1 変わらない光景
お時間いただきありがとうございました。再開させていただきます。
予告通り約二年後となります。五章は全体がプロローグみたいにしていきます。よって短めになる予定です。
空の一番高い位置にある太陽の光射し込む通路。
濃い茶を貴重としたドレスタイプの「制服」に飾り気ないシンプルな白いエプロンを前に身につける者が一人、踵の低い機能性重視の靴で小さな音をたてて走りぎみに行く。背中の半ばほどまでの長さの茶の髪がその度に揺れ、落ち着くを繰り返している。
そうやって歩くというよりもはや小走りになっていた彼女がその足を緩めたのは、いくほど経った頃か。
ひとつのドアの前で立ち止まったかと思えば、ノックを手早くしつつきょろきょろと左右を窺ってから中に耳を澄ませるような動作をしてから、開ける。
ドアの中においてまず目に入るのは壁一面の本棚、納められている何十冊どころか何百冊にも及ぶだろう本。
しかし光を取り込む役割を果たすはずの窓には布が引かれ薄暗さ広がる空間にひょいとまずは上半身だけを中に、彼女は部屋の中に視線を巡らせる。そして、薄暗い部屋内を見るために少し細められた茶の目がある方向へ向くと通りすぎず止まる。見つけた。
「あぁ……もう」
やっぱり、という呟きが溢されるが早いか部屋の中へと入りドアを後ろ手にしめてから迷いなく奥へ向かう。
奥、ソファに背もたれに向かって横たわっているのはかなりの長さの漆黒の髪が流れるままにしている男。その顔は窺うことはできないが、微塵も動きが見られず完全に寝ているものだと思われることから、きっとその目は閉じられているのだろう。簡単に言うと、寝ている。
男の方へ、床に少々散らばる本は今はさておき、器用に踏まないようにしかし素早く歩みを進める者のその動きは慣れたものであるということを表す。
「師匠、お昼ですよお昼。起きてください」
呼びかけだけでなく直接身体を揺することなされること十数秒。
当の男の反応ないままに、その手に力がこもり行動が強めにされるか、と思われたそのとき。身動ぎひとつしなかった男がもぞりと動いた。実にゆっくりと向こうに向いていた顔が、自らを起こす人物を探す。
瞼が開ききっていないが現れた紫の瞳が一人を映し、一言。
「……アリアス……仕事はどうした」
「師匠に言われたくはないんですけど」
アリアスは起こすまで寝ていた師には言われたくないと、起こそうとしていた相手が起きたことで手を離し曲げていた腰を伸ばし立っていた。
こんなことを自分が言われることになろうとは、と実感もしながらである。
「それに今はお昼休みです」
「今、昼か」
「さっきから言ってるじゃないですか……」
二言目には惚けているのか本気なのかということが呟かれ、アリアスはいつものことながらほんの少しだけ息を吐きながら応じた。
その足はすでにソファから離れ、カーテンを引きに行くべく窓の方へ向いている。白いエプロンがひらりとひらめいた。
――グリアフル国、周辺国の中では魔法国と名高い国の王都。王住まう城にして多くの魔法師がいる場所に、彼女は変わらずいた。否、師との関わり変わらずとも変わったことは多くあった
――アリアスは魔法学園を無事に卒業し、正式な魔法師となってその場にいた