四十八話 まおうさま きゅうけいちゅう
【格納】で空間を開けたら『霊竜』が帰ってくるかもしれない――とかなんとか強引にリゼルグを言いくるめることに成功した。
原因はわからないが、現在この世界の次元の壁は崩壊寸前のようだ。
もしかすれば、二千年前よりひどいかもしれない。
願わくば、リゼルグの天恵なんてなくて単なる彼の誇大妄想であってほしい。
だが、それは無理な話だろう。
現に転移魔法が使えてしまったのだから……。
うん、次元魔法は禁術にすべき。
無制限の魔力は惜しいが仕方ない。
とりあえず後始末は他の連中に任せた。
「じ、自由に行動してくれていいわよ……」
どこかゴルトーの声は引き攣っていて、ピトーもだんまりだったが気にしない。
私は船内に一度戻り、リリアたちに報告へ向かうことにする。
「アリシアちゃん!」
「ぐぇ」
扉を開けた途端、ミミーナに突進された。
ラミアの巨体である。押しつぶされそうになり、変な声が出る。
「無事だったのね!」
そのままホールド。
無事だったけどこのまま死ぬかもしれない。
「ミミーナ、落ち着いて……大丈夫だったみたいだね」
ウィンディが宥めることで何とか私は解放された。
……『邪竜』よりラミアが恐ろしい。
「な、なんとか。……死ぬかと思った」
咽ながら言えば、責任を感じてかミミーナはしゅんとした。
うん。
今回ばかりは反省してほしい。
「ぶ、無事でよかった……」
ティニーを安心させるため、私は頭をぽんぽんとしてやる。
背の高さの関係上、少し背伸びした状態でだが。
推測だが、『霊竜』は彼女にとっても縁の深い相手。
その恐怖がよみがえってしまったのだろう。
随分と怯えていて、どちらが年上なのかわからない。
ちなみにリルは眠ってしまっていた。
ティニーに訊いたところ、心配のし過ぎか体調を崩し無理にでも宥め、眠らせたのだという。
確かに、彼女の顔には疲労の色が濃い。
寝苦しそうで顔色もあまりよくなかった。
治癒魔法をかけてやりたいところだが――残念ながら、これから魔力が必要になる可能性を考えると難しい。もしかすれば血の匂いに誘われた魔物が現れるかもしれないし、もっと体調が崩れるときが来るかもしれない。
残りは村を出るときに持っていた小さな魔石が一つだけなのだ。
それが終われば問題なく回復してあげられるのだが……。
あまり治癒魔法に頼りすぎるのは良くないということで自分を納得させる。
「それにしても、その痣はどうしたんだい?」
「……?」
ウィンディの言葉に、私は右手を見た。
――痣が消えていない。
いつもならすぐに消えてしまうはずなのに。
なんとなく擦ってみたが変化なし。
痛みはないが、今までなかったものが常に表示されているのはなんだか気持ち悪い。
「も、もしかしてそれ、聖痕じゃ……」
「……気のせいじゃないかな」
熱っぽい瞳でティニーが見つめてきたので追及を避けた。
何とも嫌な予感がするし。
そういえば、リリアが見当たらない。
いつもなら自分から声をかけてきてもおかしくないのに。
……と、ようやく部屋の隅で蹲っている彼女を発見。
私が近寄ると
「自分が情けなくてしょうがないわ……」
の一言。
意味が分からず問いかけると、渋々と語りだした。
「アリシアが戦ってるのに、あたしは隠れてるだけなんて……魔法が使えたら、一緒に戦えたのかと思うと申し訳なくて……」
顔を皺くちゃにして詫びるのだが――うん、正直足手まといだと思う。
友人の不死者姿は見たくないし。
しかし彼女がそんなに気に病むのなら――
「なら魔法が使えるようにしてみようか」
◆
「なら魔法が使えるようにしてみようか」
目の前の黒髪の少女の言葉に、あたしは耳を疑った。
魔法を使えるように、って……。
そんなことできるわけないじゃない。
だって、あたしには魔力がないんだし。
だから両親に捨てられたというのは、あの子にも語ったはずだ。
質の悪い冗談としか思えなくて、あたしの視線は自然と責めるようなものとなる。
「そう睨まないで欲しい、リリア」
あたしの気持ちを察したのか、アリシアは肩をすくめ苦笑いしていた。
ますます意図が読めない。
「どういう意味なの……?」
「……勘違いされているのだが、この世界の人間は皆生まれつき魔力を持っているんだよ。それをうまく使えないだけ」
アリシアは朗々と告げるのだけど、私にはまるで意味が分からなかった。
隣を見れば、ティニーの顔にも疑問の色が濃い。ミミーナも同じ。
でも、ウィンディだけは興味深げに笑みを浮かべている。
「あんた、わかるの?」
小声で尋ねると
「いやー。あんまりわかんないなぁ」
どこかはぐらかすような口調だった。
だけどそれを追及するほど余裕があるわけじゃない。
「つまり……簡単に言って?」
「まず、実演した方が速いかもしれない。私も、こういう方法があると気づいたのはこの船に乗ってからだったから」
それだけ言うと、彼女は座り込んでポケットから小石ほどの欠片を取り出した。そのまま床へ撒く。
なんとなく摘まんでみたけど、あたしには変哲のない石にしか見えない。
「これ、何?」
「魔石の欠片。ほとんど魔力の残ってない屑石みたいなものだよ」
「ま、魔石!?」
き、汚い!
あたしは驚いて手を離してしまった。
……魔族のミミーナの前ではなんだけど、魔石っていうのは忌むべきもの。
よほどの純度でない限り、不死者の温床でしかない。
昔の『勇者』様もそう仰ったはず。
「そう毛嫌いしないで欲しいな。色々あって砕けてしまったけど、こういう時には使える」
それだけ言うと、彼女は手を翳すと何やら念じ始めた――。
そうして手渡された魔石を恐る恐る触ってみたところ――あたしにも魔法が使えた!
小さな炎を生み出すだけの魔法――【火種】だけだけど、確かにあたしが生み出したのは魔法だった!
アップする直前に二話に分けたのに前の話のタイトル変えるの忘れてました。