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花咲くとき、騎士は請う  作者: 久浪
『魔法学園と戦の影』編
68/246

16 王子の姿

 どうか、どうかと学園に戻ったアリアスは祈るしかない。

 開戦の知らせはそれからまもなくしてやって来た。

 戦の相手のレドウィガ国はグリアフル国の出軍に関する問いには出軍は国内に頻発する賊の討伐だと言いながら、真っ直ぐグリアフル国の方面へとやってきていたのだ。当然そんな返答信じず、戦の準備をしていたグリアフル国はレドウィガ国と相対することとなる。

 戦いの地はグリアフル国の北部。レドウィガ国との国境の地。通称、『荒れ果てた地』。――戦乱続きの時代であった頃、その地が戦地となり続けたからか荒れ、植物育たぬ土地となったという。しかしいかな豪雪であったとしても雪が降った先から解けて積もらないという不可解なことが起こるらしく、全てその地で命を落とした兵の怨念のせいだとかいう噂がある。

 学園内には情報が解禁され、最新の情報が入ってくるようになった。その度にアリアスは耳を塞ぎたくなるが、実際に塞ぐようなまねはしなかった。なぜならそれは彼らの無事を疑うことになるから。

 最近、制服の下にある首飾りを握りしめることが癖になった。





「そこまでだ!」

「……!」


 結界魔法が砕かれ、ろうそくの小さな火が消えるとともにアリアスは小さくよろめいてしりもちまでついた。

 その真向かい、数メートル離れたところに立つのは一人の男子生徒。前に並べてある六本のろうそく内、三本は火がついたままだ。


「すげーな、ランセ相手にあそこまで粘るなんて」

「三本消したしな」

「一本なんて火だけじゃなくて先とんでる」


 いつの間にか、他の生徒が周りにいて声が聞こえ始めていた。


「終わったようだな。勝った方は」

「僕です先生。ランセです」


 手を高く挙げ、言ったのは向こう側に立っているランセであるがその自分を指す言葉は「僕」になっている。

 ランセはこんな風に一人称を使い分ける。おれと僕。僕、というのは主に教師に対して使われており、丁寧な言葉遣いが付随する。「将来侯爵になるっていうのに『おれ』じゃだめだろ」ということらしい。

 それから、たびたび鼻で笑われたりするが、中身はとてもいい人であることもアリアスには分かってきた。

 ほら、今も。

 教師に向かってよく通る声で答えたながらもランセはこちらに歩いていた。

 みんなの前でしりもちをついてしまったアリアスが立ち上がる前にすっと差し出された右手。その延長線上にある顔を窺うと、無言で見返されるばかり。掴まれ、ということか。

 親切を無下にすることは考えつかなかったので、ありがたくつかまらせてもらう。


「ありがとう」

「べつに」


 今しがたアリアスとランセが向き合い行っていたのは騎士科の魔法実技の授業の課題。

 互いに前には一列に並べられた六本のろうそく。灯された火は魔法のものではなくマッチでつけた火だ。その火を相手からいかに守るか。いかに相手の火を消すか。

 火の前に無駄なく結界魔法を使い守り、同時に攻撃も行う。小さな魔法とはいえ同時にいくつも、また種類の異なる魔法を施行することは難しい。守るろうそくを絞り相手の攻撃に反応して結界魔法の対象を器用に変えるもよし、そのまま絞ったろうそくの火だけを守るもよし。攻撃の魔法を魔法で器用に相殺するもよし。とにかく立ち位置は動かず、魔法のみで相手のろうそくの火を先に消した方勝利だ。

 勝敗は二の次で養うべきは魔法のコントロール力なのではあるが、最後は単純に力量の高い方が勝つ。

 たとえば、今のランセのように最後の一手はアリアスの結界魔法を砕いてしまっていた。


「三本かぁ……」


 ゆらゆら揺れている巧みに守られ消せなかった火を見ていると、その火が何か被せられたわけではないのにふっと消えた。


「そう簡単に消されてたまるか」


 ランセが消したようだ。


「ランセ最後強めにいっただろー。容赦ない」

「うるさい、さっさと次準備しろよ。……あたったら覚えてろ」

「うひょーこええー」


 ランセに話しかけていた男子生徒が去っていく。ひとつ残っていた組が終わったことによって、教師に急かされるより先にと散り散りになっていく。

 確か次はアリアスは空きの生徒の一人だったはずなので、ちょうどいいと終わったばかりのことを思い返しながら倒れてしまっていたり欠けていたりするろうそくを確かめる。

 すると、ぼそりと上から声が聞こえてくる。


「結界魔法の精度、最後の方になってくると最初の頃と同じくらいになってる」


 その批評にランセを見上げる。

 的確な指摘だ。雑になってしまっていたなとアリアスは思い返した。

 けれどお礼を言う前にそれだけでは終わらなかった、のは、きっと彼らしい。


「治療系の魔法が得意なら、少なくとも攻撃魔法より結界魔法の方が使えるはずなのに。攻撃魔法の方ができるってどんなだよ。攻撃魔法を攻撃魔法で撃ち落としてくるし。思ったより乱暴だな」

「それは、うん……おっしゃる通りです」


 相手の力量が自分より上である場合。結界魔法で守るよりも攻撃魔法で相手を攻撃した方が勝てる確率は上がる。守っていてもやがてこちらの力が弱い限り先に力が尽きる可能性が高いからだ。

 しかし、課題の意図は勝敗を競うことが本来でない。……ことは重々承知であるのだが、どうも焦ると癖が出る。

 結界魔法は昔から思うようにいかない。

 けれど、ずっとそう言うよりもものにしなければならないと思う。

 医療科を選んだはずのアリアスが参加しているのは騎士科の魔法実技の授業。しかし、騎士科に転科したわけではない。

 ものにして帰りたいと思ったのだ。ひとつだけでなく、欲張っていくつも。苦手なものは苦手ではなくしておきたい。

 この学園に来たきっかけが何であれ、来た意味を作るのはアリアスだ。

 主軸は決めた。医療科を経て、自分は治療を得意とする魔法師になる。

 学園長が生徒の中には変則的な授業の受け方をしている生徒がおり、無理にひとつを選んで型にはまる必要はないと言った。

 城から戻った日、アリアスは学園長に言ってみた。医療科にいたまま騎士科の魔法実技の授業が受けたいと。実は医療科でも治療専門であれ結界魔法や攻撃魔法等も学ぶ。しかしより実践的で深く学ぶのは無論騎士科。

 強くなりたいと考えた。それは攻撃、という直接的な意味だけではなく……


「……ちょっとくらいなら、教えてやれるかもしれないけど」


 それにしてももう少し上手く出来るようにしたい。と考え込んでいたアリアスは目をぱちぱち瞬きランセを見た。


「暇なときに教えてやってもいい」

「あ、ありがとう! ぜひお願いします」


 思ってもみなかった申し出にアリアスはつい是非にと頼む。ランセは結界魔法も攻撃魔法もそつないどころか優秀にこなすのだ。

 けれど、とまさか彼から言ってくれるとは思わなかったもので。


「ランセくんって」


 面倒見いいね。という言葉は押し留めておけたが、その前まではぽろりと口に出してしまったのでランセに訝しげにされる。


「……なんだよ」

「……ランセくんがそう言ってくれるとは思ってもなかった、ので」

「……おれは借りは倍にして返す性分なだけだ」


 ふい、とそっぽを向かれた。

 借り、とはいつぞやのゼロの生存確認というあれか。そのことに関してはそれほどのことではないし、そうだとしても道案内してもらったのでもうないのでは。

 それに、アリアスは未だに後ろめたいような気持ちがあるもので、なんとなく申し訳ない。ランセにゼロとのことを言う日は来るのか……ないかも。


「そのときは僕も混ざってもいいか!」

「王子うるさい」


 さっきまで審判をしていたフレデリックがぴょんと横から飛び出てきた。

 ランセが容赦なくあしらう。


「大体、あんたの結界魔法は特有のやつでしょう」

「だがな、根本は同じだと思うのだ。頼む!」


 グリアフル国の王族が魔法の才能あればほぼ受け継ぐ特有の結界魔法。例外なくそれを継いでいるフレデリックは苦手なのだろうか。


「……ついでですから」

「やった。恩にきるランセ! アリアス一緒に頑張ろう」

「は、はい」

「ランセは中々教えてくれないのだ!」

「そうなんですか」


 ぶんぶんと手を握られ、約束した。王子様は元気である。次の準備に通りかかった生徒がその様子に笑った。

 そのあと邪魔にならないようにと壁際に行ったアリアスは次の準備にとろうそくの入っている箱を覗く。しかし箱は空っぽで、教師に言うと隣の準備室にあるはずであり、取りにいってくれとのことで一旦部屋を出る。

 出て、一瞬心臓が止まるかと思った。

 ドア脇に佇む人影があったから。


「――え、え?」


 ぴたりと壁に存在感を消すように立つ人。偶然突然見つけて、さらに理解できなくてちょっとしたパニックだ。というよりも疑問符が尽きない。

 不審者。

 それでもその光景にぱっと浮かんだ言葉はそれで、とっさにさっき話したばかりの監督している教師が思い浮かんで閉め切っていなかったドアに手をかける。


「ちょっ、待って……! 待ってもらえますか」


 亡霊めいた人影が喋った。

 大きさは抑えられているが存外必死な声にその先の行動の制止を懇願される。あまりに必死なのでアリアスは止まった。

 そして改めて距離はそのままに陽が当たらず灯りなく薄暗い壁際に目を凝らしていると……しーという仕草をされている。


「お静かに願います」

「は、はいすみません?」


 あれ? この人どこかで見たことがある気がする。

 そろそろと音なく近づいてくる男性の、あきらかになってくる顔。顎のラインにまで伸ばされている髪は毛先だけがわずかにウェーブがかかっている。金のような茶の髪。

 念のため、悪人顔ではない。


「あなたは……どこかで……」


 そうしていると、どうも向こう側の男性も首を傾げつぶやいている。かと思うと、首が戻る。


「先輩の恋人さんですね」

「へ……!?」


 恋人という思いもよらぬ言葉に大きな声を出しかけると、さっと距離を詰められ口を塞がれる。誘拐犯みたいな鮮やかな手口だ。


「失礼しました……つい、ですね」

「い、いえ、大きな声を出そうとしてすみません……」


 きょろきょろとちょっとした隙間だけになっているドアの隙間から、中の他の生徒が気にせず続けていることを確かめる男性。

 アリアスはすぐに手から解放されて、つい謝る。心臓が驚きでばくばくしている。で、この人は何者なのだ。


「あ、あの……」

「なんでしょうか」

「先生、ではないですよね?」


 なぜかそのまま室内を窺い続ける男性は若い。二十代前半か。服装は乱れなくきっちりしているが、少なくとも教師の格好ではない。かと言って学園の設備を整える人の格好……にはいそうだが、なぜこんなことをしているのか。

 不審者にしか見えない。が、そうは思えない。

 おずおずと尋ねたアリアスは、驚かせてしまい申し訳ありません、と眉を下げて謝られる。


「まずは自己紹介を。私、フレデリック王子の侍従でフィップと申します」

「あ、アリアスと申します」


 つられて名乗って頭を下げる。


「王子の……あ、」


 いつぞや、久しぶりにフレデリックに会ったときのこと。彼を探しにきていた侍従の人だ、とアリアスは思い出した。フレデリックとのやり取りが印象的でそれで何となく見覚えがあったらしい。

 警戒心が解けていく。間違っても不審者ではない。


「アリアスさん、ですね」

「あの、どうぞ敬語はやめてください」

「ああ、これはお気になさらず。侍従になると決まってからは誰にでもこうですので」

「そうですか……」


 にこり、と人当たりのいい笑顔で言われた。しかしながら次の瞬間、眉を下げた形に戻る。


「今さらながらですが、毒の件では大事なかったでしょうか」


 小声で、尋ねられる。


「え? あ、そのことでしたら平気でしたし問題なかったので、」


 お構いなく。


「そうでしたか、それは良かった。……王子もいたく気にされてまして、」


 主従そろって気にさせていたとは申し訳ない。しかもここでその話が出るとは思ってもいなかったアリアスが恐縮しているとフィップがぽそりと付け加えた。


「何より先輩の聞き返しの『あ?』ときたらひさびさの恐怖でしたよ」

「……あのすみません、」

「はいなんでしょう」

「さっきも言われてましたけど、先輩って誰ですか?」

「これは失礼を。――ゼロ団長です。白の騎士団のゼロ=スレイ団長……申し訳ありません癖でして、未だに先輩と言ってしまうことがあるのです」


 あの方の恋人さんでいらっしゃいますよね? と生真面目そうな顔で尋ねられる。


「そのことは、なんで……」

「強いて言いますと、勘です。以前先輩と一緒におられましたよね? 何となく、ですが先輩の空気が柔らかかったので。少なくともただのお知り合いではないと。そのため毒の件を先ぱ……ゼロ団長にお会いすることがあってお伝えさせて頂いたのですが、そのときの反応で確信させて頂きました。そのときの衝撃が私の中で強すぎて……申し訳ありません不躾に申し上げてしまいまして」

「い、いえ」


 衝撃の詳細は分からないが、とにかくそれが「先輩の恋人ですね」というやけに確信に満ちたぽろっと溢れたらしい発言に繋がったのか。

 そういえば毒の件のとき、クレアの知らせで医務室に来たルーウェンと異なる情報筋で来たゼロ。この人だったのか。


「本当昔から怖かったですが、卒業してからは久しかったもので」

「怖かったんですか?」


 ひとつふたつ繋がったことに納得していたアリアスは耳に入ってきた言葉につい聞いた。


「ええまあ。私もこの学園の卒業生でして、ちょうど先輩のひとつ下の学年だったのです。その関係で未だ先輩と呼んでしまっているのですが、あの先輩は……当時はまあ鬼の組長でしたから。あ、騎士科の模擬戦をご存知ですか?」

「はい、一応ですが」


 ちょうど今の時期から二つの組への組み分けが行われるという騎士科の模擬戦は例年通り行われるそうだ。戦争だから中止する、というのではなく、だからこそ中止しない。将来の彼らの役目であるため目を逸らさずあえて行うのだ。

 学園時代のゼロの話が聞けることなどそうそうないので、好奇心からアリアスはどういう過程でこんな状況になったか等は忘れていた。

 フィップの方もまた、偶然会った生徒が生徒であったからかでも若干遠い目で話す。


「私はあの人が実質指揮をお取りになっていた二年、同じ組であり続けました。本当は最高学年の中から指揮官が組内で決められ指揮するはずなのに、先輩ときたら実権を握ってまして。すごいところは他に誰も反対する生徒がいなかったことです。負けを許さない人で、模擬戦の期間ずっといつか死ぬかとまで思っていましたよ」


 とはいえ、中々に苛烈な学園時代だったようだ。欠片しか聞いていないのに、それが窺える。フィップの表情もまた物語っていることは言うまでもない。

 やつれてはいまいか。


「戦場でも敵を蹴散らしていることでしょうねえ」


 その何気ない流れで呟かれた言葉に、アリアスはぴくりと反応した。


「そう、思われますか?」

「……申し訳ありません、無神経でした」

「いえ! そういうつもりじゃなくて……」


 アリアスは慌てて首と手を横に振る。気を遣われてしまった。


「ゼロ様のことを知っていらっしゃる方からそう聞くと、安心します」

「それなら良いのですが」


 本音だ。実にしみじみと言うものだからきっとこの人は心の底からそう思っているのだ。

 そのとき、ドアの向こうの実習室から何やら「うわっ」という大きな声が上がった。授業が始まってからほぼずっと魔法のぶつかり合う音を聞いていたので自然音という認識であったそれもアリアスの耳に改めて戻ってくる。


「そういえば、長く引き止めしまいました。ああそうです見つかってしまって混乱を与えると王子に怒られますので、一応説明を。ここに私がいるのは王子の護衛でして……いえ本来ならもっと目立たぬようにすべきなのですが、どうしてもこの部屋は覗くところが……」

「……もしかして、護衛は今だからですか?」

「護衛の増量は、そうです」


 明確には控えたが、決まっている。戦争だから。

 今も隙間隙間目を向こうに光らせているのは、護衛のため。


「それなら、城にいた方がいいんじゃ……」


 王子なら。


「ええ城の方が安全です。国一安全ですよ。戦となれども兵は全て城を出払うわけではなく、武装し護りを固めますから。魔法師騎士団の戦場を駆ける歳はお過ぎになってもまだまだ魔法は現役の魔法師の方々もいらっしゃいます。王族の方々には一人残らず護衛が増やされ厳重警戒に入ります」


 ですが、とアリアスの疑問を全面的に肯定しながらも、フィップは一度言葉を区切って続ける。


「王子が可能なら戻りたいとおっしゃいまして」


 諦めたような口調。

 そして、ドアの向こうに絶え間なく目を配ることを忘れず理由を語る。


「この国に戦が起こることは久しいことです。老人世代が知っているくらいでしょうか」


 グリアフル国の子供たちは戦争を知らない。若者たちも同様。

 今の王の治世はそういう意味では平和だったのだ。


「王子が長期間不在であれば生徒たちは勘ぐります。何かあったのではないか、と。王子の不在は陛下の件からなので下手をすると、かなり早いうちから不安が生まれることになっていたでしょう。知ったときには戦はもう始まっていた、くらいがちょうどいいと思いますよ私は。城にいる大の大人でさえ怯えているのですから。その時間は短い方がいいでしょう」


 長く戦がなかったとはいえ、察する空気はある。大きな流れがある。情報は洩れる。

 学園が直前まで何も知らないでいられたのは、奇跡だ。

 王子が学園に変わらず居続けた、ということは間違いなく大きい。それは状況を考えてみると当たり前ではないのだ。

 学園の当たり前の光景を生徒が知らぬうちに戦争が近づいている中作っていたのは、フレデリック。

 かの王子が、アリアスの編入初日何も知らなかったアリアスが毒の一件があったために学園に戻っていることに大丈夫なのかと思ったとき。彼は言った。「こんなときだからこそ」それは、こういうことだった。


「それだけでなく、そのときが来ても混乱を防ぎたいと、不安が生まれても学友だから共有し、戦争の勝利を祈りたいとおっしゃいまして。あの方の真摯な目に私たちは根負け致した次第なのです。いつも奔放に見えて――事実そうなのですが――ときおりはっとさせられることをおっしゃられます。今回も、そうでした。無論、警護は外せませんので私はその警護に来ているということです。これでも私、戦えるもので。あとの人員は上手く混ざっていますが」


 さっきの王子もいつも通り明るかった。学友と共に学び、寮に帰り生活を送っている。


「この学園は城の次に安全だと言われています。戦争となっても子を預けている親が生徒たちを引き取りに来ることはまず少ないでしょう。学園長様の信頼度の高さでもあります。あの方は素晴らしい魔法師でしらっしゃいますから。学園長でなければ魔法師の最高位に座っておいででしたよ、きっと」


 最後、生徒であるアリアスを気遣ったのかフィップはそう締めくくった。


「フィップ様、」

「何でしょう」

「お邪魔ししまい申し訳ありませんでした。私、授業に戻ります」

「いえいえ邪魔などとんでもないことです。……それが今だからこそ、この学園に通うあなた方のすべきことですよ。きっと」

「はい」


 この人、何だかアリアスのクラスの担当教師に似ている。言うことも喋り方も流れるようで、なおかつ言っていることが教師みたいだからかもしれない。それでいて、保護者のような。

 そんなフィップは自らの主人から目を離すことはない。


「ゼロ様のことも聞けて嬉しかったです」

「それは良かったです。……しかし、ご本人にはご内密に。どのような反応になるか恐ろしい限りですので」


 何事もなかったように、でも確かに頭の中に話が残っていて、アリアスが準備室を経て戻った部屋の中では第二王子が結界魔法より攻撃魔法を駆使して銀髪を輝かせ励んでいた。



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