表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第三王子のお気に入り  作者: 中原 誓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/11

王宮鬼ごっこ

 幻の珍獣王子――もとい、ロデリック殿下は、改めて明るいところでよく見ると、確かに美形だった。整った優しい顔立ちは、色白の肌とプラチナブロンドが相まって、人形のように見える。

 観賞するにはいいだろう。だが、親しくしたいとは思わない。

 やけに愛想のいい笑顔がうさんくさい。

 ここは先手を打って、土下座だろうか?

 だが、私があの夜のゲロリーヌだと気づいていない可能性もある。わずかだが、ある。

 慎重に行動しなければ、自ら墓穴を掘ることになる。

 まずは、初対面のふりをするか。


「悩み事というわけではありませんの。でも、お気遣いありがとうございます――女官室にご用事ですか? 私でよければ承ります」


 殿下は胸の前で腕組みをして、『ふうん』と言った。


「一筋縄ではいかないね」

「ほほほ。何のことでしょう?」

「招待客名簿を調べても、見つからないはずだ。王宮に住んでいたのだから」


 げっ! 王子自ら捜索してたのか。ゲロリンのことは気にしないって言ってたくせに。嘘つき。


「君、今日こそ名前を教えてよ」


 あれ? まだ名前、バレてない?


「ゲ……」

「ゲ?」

「いえ、カロリーヌと――」

「王族を騙せば牢屋行きだ。分かっていないと困るから言うけど、僕はこの国の王子だからね」

「――すみません。言い間違えました。エルフィーネです」

「エルフィーネ、僕はロデリック。もしよかったら、どこかで話せないかな? 二人っきりで」


 もしかしなくても、よくない。どこかで尋問されて消される。秘密裏に。


「あの……まだ仕事中ですので」


 瞬時に逃走経路を数通り考える。


「南宮の女官長に、許可を貰ってあげる。おいで」


 い、行きたくない……


 差し出され手が、ヘビに見える。

 いや、いっそヘビだったら。シッポつかんで、グルグル振り回して、空の彼方に投げればいいだけだもん。


 その時、奇跡のように目の前から王子が消えた。


「フィーネ? そんなところで何をしているの?」


 扉を開けたルイーゼが、不思議そうな顔をして言った。


「後で話す!」


 扉の向こう側から王子が出てくる前に、私は走り出した。


「エルフィーネ! 待って!」


 王子が背後から呼んだが、待てと言われて待つほど間抜けではない。

 ハッハッハッ、足には自信があるんだよ。しかも南宮(ここ)は、私にとっては我が家同然。モヤシっ子の王子など振り切ってみせる。


 が、甘かった。


 相手はモヤシっ子だが、強権の持ち主だった。


「騎士を使うなんてズルだぁっ!」


「その女官を捕まえろ! ケガはさせるな。丁重に扱えと、ロデリック殿下の厳命だ!」


 丁重に扱う相手を追いかけるなよっ!


 うわっ! 前方、横通路からガタイのいい騎士が現れた――くっ、先回りとは、卑怯なり。


「こら、娘! 王宮内を走るな」


 騎士は、手を伸ばして私を止めようとした。


「兄上! その娘を捕まえて! ただし、無傷の方向で!」


 後ろから、珍獣王子が叫んだ。待ち伏せじゃなかったのか。


 兄上? 将軍職の第二王子、ロベルト殿下か!


「リック?」

 ロベルト殿下は怪訝そうな顔をした。

 そうだよね。弟王子と騎士たちに追っかけられてる女官なんて、変だと思うよね。

「その娘なんだ!」

 ロデリック殿下の声が、背後から近づいてくる。

「これが?」


 ロベルト殿下は、その大きな体で私の行く手をふさいだ。


 ふっ……脇が甘いな、脳筋王子。


 私は体を斜めにしてロベルト王子の足元に滑り込んで、捕まえようと伸ばされた手をよけた。


 周囲から感嘆の口笛が鳴る。


 私は低い態勢のまま、左側に方向転換をして再び走り出した。

 階段を駆け上がり、次に下り、最後に駆け込んだのは、今日、財務長官様の会議が行われる予定の部屋だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ