ハイソなお茶会
間違っている。
「まあ、リック。やっとお姫様を見つけられたのね」
嬉しそうに言ったのは、ロデリック殿下の母上――つまりこの国の王妃様だ。
失礼ですが間違っていますよ、王妃様。私はお姫様ではありません。
「ロデリック殿下は、可愛らしいタイプがお好みでしたのね」
私とさほど年の変わらない王太子妃殿下が、コロコロと笑う。
いえ、それも間違っています。『可愛らしい』とは、あなた様のような方を言うんです。
「でもねぇ……」
ため息混じりに言ったのは、ロラン侯爵夫人。王太子妃殿下の母上にして、王妃様が親友と言ってはばからない方。
「ロデリック殿下、何もお部屋付きにしなくても。わたくしがエルフィーネ様の母上なら、泣いてしまいますわ」
部屋付きって、そんなに大変な仕事なのか。でも、こんな綺麗なドレスを支給されるわけだし、お給料も今よりはるかに高額にするって殿下が約束してくれたから頑張る!
「その件についてはバルド伯爵にきちんと説明するつもりです。それに部屋付きといっても、妃がいるわけではないので」
殿下が話を続けている隙に、お茶会応援要員として西庭園に来ていたシャルロッテが、私の皿にお菓子を取り分けてくれた。
あー、持つべきものは友!
ずっと食べたいなーと思いながら手が出せなかったんだよ。夜会より人数は少ないし、身分の高い女性ばっかなんだもん。ガツガツ食べてたら目立ってしまう。
視線に感謝の意をこめる。シャルロッテはウインクを返してくれた。
「そうですわね。エルフィーネ様には申し訳ありませんが、今しばらく我慢していただかなければ」
この方は確か――ミュラー公爵夫人。外務大臣の奥方様だ。
「北の国との縁談は、断るのに難航しておりますの」
縁談? 誰の?
「夫とあちらの国を訪問した折に、第一王女様とお会いする機会がありました。ロデリック殿下は病気がちの方ですと申し上げたのですが、それでもよいと王女様がおっしゃられて。何せあちらは大国ですし、慎重にしなければ外交問題にもなりかねません」
なんだ、ロデリック殿下の縁談か。それと私のお仕事に何の関連性が?
「――それで、エルフィーネ」
王妃様が言った。
「そなたは、部屋付きになってもいいのですね?」
「はい。ご命令とあれば」
「命令ではないのよ。でも、しばらく我慢してくれると嬉しいわ。できるだけ早く事態を収拾して、正式な立場にしてあげますからね」
正式な立場って?
頭の中をハテナマークが延々と行進していた。後で殿下に説明してもらお。
とりあえず、面接は合格らしい。
そして、その日の夜――
ロデリック殿下の私室に私の絶叫が響いた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ?! じゃ、『部屋付き』って、公式の愛妾ってことですか?」
「そうだよ。知らなかった?」
その、うさんくさい笑顔。
私が知らないと分かっていやがったな!
「まあ、落ち着いて。僕は独身だから、エルフィーネが実質的な妃だよ」
道理で奥宮の女官達の態度が丁寧だったはずだ。
「じゃあ、今日のお茶会って、面接じゃなくて……」
「うん。お披露目」
「詐欺です」
「そうだね」
「部屋付きを辞めさせてもらいます」
「それは無理。今すぐは無理だね。国王陛下から辞令をもらってきたから」
はい?
見せられた書類には、確かに国王陛下のサインがっ!
聞けば、『部屋付き』というのは秘書官と侍女を合わせたようなお仕事で、ちゃんとお給料も出るのだそう。地位は妃に準じ、妃代行として公式の場に出ることもある。
「じゃあ、必ずしも殿下の夜のお相手をするわけではないと……」
「本来はね。でも、僕としてはお相手をしてほしいんだけど」
「不埒です」
「夜中に熱が出たりするんだよ。同じ部屋で寝ていてくれると助かるな」
なんだ、看病か。
「そういう事なら仕方ありませんね」
私がそう言うと、ロデリック殿下は嬉しそうに笑った。
初めて見た本当の笑顔だった。




