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花咲くとき、騎士は請う  作者: 久浪
『春の宴』編
22/246

22 後始末


 アリアスがゼロに促されて階段を上がり終え、本当にやっと地下通路を出ることができ、あの隠し扉を出て来たとき。誰かと鉢合わせることとなった。今日何度目かのことに、少し前を行っていたゼロが奪ったまま腰に差していた剣をすぐに抜く。それに相手も応じ、剣同士がぶつかり合う甲高い音が響く。

 しかし、二度は続かなかった。


「何だルーか、紛らわしいな」

「ゼロ! どうしてここに、魔法具の探索でここまで来たのか?」

「ああ、まあその延長みたいなもんか」


 魔法の灯りの元、剣を交じわせたが相手が互いに分かった二人は剣を下ろす。

 瞬時に真後ろに庇われたアリアスは出てきた名前に顔を覗かせる。現れたのは、何とルーウェンだった。そんな、軍服をきっちり着込んで剣を鞘に収めている途中の兄弟子と目が合う。


「アリアスもまだ戻っていなかったのか?」


 青の瞳が予想外からか大きくなり、剣を収めきりながら近づいてくる。


「襟が乱れて…………どういうことだ、これ」


 アリアスの服装に目を留めたルーウェンは、何気なくその内の襟に手を伸ばして整えようとした。だが、彼もまたあることを見過ごすことなく首を凝視することとなる。一気に声が低くなり、その声の一瞬の変化を至近距離で聞いたアリアスは驚く。


「こんなにくっきり痕が」


 『痕』、ゼロが同じ事を言っていた。同じように首を覗き込まれ、同じことを言われる。その言葉に自らの首を見ることは出来ないアリアスは、痛みはまだ多少ひりひりと感じるがそんな見た目になっているのかと尋ねる。


「痕って……そんなについてるんですか?」

「指の型がな……。何てことしてくれたんだ、一体どこのどいつだ」


 すると、顔をしかめたルーウェンが呟くように答えてくれる、と共にそっと指先で首の中腹辺りを撫でる。一枚、一番上の皮が剥がれているのか敏感になった肌が微かな悲鳴を上げる。けれども、動作が見えていたため、アリアスは声を抑えることが出来た。


「痛いよなー。ごめんな」


 ルーウェンはその表情の変化に目敏く気がつき触れたのは一秒にも満たない時間で、申し訳なさそうにするりとアリアスの頭を撫でて気がついたときに傷を見るために曲げていた身体を元に戻す。

 そうして目尻を下げて妹弟子に気遣わしげな色を浮かべていた彼ははっとして傍らのゼロの方に顔を向ける。


「まさかブルーノ=コイズと遭遇したのか?」

「何でそれ……ああ、吐いたのか」

「ついさっきな。そうしたら、奴がとっくに城に入り込んでるって言うじゃないか。もう少し締めたら場所まで吐いたからここに……あいつがしたのか?」

「だからここに来たのか。あいつがしたわけじゃねえけど」

「じゃあ誰が」

「もう一人いたんだよ」


 どうもルーウェンが突然現れたのは、拷問を受けていた者が吐いたことによる。そんなことは知らないアリアスは交わされる会話を聞くもぼんやりとしか理解できない。どこからか情報を得たようだ、と。


「もう一人だと? やっぱり他にもいたか」

「ああ、襟章の限りじゃあ黄の騎士団の奴だ。二年前に騎士団の再編成があったからな、それで白の騎士団から移動した奴かもしれねえな」

「そうだな。で、お前がここにいるということは」

「二人とも封じして転がしてある」


 簡潔なやり取りがそこで一時途切れる。

 ゼロが歩き始め、ルーウェンの横で一度止まりぽんとその肩の下辺りを叩いた。


「ルー、役割交代は終わりだ。城の内部は白の騎士団の役目だったはずだからな」

「だが」

「お前だってここから一気に忙しくなる。外に協力者がいるかもしれねえし。……その前にアリアスの傷治してやれよ」

「それは当然だけどな、」

「俺はブルーノ=コイズともう一人を地下通路から引き上げてくる。んでとっとと片付ける」

「――分かった、これから青の騎士団の団員が来るから役に立てろ。ゼロ、やり過ぎるなよ頼むから」

「殺さねえよ」

「その寸前も止めてくれよ……。じゃあアリアス……そうだな、一度師匠のところへ戻ろう」


 ゼロとの会話を終えたと思われるルーウェンが、じっと彼らを見上げていたアリアスにその目を戻す。怪我の具合を見たばかりの彼はまた気遣わしげな色を宿す。そして、妹弟子をそっと促す。地下通路の入り口から離れる方向へと。それと同時にゼロは地下通路の入り口へと歩き出す。


「――、」


 背を押されているアリアスは、ルーウェンとすれ違い、自らの横も通りすぎていくゼロの袖をとっさに掴んだ。そうすると、驚いたような目とかち合う。地下通路から出て、初めて目が合った。


「どうし……」


 足を止めてくれたゼロが首を傾げることを他所に、背の高い彼に向かって背伸びをして手を伸ばす。まったくもってルーウェンと同じく背が高いのだ。

 そうして、触れるか触れないかくらいに頬に手を翳しすと魔法を注ぎ込む。その目的は、ゼロの頬についていた切り傷を癒すこと。こちらの手当てを促すのに、自分のことは全く頓着していないのだ。軍人だからだろうか、性格なのか。


「ルーウェン団長!」

「やっと追い付きましたよ!」


 さっと手を戻すタイミングで複数の足音と声が投げ掛けられる。見ると通路の続く先から徐々に軍服姿の人影が四つ。


「いいところに来たな。これからブルーノ=コイズとその協力者の連れ出しと牢への運び込みだ。ゼロの指示に従ってくれ」

「はい!」


 けれどもすぐに、彼らに指示を出すルーウェンの姿で見えなくなった。襟章は確認できなかったけれど、確実に青の騎士団の団員だろう。ブーツが通路にぶつかり、腰の剣は忙しない音をさせながらアリアスが見えない内にすぐ側を通っていったことが分かる。


「俺も後で向かう」

「分かりました!」

「アリアス、行こう」

「あ、はい」


 ゼロへ指示を仰ぐ声を近くに、ルーウェンに小声で促される。どうも団員から姿が見えないようにしてくれたらしい。十分に場が照らされていないこともあって彼らはアリアスに気がつくことはなかった。それとも気がついてはいたが、ルーウェンが前にいるので口には出さなかったのだろうか。それは不明ではあるが、とにかく今度こそアリアスはルーウェンと共にその場を後にする。

 その背後でゼロもまた、駆けつけた青の騎士団の団員らと共に出てきたばかりの地下通路の方へと改めて歩いていった。



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