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花咲くとき、騎士は請う  作者: 久浪
『王家の秘密と逃亡者』編
146/246

30 憂い

時間軸的には22話の続き、過去に戻ります。ジオ、アーノルドが王の部屋にて地下の結界魔法での封じの話をしていた続き。




 ***



 囁くように名前が呟かれた後、声は静寂に溶け、消えた。

 代わりに部屋には衣擦れの音一つ、呼吸の音も失せ、完全なる沈黙が生まれた。最後の音を発した王は瞼を伏せ青の目に暗い影を落とし、……やがて息が吸われる音が微かに。


「――魔法が薄れゆき、魔法師の数が減る時代」


 ぽつ、と一言溢すように言った。


「王族の結界魔法もその流れには逆らえず、遺伝の幅は狭まり、遺伝しない子どもさえもいる。……その時代において近年稀に見る結界魔法の優れた使い手、か」

「なぜこの段階で話をしに来たか分かったか」

「これで分からない振りをすれば、私は愚か極まりない」


 椅子のひじ掛けを固く握り、王は瞼を押し開きジオに目を合わせた。


「……ルーウェンがそうであると、そなたたちは言っているのだな」

「そうだ。先ほど俺が言った『第一子が封じてきた可能性が高い』という話は今回明らかにルーがそうであると分かったことを含め考えられた理由に過ぎん。ま、『仕組み』となっているのならば可能性は十分だがな」

「どの段階でそなたは知っていた、ジオ」

「俺に関して言えば初めからだ。結界に問題を感じた際ルーに異変が起き、誰に教えられるでもなく地下の封印の元を探り出した。引き寄せられた、とルーは言っていた。だが、お前達には何の反応も起きていなかった」


 結界が揺れたとジオが感じたとき、ルーウェンに異変が起きた。彼自身の意思とは関係なしに魔法が出てきていたのだ。

 さらには知らなかったはずの地下のまた地下にまで行き、境目の封じの元まで行っていた。まるで、呼ばれたかのように。


「今結界魔法を使える者の中で一番大きな魔法力と技術を持っているであろうルーにだけ。ここまで揃えば分かる」


 ジオの言葉が終わるのを境にまた静けさが生まれたが、長くは続かなかった。


「大きな力は、魂に宿っている」


 静寂に溶け込むような静かな声を出したのは、またもジオ。


「人の魂も巡る。特別な力のある魂が巡ることには意味がある」


 目に宿す暗い感情を隠しきれていない王を見たままに、この世の真理を語るように言葉を連ねたジオは静かに口を閉じた。


 そして今度こそ、部屋内は固く重い空気が満ちるばかりの空間に変化する。誰も何も声も出さず身動き一つしないままただ時が刻まれる。

 視線を下の方へ落としてしまっている王がその瞳に何の変鉄もない絨毯を映しながら何を考えているのか。表面なら未だしも、その深きところは本人にしか知るよしはない。


「…………皮肉なものだな。誰が、こんなことになると予想しただろう」

「予想していたところで何も変わらない。お前が今後悔しようとしなくとも、――お前の元で育てていたとしてもあれの役目と決まっていた。今こうなることは変わらない」

「……だからこそ皮肉だ、私の元で育てていないからこそ。生まれたそのときにはこうなると決まっていたと言うのだろう?」

「ああ」


 だから皮肉なのだ、とまた一度王は呟いた。


「私の子に生まれたのにも関わらず私の元で育てず、しかし生まれた時から、生まれた位置に普通にはない意味を持たされ、役目を定められていた。――これのどこが皮肉ではないのか。私ではなく、王子たちでもなく……」


 地位上滅多に負の感情を示さない顔が歪んだ。


「せめて、命までも捧げなければならないことは避けられないのか」

「今のところは不可避だ」


 非情にさえ思えるほどに少しの躊躇もなく示された、駄目押しの救いのない現実。


「…………よりにもよってあの子に、何と酷な運命を背負わせるのか……」


 王は、確かに悔いていた。今さらどうにもしようがない過去を悔い、そして現在に起こった、こと自分ではない人物に背負わされてしまった運命に悲痛な色を瞳に宿した。


 思うのは、一人、公には自分の子とは認められなかった子、彼が弟に託すことになった子のこと。

 親とは名乗れないながらに、「伯父」という位置になりながらも目覚ましい成長を目にして喜び、そのまま幸せになって欲しいと穏やかに願った彼の子どもの一人のこと。

 その子どもの名を、


「――ルーウェン」


 と言う。

 王が名を呼んだ声は、哀しく、どうしようもなく空気に溶け、消えた。









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