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花咲くとき、騎士は請う  作者: 久浪
『王家の秘密と逃亡者』編
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31 王家の真実




 ハッター公爵家の家督を放棄した上で魔法師及び騎士団への道を選び、現在見事に団長の座にある者――ルーウェン=ハッターの人生は王族や他の高位貴族と比べると少々特異なものと言えるだろう。

 特異な点とは、将来公爵になるはずだった人間が魔法師への道を選んだことだとも言えようが、それは表面的な部分に過ぎない。

 

 彼の人生の特異な点は、本人ですら知らなかった、知るはずではなかった出自にある。


 大勢の者、また本人もハッター公爵家の子どもだと()()()()()

 そもそも誰が疑っただろうか。色彩も能力も秀でた彼は公爵家に相応しいとは称えられど、相応しくない者だと謗られた過去は一度としてない、優秀な子どもなのに。

 ルーウェンという子どもは、()()()にはエドモンド=ハッターと彼の妻にして高位貴族の女性との間に生まれた「どのような素晴らしい素質を持った子どもが生まれてもおかしくはない家系」に生まれた子どもで、表した数々の素質は期待以上ではあったがおかしくはなかった。

 しかしこれはある一部の者達にとっては、予想外のことにして計算外のことであった。

 何しろ実はその家に生まれた子どもではなく、片親は庶民であったから。色彩は継げど、ルーウェンに大いなる期待をしていなかった者たちは度肝を抜かれたのだ。


 ルーウェンは公爵家の実の子どもではない。その外見色彩こそは血筋上の父親たる存在から継ぎ公爵家に馴染んでいたが、母親は貴族からはほど遠い、王都から遠く離れた小さな町に住む女性だった。

 ルーウェンは実の父親の元でも母親の元でも育てられることにはならなかった理由は、父親母親両方の身分が合わさったことから出来た。



 ――現王ギルバートは元々彼自身の父王の第二子で、ギルバートが王になる前の王は、彼の兄にあたる人であった。

 ゆえにギルバートは幼き頃より将来は兄の補佐になるべくして育ち、兄が王位についてからは、多少は豪快な面が目立ちながらも立派にその役目を果たしていた。


 そのようにしてこの先も兄王を支えていくと思われていたギルバートの人生の転機は、数年の間に二つ起きた。

 最たるものは兄王が不慮の事故に遭い、突然死したことだ。

 キルバートは生まれてからは第二王子として第二位に、兄が王になってからは王弟として、王にはまだ子どもがいなかったために王位第一継承権を保持する立場にあった。

 まさかそれが働く日が来ようとはギルバートが一番思ってもいなかったことだ。だがとにかく王が死んだ以上、ギルバートが王位に就くことになった。

 これが現王の人生の転機の一つ。


 もう一つの人生の転機はその二年前にあった。

 貴族ではない平民の女性に惹かれていたこと。

 ギルバートの入れ込みようは機会を見つけてはその女性の元へと通っており、彼が王族でなければすぐに妻に迎えていただろうというほどだった。身分違い甚だしいことが分かっておりながらも、結婚する方法を模索せずにはいられなかったときがあった。

 王位に就き歳月過ぎた今は見る影もないが、当時の彼はとても『若かった』。

 地位と立場を理解し責務を果たしていたのにも関わらず、そのような面があり、耳に入れられる結婚の話もいなして機会を見つけてはの通いは二年続いた。


 幕切れはギルバートが決めたタイミングではなく、もう一つの転機、兄王が死んだことによる。

 それまで送っていた、王族としての義務を果たしながらも一方でそれなりに自由にしているという生活を続けるわけにはいかなくなり、王位を継ぎ、未だに妻を迎えていなかった彼は国内の高位貴族から妻を迎えることになった。

 最早、貴族の血が入らない女性を妻に迎えられる可能性は――元々も周りからすればあり得なかったろうが――絶えていたことは言うまでもない。

 女性とは縁を切らねばならない。


 けれどもそのとき、一つの問題が生じていた。ギルバートには例の平民の女性との間に子どもができていたのだ。

 その上生まれた子どもは王族の血を引いていると言っているようなものである色彩を見事なまでに継いでいた。結果、選択肢は一つ。ギルバートの方が子どもを引き取り、彼の子として育てる。

 が、ここで反対したのが重臣の面々。

 グリアフル国は長子継承、相続制。そのままその子どもを迎え入れれば、他に子どもはいないために第一子、その子どもがいずれは王位を継ぐことになる。

 一見すれば見事な色彩を受け継いだ容姿からは違和感を持てなくとも、母親の身分の低さは明白。あろうことか王位に庶子が就く未来は避けたいところだったのだ。


 そこで名乗りを上げたのがギルバートの弟、現ハッター公爵たるエドモンドだ。王族として育てるわけにはいかないとされた子どもを自分の子として引き取った。

 彼の容姿も王族の証である色彩であったので、そのまま子どもが成長しても何も知らない者は誰も疑うことはなかった。

 周りはむしろ、何と素晴らしい子息なのかとお世辞なしに公爵とその子どもを称えた。


 成長した子どもは、期待されていなかった魔法の才能を目覚ましいほどに表し、王族の血筋特有の魔法も目覚めた。

 子どもをどうするべきかというときに難しい顔をして、王位につくよりは貴族の地位に就いた方がまだましと苦渋の決断をしたはずの重臣たちにまでも、次期公爵となってもおかしくはないとさえ思われる成長を見せた。


 それがルーウェンである。



 *




「これは一部には常識のことだ。当時を知る者は皆知っている。だが誰も口には出さない、知らない者は知らない。秘密として葬り去られたはずの事実」


 事のあらましが語り終えられた。

 進むにつれて信憑性が増していく話を聞いていたアリアスは、全てを上手くすんなりと受け入れられてはいなかった。そんなに簡単に飲み込める話ではない。

 かといってもはや疑い、一体何を言っているのかという気持ちは出てこない。ジオがこのような話の流れで冗談を言い、このような話題で嘘をつく理由はないのだから。


 なぜルーウェンが公爵家の嫡男であるのにあえて家督と両立できない魔法師になるため、ジオに弟子入りし魔法師になったのか。

 アリアスは詳しく理由を知らない。

 昔、その能力を生かしたいからだと語られた気がする。それで納得した気もする。彼はその理由がしっくりくる優れた魔法の才があった。

 けれどこの世の全ての事には理由がある。

 ゼロも侯爵家の嫡男でありながら家督を放棄している。彼は彼で竜の魂を持ちその力を持つという複雑な身の上に気がつき、家を出た。

 そして、ルーウェンは。


 アリアスがぎこちなく動かした目と顔を向けたのは、ずっと沈黙を守っている人の方。

 話に口を挟む素振り一つ感じさせなかった、話の対象であるはずの人。





 ――嗚呼、この人は知っていたのだ。最近知ったのではなく、ずっとずっと昔から知っていたのだ。

 青空の瞳が今や静かで落ち着いていたから、分かった。



 ルーウェンはたった今話されていたことには触れず、こう言う。


「大丈夫。アリアス、心配しなくていい。大丈夫だよ」


 ルーウェンが示す事は、きっと境目のことだ。

 どうして、この期に及んでそんな風に笑えるのかアリアスには分からなかった。どうして彼自身のことよりもこちらのことを気遣うのかも。

 死んでしまうと、聞こえたのに。

 この人は、自分がその役割を担うべき人材だと一体いつの段階で気がついていたのだろうか。そしてどのように覚悟を決めたというのか。


 アリアスには全く分からなかった。










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