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第1章【マンホール】



「マンホールの下にはワニがいるって知ってる?」


街を歩いていると、ふと下の方から声がしたのでエイミーはその声の方へ目をやった。

するとそこには首元にリボン、袖とスカートにフリルの付いた白いワンピースを着た小さな小さな女の子がこちらを見上げて立っていた。


「今、なんて?」


「マンホールの下にはワニがいるの」


女の子は聞こえなかったの?というようにキョトンとした顔でもう一度言った。


エイミーは笑いながら女の子の視線に合わせしゃがんで言った。


「いるわけないじゃない。ワニなんて。

何かの絵本で見たの?」


「うん、昨日読んだ絵本に描いてあったの」


「でしょう?それは絵本だからよ。

マンホールの下にワニなんていないから大丈夫よ」


エイミーは女の子を安心させるように微笑んで説明した。


「よかったあ」


女の子の表情が緩むのが分かった。

それを見て安堵しながらふと、気付いた。

この女の子の親御さんはどこだろう。

迷子なのだろうか。


「ご両親は?道に迷ったの?名前は?」


尋ねると女の子は首をふって言った。


「私の名前はスワン。家はすぐそこなの。ちょっと遊びに出てきただけよ。

でももう遅いしそろそろ戻るね。

お姉ちゃんありがとう」


「うん。じゃあね」


エイミーはそう言って立ち上がり、女の子に背を向け歩き出した。


すると背中の後ろで声が聞こえた。


「ワニはいないかもしれない。

でも、マンホールには気を付けて」


エイミーはその意味不明な言葉にすぐさま背後を振り返った。


しかし、女の子は背を向けたまま、もう遠くへ走っていってしまっていた。


空耳、か。

エイミーはすぐにまた歩き出した。

家はまだまだ遠い。

今日は久しぶりに遠くの街まで買い物に来ていたのだ。


しばらくすると日が沈み、人も減り、辺りは薄暗くなった。

今日、何日だっけ。ふと考える。

…ああ、31日だ。10月の。

幼い頃はよくお菓子を貰いに行ってたな。

「trick or treat」と言うだけでお菓子が貰えるからそれが可笑しく楽しかったのを思い出す。


しかしエイミーはもう19だ。

幼い頃の今日なら、今頃仮装してお菓子を貰いに行く準備でもしてワクワクしていることだろう。


そんなことを考えながら歩いていたら、もう辺りは真っ暗になっていた。

街の明かりも減り、満月がギラギラと歩道を照らしていた。


腕時計を見ると、もうすぐ今日が終わろうとしていた。


「大変、急がなきゃ」


小走りで駆け出そうとした、その時。


カツン!


固いものを踏んだのが分かった。


目をやると、それはマンホールだった。

暗がりでも月の明かりで分かる。


「……」


なんとなく、さっきの女の子の言葉が頭に浮かぶ。

マンホールには気を付けて?どういうことだろうか。

いや、やっぱり空耳だろうか。


何かが気になり、ふとしゃがんで目を凝らして見る。

なにやらそのマンホールにはジャックオランタンの絵が彫ってあった。

ハロウィンだから、子供が見つけて楽しめる隠れた飾り付けのようなものだろう。


そんなことより、急がなくては。

エイミーは立ち上がりまた急ぎ足で歩き出した。

こんなに遅くなるとは想定外だ。


すると、いきなり後ろで耳を塞ぎたくなる物凄い音が響いた。


ガガガガガガガガガガガガガガガ!!


音のした方を振り返り、目を見張った。


マンホールの蓋が開いていたのだ。

まるで、中へどうぞとでも言うように。


エイミーは辺りを見渡した。


「誰?イタズラなの?びっくりするじゃない!」


返事をする者はいなかった。

人の気配もしない。

ふと、マンホールの下の方に小さな明かりが見えた。


「誰?誰かいるの?」


エイミーは荷物を置いて恐る恐るマンホールを覗き込んだ。


「!」


気付いた時には遅かった。

覗き込む時、前のめりになりすぎたのだ。

エイミーは足を滑らせ、暗がりへと落ちていった。


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