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花咲くとき、騎士は請う  作者: 久浪
『武術大会』編
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2 武術大会とは




 雪雲がどこかへ行き、雪が降ることなくなってどれほどか。今日は抜けるような青空が広がっている。

 気温はまだ低め。春に向かっていく季節とは言えど、冬の名残のある期間。春に入る前の暖かくなり始めるかという期間中に、武を披露し、競う大会がやって来る。

 武術大会――普通の騎士団、魔法騎士団が『基本的に』魔法なしの剣技のみで戦う。


 武術大会は大きく分けて二種類の形式で武を競う。

 一つ目――言うならば「団体戦」では騎士団の中で優秀な者を選抜し一つ分の隊を作り戦う。一つの騎士団の中にはさらに分けられた「隊」がいくつもあり、武術大会では一つの騎士団につき一隊分の人数を揃えるのだ。

 この団体戦では魔法師騎士団と普通の騎士団関係なく当たるため、剣技のみ使用。魔法は禁止。魔法を使用した瞬間に失格となる。


 二つ目――「個人戦」では騎士団選り抜きの者たちが個人の技量をもってぶつかり合い、ただ一人の勝者を決める。

 ただしこちらは魔法師騎士団と普通の騎士団が別々で、魔法師騎士団の個人戦は魔法有りのルール。最終的には両騎士団戦により二名の勝者が出る。

 ちなみに団長副団長は個人戦には出られないと決まっており、そのため例年上位に連なるのは隊長の面々だとか。


 現在、すでに出場者の選出は終わっており、武術大会が眼前に迫るため準備期間に入っている。運営側は随分前から。そしてもちろん主役たる騎士団も――


「すごい音がしたわ」

「うん」


 何より軍服姿の団員が一直線に飛び、壁に激突した光景をはっきりと見た。痛そうでは済まない。

 そもそも普段からして学園のときとは訓練量と内容が違うらしい。新人、ほとんど同級生が飛ばされる光景は慣れない。


 通りすがりに見学した騎士団の訓練は、いつにも増して――いつも見る機会はないのだが――激しいものだった。


「アリアスは武術大会はずっと見てきたの?」

「ううん。そんなには見たことはないかな」

「そうなの? ルーウェン団長も出ていらっしゃったときもあったでしょう?」


 アリアスは何年も城にいたとはいえ、そういう催し事はあまり記憶にない。武術大会に連れて行ってもらったことはもちろんあるが、観客の数が多いというのが第一の印象。

 アリアス自身が好んで人が多くごった返しているところには行く質ではないことと、普段城で体感する人数とは段違いの数の人々が一ヶ所に集まり、街などとは異なる賑わいがある。その印象が強くて、他の詳細を覚えていないのだろう。

 ルーウェンが出ていたところは覚えている。ルーウェンが出ると聞いたから何度かだけ行ったのだ。

 ただその記憶の中にも本当に人の数がすごかったことが加わる。周りの熱量と、それらが向けられる先で立ち、ルーウェンが戦う姿。兄弟子の凄さを改めて目の当たりにし、ルーウェンが軍服姿で戦う姿を見たのはそれが初めてだったこともあり、食い入るように見ていた記憶。

 軍服姿で会うことはあっても緩やかな笑顔を浮かべている彼の、軍服が似合う理由が分かった心地になったのだ。


「うん、ルー様が出ていたところは見たことあるよ」


 館や医務室の魔法師には知っている人たちがいる中で騎士団にはルーウェン以外知っている人がほぼいなかったので、他の試合を見ていたてしても、後には必然的に兄弟子の姿しか記憶にないことになる。


「優勝したときのことは一番覚えてるかも」


 ルーウェンも今はもう団長になっているので個人戦には出られない。それ以前、子どものアリアスも見に行ったときに出場した際、魔法師騎士団の中で優勝したことがあるのだ。何年前のことだろう。

 魔法師同士の戦い特有のぶつかる魔法の数があまりに多かった、白い光が飛び交う光景。会場に熱狂ではなく緊張さえ満ち、誰もが固唾を飲んで見守っていた空気でさえも思い出すようだから、最も良く覚えていることに間違いない。


「わたしも見ていたかもしれないわ、それ。学園に入る前にはお姉さまたちと連れて行ってもらったものだから」

「え、本当?」

「ええ」


 学園に通っていると、この時期は学園にいる。騎士科で卒業後の進路を騎士団に定めている生徒たちは授業の一貫として武術大会を見に来ることができるが、それ以外の生徒は学園。そのため過去 約二年間の内に行われた武術大会をアリアスは見ていない。

 イレーナは学園へは普通そうであるように一年生から行っているから、その間の武術大会は目にしていないことになる。


「こういうことが発覚すると不思議になるわよね。わたしたちが会うのはそれからずっと先だもの」

「そうだね」


 会場は広く、多くの人がいるからすれ違うことさえなかったかもしれないけれど――。


「年々がっかりするぜ。一年目でも一人くらい食い込んでくる奴出てこねえのかよ」

「先輩卒業の辺りは先輩がいたっすからそこからを基準にするとそう思うのは当然っす……」

「どういう意味だそれ」

「い、いえ何でもないです! そ、それより今年は持った方っすよ」

「どこがだ」

「一年目で先ぱ……団長のしごきに耐えられるのは中々いないっす。今年はついてきてる新人も一人二人はいますし。それにまあ、新人は大会に出ないからいいじゃないっすか」

「問題はこの時期に熱入って、それについて来れねえって事実が発覚することだな」

「……団長、くれぐれも容赦してやってください」


 アリアスがイレーナと去った背後で、そんな会話が通りすぎて行った。


 もしかすると、アリアスはゼロが武術大会に出ているところを、知らない内に見ていたりしたのだろうか。それならルーウェンと同じように個人戦に彼が出られない今、見ることが出来ないと考えると惜しいという思いが出てくる。







 武術大会が近づくこの時期、騎士団の医務室は忙しくなる。武術大会に向けた訓練で怪我人が増えるからだ。


「もう無理だ……」


 騎士団専用の医務室にてアリアスが怪我をしてやって来た団員の手当てをしていると、その団員が暗い声を出した。


「大丈夫。ほら、もう腫れも引いたから剣を握っても問題ないと思う」

「違うそういう意味じゃない、けどそれはありがとう」


 仕事なのでお礼には及ばない。

 怪我人がいつもより頻繁に来るために人が満ちたところに来たのは、見たことはあるかもしれないだったり知らない顔だったりする多くて全員を把握は出来ていない内の団員ではなかった。

 酷く腫れ上がって変色し、僅かに動かすことにも激痛が走る手首を持って現れたのは、学園での同期。

 骨折や、折れるには至らずとも骨がヒビが入っていると思われる怪我人が出ているので、手首の腫れようにその可能性があるかと思っていたら、手酷く腫れ上がっていただけで安心した。

 だから腫れも引いた今大丈夫だと言ったところ、違うと力なく首を振られ、アリアスは首を傾げる。


「治してもらって言うのも何だけど……戻るのが憂鬱すぎる」

「訓練に?」

「うん……。学園卒業してから騎士団に入ったときも、うわ訓練量違うキツそうとか思って、実際キツかったんだけどさあ……」

「うん」

「学園の模擬戦前もけっこうなものだったのに、その倍なんて……城の騎士団と比べる事自体間違ってるかもしれないけど……」

「そこは、仕方ない、ことかな……?」

「魔法師騎士団って言えば、前の戦で敵を蹴散らしたんだぞ。戦場経験済みのそんな先輩たちと張り合おうっていうのがもう……」

「ウィル、一旦考えるの止めた方がいいと思う」


 同期が、痛々しい怪我は治っていくのに、学園で模擬戦の練習をしていたときとは比べ物にならないくらい悲壮な顔をしていくから、アリアスはストップをかける。


「――歯が立たないんだよ、要は」

「一年目だから、何年も余計に修練を積んでる先輩に負けてもおかしくはないよ」

「だよなあ……。出場する隊長とか選ばれてる先輩見ると、これ次元が違うってまで思うし。というか団長ってランセの兄貴なんだよなぁ……ランセより倍強烈だ……」


 ランセとは侯爵家の跡継ぎながら学園に通っていたゼロの弟。彼は学園においての武術大会とも言える模擬戦で、騎士科を二つに分けた内の片方の組の長を務め上げた。

 目の前の同期の軍服には白の襟章。従って白の騎士団所属。団長は、ゼロだ。


「……おれ、武術大会までに動けない体になってるんじゃないかな……」

「縁起でもない」

「いや、わりと本気だから」


 どことなく目が虚ろになりかける瞬間があって怖いのだが。

 出場者でもないのに、騎士団全体に熱が入るようだからそれにもまれているようだ。特に数年前に戦があってから、普段の訓練も当然、加えて武術大会への入れ込みようはますます強くなったと聞いているから……。


「が、頑張って」

「頑張りたい……」


 白の騎士団は頑張ると断言も出来ない域なのか。この同期の一年目であることと性格ゆえについて行けず拍車がかかった結果か、どちらか。

 医務室に来る団員の割合が白の騎士団所属が多い気がしていたのは、気のせいではないらしいとアリアスは悟った。






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