彼の地で出会うは赤髪ショートカット
俺が目を覚まして一番に眼球へ飛び込んで来たのはある程度の歴史を感じるような古臭い天井だった。木で出来ており所々シミもあった。そしてこの木製の部屋と同じ木製のベッドで俺は目を覚ました。しかし不可解なことが1つ、いや大きな違和感が1つある。それはここが俺の「部屋」とは大きく異なることだ。そもそも俺が昨晩寝た部屋は木製では無かったはずだ。更に言えば俺はベッドでなど寝ていない。万年布団派だ。おかしい…一体ここはどこだ…。
『旅の御方。もう朝ですよ』
…………なにやら扉の向こう側から声が聞こえてきた。やはりおかしいこの部屋は6畳ほどだろうか、小さな机と椅子に日が射し込む小さな窓が1つあるだけの素朴で小さな部屋だ。なんど見てもいくら考えても…
「おかしい…」
『はい?』
しまった…いや、ここは素直に聞いておくか。
「すいません、ここの住所を教えていただけませんか?」
割と丁寧目に聞いてみる。
『…と言いますと?』
「ですから住所ですよ住所」
『…わかりました…ここは第一グラエキア帝国の最北端。ベムジアです。』
「…へ?」
という夢でも見たのか?グラエキア帝国?ベムジア?見た事も聞いた事も考えた事も教わったこともない。そんな未知の単語を淡々と並べられてどう理解すればいいのだ…。
それに部屋を出てみれば何処ぞの逸品とも民族衣装ともとれないただただシンプルなだけの緑と白のワンピースに身を包んだ女性が出迎えてくれた。
ここは宿屋らしい…。そして外に出てみればこの通り…。なんだ…ここは…こんな風景ド〇クエでしか見たこと無いぞ……一面木と石でできた建造物ばかりで所々にある大きな建物も大した装飾は無いようだ。
…そう言えば最北端とか言ってたな…この小さな町は発展途上地区なのか。
「とりあえずこの国の情報だな…」
ここが何処なのか検討も付かない時点で戻る手掛かりも糞もないからだ。
……いや…若しくは戻ったところで働いて食って寝るのローテーションが延々と続く生活よりもこのよくわからない国で新しくやり直したほうが、就職してたったの半年で忘れていた「楽しい」という感情が飽きるほど溢れ出てくるんじゃないか…そう思った。
「お主」
だがやっぱり…戻ったほうが…
「お主じゃお主。なにをボーッと突っ立っておる。そこの黒髪じゃ」
……黒髪…ボーッと…
「俺!?」
振り返るとそこには俺の半分ほどしかない身長とそれを超える長い髭。それに俺の顎にとどこうとする程の大きな藍色のとんがり帽子を目が隠れるまで深く被り、顔の半分は帽子と髭で隠れている状態だった。
「お主見ない顔じゃな旅人か?」
旅人…そうか…俺は旅人ってことになっているのか…確かに宿屋の女性も「旅の御方」と言ってたのを思い出した。
「ところでお主名をなんと申す」
「……名前?」
そうだ…そう言えば俺は…誰だ。今までなんで1度も考えなかったのだろう。頭の中にはっきりとあるのは俺がこの国の住人でないことだけだ。名前も住所も仕事場も全く覚えがない。
「どうした?」
老人が不思議そうにこちらを見上げている。
どうしたもこうしたもない。何故俺は俺を思い出せないのだ。そう思うと苛立ってくる。
俺は…俺は…
「俺は誰だ…」
ふと心の声が漏れてしまう。するとそれと同時にある「考え」が生まれた。
「思い出せないのなら作ってしまえば良いのでは」と。
そうだ。もう、この国で生きていくのも悪くないのでは無いかと。
グラエキア帝国…まずはこの帝国から知る必要があるな。
「俺の名は…」
まずはここからだ。名前は第2の顔と言っても過言ではないほど第一印象が強いものでもある。ここは慎重に決めた方がいいだろう。
「ちょっと!どこ行ってたの!?」
人が真剣に名前を考えている脳ミソに大きな声が反響する。なんだ俺は今名前のことで頭がいっぱいだ!夫婦喧嘩なら家の中で物を投げ合ってくれないか!と叫んでやりたいほどだ。
しかし老人は俺を見て言う
「あの娘、お主の方へ向かっているようじゃが?」
一瞬「なにを!?」と言ってしまいそうだったが、気を落ち着かせ、声のする後ろを見てみると、たしかに目が合った。赤髪のショートカットを揺らし駆け寄ってくる、透き通ったような肌をし、髪と同じく赤い瞳をした女性。そして腕を振り上げる。
ん?腕を振り上げる?
―ガツッ
渾身の一撃が俺の顔面にクリティカルヒットする。素直に痛い。脳震盪起こすわ!
「ねぇ…エルク…どうして待ち合わせ場所に居なかったの…」
眉間をぴくぴくさせながら俺に語りかけてくる。そして俺は素直な気持ちを質問する
「エルク?それが俺の名か?」
赤髪の女は目を閉じ頷きながら言う
「えぇ。エルク・ヴァリエンテ。私は幼馴染みの二ーシェよ。」
解説、ありがとうございます
―ゴキッ
予告
やめて!GGIのHPはもう0よ!(適当)
ちょっと短かったかな?もううpしたくてうずうずしてたんです。だから許してくださいね?
手なわけで主人公の名前もわかったことですし次回をどうぞよろしくです!