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花咲くとき、騎士は請う  作者: 久浪
『番外』編
245/246

将来について




 驚いたってもんじゃねえよな、と言ったのはゼロである。

 アリアスは同意して深く頷いた。


 ゼロのが示したのは、先日の息子の発言だ。曰く、ジオに弟子入りして魔法具職人になる、と。

 どうやら息子は、初めて見た魔法具、その魔法具を作る者の中でも一級の腕を持っているらしい師の手際に惹き付けられてしまったようなのだ。

 無理もないかもしれない。アリアスも昔を思い出せば、気持ちは分かる気がするのだ。

 子どもにはあの過程、光景さえ「魔法」に見えるだろう。


「まさか、あの歳であんなこと言い出すとはな」

「そうですね……。環境を考えてみると、やっぱり興味は引かれるものなんでしょうか」


 考えてみると、だ。


 こうしてゼロと、息子の具体的な将来についての話をするのは初めてのことになる。何しろ、まだまだ先の話だと思っていたのだ。

 けれど、魔法具職人ではなくても、ゼロもアリアスも魔法師で、時折会うルーウェンやクレアだって魔法師。

 師はと言うと、それこそ魔法をほいと使う魔法師だから、『魔法師』を身近に感じないわけがないのかもしれなかった。

 街に出掛けて接する人々がそうでないとしても、最も近くにいて、アリアスたちが親しい関係にあるのは魔法師となるのだから。


 アリアスは、ジオやルーウェンに会うまで魔法を知らず、魔法師という人たちに会ったこともなかった。

 しかし、魔法師に弟子入りしたこともあるだろうが、将来に見えていた仕事像はいつからか魔法師になっていた。

 では、生まれたとき、物心ついたときにはその職が身近にあったとしたら。親も魔法師で、魔法を見たことがあったら。いつからそのように考えはじめることになるのだろう。


「魔法師に限らず、親の仕事なり見える形である『職』に興味持って憧れたりするのは子どもにあることかもしれねえな。俺はそういう道は辿ってねえから知らねえけど」


 後々偶然白の騎士団の副団長に会った際に聞くことになるのだが、ゼロは子どもがこんなことを言い出したと溢しており、そんな関係の話をしたのだとか。

 白の騎士団の副団長にも子どもがおり、同じようなことを言い出したことがあるという。経緯や年齢に差はあれど、ありがちなことなのだろうか。

 また後々イレーナとも話すと、「女の子がお姫様やお嫁さんに憧れるようなものに近いものがあるのじゃない?」と言っていた。なるほど、そういう考え方もある。


「歳から考えると、さすがに完全に将来を見据えた上での発言じゃねえ可能性の方が高いだろうが……」

「まだ何とも言えませんよね」


 本当に将来的になりたい、なる、と考えて言っているかどうかは分からない。そうではないと言うつもりはない。

 『夢』でもいいと思う。歳が歳であるし、そういった夢、目標があることはいいことだ。魔法師だということを抜きにしても、親として嬉しくもある。


 ところで、そう言いながらもゼロとアリアスが揃って歩いているのは城の廊下だ。

 息子の言葉を聞いてから、一度もジオに私的には会っていないゼロは一度ジオに話をしようと考えているようで。


 本気は本気でも、年齢的にその道を辿るかはまだまだ分からない。しかし万が一この先そのようなことになるのなら、と。


 魔法師になるだけなら学園という場所があるが、魔法具職人はそのうち同じように教育の場が出来るにしても、現在は未だに弟子を取る方が主流のままである。

 このまま行くと、師事する先はジオになるかもしれない……という予測が立てられる。だから、それも含めてゼロは一度一応話を思っているのだろう。


 彼は、とても真剣に考えていたのだ。

 子どもだから当たり前かもしれなくても、アリアスは何だかそれも嬉しく感じた。

 初めての子育て。今までにも色々な新しい、新鮮なことがあったけれど、こうしてこの先もあの子を育てていくのだと思った。


 けれど、そんなに呑気に感じるばかりではいられない事情もあった。


「まあ魔法具職人であれ、他の魔法師であれ、なるならなりゃあいい。俺だって魔法師だ。やれることはやる」


 応援する、と当然の口調で言ったゼロは「だが」と、息子が初めて口にした将来の職についての『最大の懸念』を口にする。


「魔法師になれねえなら、魔法具職人にはなれねえ」


 この段階での最大の懸念。そもそも魔法師になれるのかどうか、という点であった。

 魔法具職人は、名前の通り魔法具を作る人たちだ。魔法石の整形も行っているようで……その仕事には魔法は欠かせないため彼らも魔法師である。


 そして、魔法師とは魔法力があり、魔法を使える者でなければなれない。魔法力は生まれつき持っているもので、後から産まれることはない。

 その点では完全に生まれたときに、なれるかなれないかが決まっている。無い魔法力は、努力でどうにかなるものではない。


「魔法力は遺伝……とは言い切れない部分がありますよね」

「ああ」


 魔法師一家または代々魔法力を持っている一族の元に生まれる子どもは、大抵魔法力を持って生まれる。らしい。

 しかし反対、と言ってもいいのか、全く魔法力がない家族の中に魔法力を持つ子どもが生まれることもある。

 こちらはあまり聞かないことのようだが、アリアスはこちらに当てはめることが出来ると言えば出来る。


 そして重要なのは次で、魔法師同士の親から生まれた子どもであっても魔法力を持っていない場合があると言うのだ。こちらも中々聞かない場合ではある。


「けど、こればっかりは表に出てみねえと分からねえからな」


 魔法力を持っているか持っていないかは、魔法として表に出てこないと分からない。

 そして魔法力の発現は人によってそれぞれ。普通はある日突然、小さな力が小さな事象を起こし、分かるものだそうだ。

 アリアスに魔法力があると分かったのは、ジオやルーウェンと出会ったとき。従って六、七歳のときとなるか。

 子どもの頃に発現することがほとんどだと聞いたことと、学園の入学年齢が確か十二、三歳だったと思うので、それ以前に目覚めるていることが当たり前と考えても良いはずだ。


「ルカが魔法力を持ってるとしても今表れてないのはおかしいことじゃねえが、本人がああ言うなら、あるかどうかくらいは早いうちに知っておきたいところだな」

「……師匠なら、分からないでしょうか」

「ジオ様なら?」


 色々と人に出来ないことが出来る師で、時折魔法的な感覚が段違いに鋭いと感じたこともある。

 もしかして、まだ表に出てこず眠っている魔法力もあるかどうか分かるのでは?

 思い付きをそのまま口にしたアリアスはゼロを見上げ、ゼロは少し考えるような表情をした。ちょっとあり得るかもしれない、と彼も考えたと思われる。


 そうこうしている内に、師の部屋の前に来た。扉を開けるため、手をかけ──


「ししょう、ぼく、魔法師になれる?」


 思わず、止まった。


 中から聞こえてきた声は息子のもの。今日一緒に来ていて、アリアスは少しだけ師に預けさせてもらって、ゼロの元に行っていた。

 だから中にはジオとルカがいる。


 耳が拾った言葉、内容にアリアスとゼロはほぼ同時に視線を向け合う。

 ゼロも言葉を拾ったらしい。

 魔法師になれるのか、と息子は言った。何気ない口調で、向けられた先は部屋にいるはずの師だろう。


「……なりたいのか」

「うん」


 寝ていたのか何なのか、しばし間を置いての問い返しに、息子がすんなりと肯定する声が聞こえた。


「ぼくね、お父さんみたいにかっこよく騎士団に入りたかったんだけど、お母さんみたいにもなりたいんだ」


 どちらも初耳であった。

 武術大会に連れて行ったことがあって、あれがゼロだと示してやれば、目を輝かせていたけれど。ゼロのように、騎士団に、と憧れることはあるかもしれないけれど。

 アリアスみたいに、とはどういうことだろうか。

 同じ事を疑問に思ったのか、師が「アリアスみたいに」と呟いた声が微かに聞こえた。


「うん。この前ね、セシリアが転んで怪我しちゃったんだ」

「セシリア……ああ、ルーの子か」

「それでね、血も出て、セシリアが泣いちゃったんだけど、ぼくは何もできなくて。そしたらセシリアのお母さんが来て、セシリアの怪我をあっという間にけしちゃったんだ。

 ぼくも、前転んだときにお母さんが怪我を治してくれたんだ。魔法だって。本当は簡単に使っちゃいけないんだけど、内緒だよって。だからぼく、セシリアたちが転んだりしても、泣かなくていいように、なおせるようになりたい」


 それで、お母さんみたいになりたいなぁって、と言う息子はどんな顔をしているのだろう。見たくなった。でも、想像できる気もした。

 ああ、彼はそんなことを思い、考えていたのだと、アリアスは不思議な心地になった。子どもは、親が思っているより色んなことを考えていて、見ているのだ。そんなことを実感した風になって。


「魔法具職人はどうした」

「ええっとね、全部なるんだ!」


 魔法具職人も、騎士団団員も、怪我を治せる魔法師にも。

 それはちょっと欲張りだな、と微笑ましくなった。目標が高くていいと言うべきだろうか。


 けれど何より、今言った将来像全てが魔法師だったから、あの子が魔法師になれますようにと思わずにはいられなかった。

 魔法力がありますように。魔法力があれば、道の始まりに立てるのだ──。


 扉の外に親がいることは知らず、いても言っただろうか、息子は無邪気にジオに最初の問いを再びぶつけた。


「ぼく、魔法師になれる?」

「なろうと思えばな。お前には魔法力がある」


 ……。


「え」


 アリアスは無意識に声を洩らした。

 今、師はすんなりと何と言った?

 目を瞠ってゼロを見ると、ゼロも若干驚いた目をしていた。


 アリアスはいてもたってもいられず、ノブを掴んで扉を押し開いた。


「師匠、今の話本当ですか……!?」

「わ、お母さん、びっくりした。……あ、お父さんもいる」


 息子が表情を驚きに染めている傍ら、ソファーにだらりと座っている師は欠片も驚いた様子なく「どの話だかは知らんが、お前がこの部屋を出てからの会話で嘘をついた覚えはないな」と言った。


 息子には魔法師になるために必要不可欠な魔法力はあるらしい。

 多機能な魔法師を現時点での目標に掲げる息子を持つ親の懸念が、あっさり晴らされた瞬間であった。








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