まっていろ。
峠の城に出発する」
エイミー達は再びオオカミ男の背中に掴まった。
オオカミ男は赤紫色の不気味な山に向かって勢いよく走り出した。
エイミー達は、いよいよ峠の城へと向かっていた。