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魔王様の復讐は失敗しました  作者: ぽち
二章 わたしが ゆうしゃと であうまで
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四十九話 まおうさま ものづくりをはじめる

 私がリリアに手渡したのは魔石に魔紋を施したもの。

 つまり、いつぞやドミニクに手渡した魔道具の亜種である。


 ちなみに、魔石の大きさ、純度によって仕込める魔紋の量が変わる。

 強力な魔法であればあるほど、必要な魔紋は多くなるというわけだ。


 ――今回仕込んだのは【火種(ファイア)】。

 最下位の炎魔法である。


 極端な話、魔法の心得があれば誰にでも使える魔術。

 それですらリリアは目を輝かせていた。


 勿論彼女の生い立ちも関係あるのだろうが、それについては触れるべきではないだろう。


 さて、ドミニクに預けた魔道具は、魔力を注がなければ発動しなかった。

 幸いにして彼が()吸血鬼(・・・)だったため、ただメッセージを再生する魔紋だけを仕込めばよかったのだ。


 が、今回は違う。

 リリアは魔力を操れない側のエルフである。『魔力孔』が完全に閉じてしまっている。

 もし彼女にドミニクと同様の魔道具を預けたとしても、ただの小石に過ぎない。


 実はこれ、二千年前から私が解決しようと思っていた問題の一つ。


 魔族は魔法を操れる種族が多かったのだが、それでも少数ながら使えないものも存在した。

 自然と生活水準に差が生まれてしまったのだ。


 格差を取り除こうと魔道具の研究に着手したのだが、残念なことに目立った成果は得られなかった。

 それどころか、元々魔法を使える魔族の立場が強固になるばかり。

 結局そのまま人魔戦争へと突入してしまった。


 そのまま戦死し、二千年後のこの時代。

 ようやく私は解決法を見つけたのだ。


 それが魔封じの腕輪。

 あれには、装着者の魔力を吸い上げる魔紋が刻まれていた。

 『魔力孔』が開かれている、いないに関わらずである。


 本来の意図を大きく外れた使い方だろうが、従来の魔道具に組み込むだけで私の望みは叶った。

 現に今、リリアは【火種(ファイア)】の発動に成功している。


 とりあえず技術は確立したと言っていいだろう。

 上手くやればこの世界での生活水準は大きく向上するに違いない。


 まだまだ普及への問題点は幾つかある。


 まず、魔道具の元である魔石の確保――もしくはそれに代わる素材の発見。

 魔石は、魔族や魔物を殺すことでしか手に入らないのだ。


 リリアの反応を見ればわかるように、この世界の人々は魔石への忌避感が強いようだ。

 今のままでは受け入れられない可能性が高い。――なお、当のリリアは早々に魔法が使える便利さに魅了されてしまったが。


 もし解消されたとしても、下手に伝達されれば、魔石目当てで魔物の乱獲が起きる可能性がある。命が大事というつもりはないが、生態系が悪戯に壊れるのはよろしくない。

 それに、下手をすれば魔族すら狩られる対象になりかねない。 

 どうしても純度の高い魔石とは魔族のものになるのだ。例えば『魔王』だった私の魔石となれば、凄まじいものとなるだろう。


 もう一つは魔紋を描ける存在が私以外にいるのかどうか。

 制作者一人でこの大陸全土に魔道具を行きわたらせるなど、土台無理な話。


 魔封じの腕輪や捕縛の足輪が存在する以上、使い手はいるとは思うのだが、これらが作られてから随分と年月が経っているようだ。

 果たして存命なのだろうか……。


 最悪、なんらかの手段で教育を施す必要がある。

 その手段が思いつかない時点で駄目なのだが。


 まあ、考えても仕方がない。

 今のところは大きな前進を喜びたいところである。


 なんて生還していたら、魔道具の使いすぎて魔力切れになったリリアが泡を吹いて倒れていた。

 魔法が使えるようになって嬉しい気持ちは私にもわかる。

 しかしそれでも言いたい。


 ――子供か!





 今度はティニーたちが魔道具で遊び始めてしまった。一眠りして元気を取り戻したのかリルまでもだ。

 ……船内で火遊びは止めてほしい。

 魔法の選択を誤った予感がひしひしとするな。


 取り上げて書き換えてしまうべきか。

 なんて真剣に悩んでいると台車の音が響いた。

 それに合わせたかのように腹の虫が鳴く。

 ……時間の感覚がおかしくなってきているがまだ昼食を食べてすらいないのだ。


「……」


 無言のまま現れたのはグドン。

 扉を開けると台車を軽々と押しつつ部屋に入ってくる。


 その後ろを幽鬼のようにリゼルグがのそのそとついてきていた。


 奇怪な様子が気にかかるが……。

 まあ、それより先に食事を取ろう。

 どうにも疲れてしまった。


「にしても、随分と量が多いな」


 手渡された皿には野菜が山盛りにされていた。

 これだけあれば私の腹も満たされるだろう。


 どうしたことだろう。

 食料の余裕はないと以前の嘆願は断られたはずである。


 私は二人に訊こうとして、止めた。

 そういえば、つい先ほど『霊竜』と戦ったばかり。

 推測ではあるものの、戦死者が多数で食料が余り気味になったのではないだろうか。


 もしかすると、彼らもそれで傷ついているのかもしれない。

 他の船員とあまり反りが合いそうになかった二人だが、それでも見知った顔がいなくなるのは寂しいのかもしれない。


「リル……父さん、十八番が使えなくなってしまったんだが、これからどうして飯を食っていけばいいんだろうな……」


 何か聞き捨てならない言葉が聞こえたが無視しておこう。

 というか、娘の治療は私が施すのだからもう大金は必要ないだろうが。





 そうして、『霊竜』の襲撃以降、恙なく船はレギオニアへと辿り着いた。

 ……その間、私が船内を練り歩くたび、船員たちが恭しく敬礼し始めたのはどうしたことだろう。

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