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魔王様の復讐は失敗しました  作者: ぽち
二章 わたしが ゆうしゃと であうまで
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四十七話 まおうさま もっとしりたくないしんじつをしる

「……無理だ」


 私の提案は、リゼルグの情けない声に否定されてしまった。

 ならば最上級魔術(エンシェント・スペル)を乱発しろというのか。

 流石に疲れてきたぞ。


 それに、手の甲の痣のこともある。

 恐らくこれは膨大な魔力に反応しているのだと思う。


 今までこの現象が起きたのは、初めてのときを除けば強めの魔法を使った時だけだ。

 軽い魔法では怒らなかった。そして魔力が無くなれば同時に消える。


 この現象がヒトによくあることなのか、それとも私だけなのかはわからないが、あまり愉快なものではない。

 現在も【格納(ストレージ)】に突っ込んでしまっているから見えないが、焼き鏝を当てられたような感覚だけは伝わってくる。


「どうして無理なんだ?」

「言っただろう。俺は魔力の操作が上手くないんだ。……【格納(ストレージ)】に格納できるのは、精々手が触れた物だけ。それに、あそこまで巨大なものを吸い込んだことがない」


 リゼルグの懸念は想定内のこと。

 彼一人に全てやらせようとは思っていない。


「大丈夫だ。お前は天恵(ギフト)で裂け目の位置を教えてくれればいい。後は私がやる」 

「どういうことだ?」

「次元魔法に似たものは昔使ったことがある。だから大丈夫だ」

「昔って……」


 口が滑った。

 このあたりを突っ込まれると面倒くさい。


「まあ任せろ。あ、その代り、小さな裂け目を開いておいてくれ」

「……わかった。任せるぞ」


 おや。

 意外なことにあっさりと了承された。

 もっともめるかと思ったのだが。

 散々実演が効いたのだろうか。


 ちらりと目をやれば、『霊竜』の再生は完遂寸前。【零度(コキュートス)】の氷牢を打ち破りつつあった。


 ――では動き出す前に始めよう。





「首のあたりに一個。左端の管の付け根に三個、だな」


 望遠鏡片手にリゼルグが言う。

 ゴルトーから借り受けたものだ。裂け目は実際の距離以上に見えづらく、なんらかの補正が必要らしい。


 ――って


「ちょっとまて、裂け目とはそんなに多いのか?」


 次元の裂け目とは、綻びのようなものと推測される。

 二つの世界を強引に融合させた影響で、部分部分に弱い個所が出来てしまっているのだと私は思っていた。


「ん。ああ、そこら中にあるな。ここ十年程前からいきなり増え始めて、今じゃ裂け目がない地域の方が珍しいくらいだ」


 リゼルグはきょとんとしていた。

 こいつ、その意味がわかっていないのか?


「おかげで俺の魔法の使い勝手も随分よくなった。それまでは【格納(ストレージ)】で資材を運んでも、裂け目がなくて取り出せないなんてこともあったからな」


 二千年前、次元の壁はボロボロだった。

 だから転移魔法が簡単に発動できたわけで……。


 リゼルグが言うにはこの世界は裂け目だらけらしい。

 それではまるで――


「――いや、終わってから聞く」


 説明しようとするリゼルグを静止。

 あまり時間はなさそうだ。


 私は【魔力視】を行う。

 ……特に効果はない。魔力の流れと裂け目に特に関係はないらしい。


 仕方がないのでリゼルグの言葉だけが頼りのまま、魔力を練り上げていく。

 左手の人差し指で、細く練り上げたそれを糸のようにして進ませた。


「このあたりか?」


 リゼルグにわかりやすいよう、魔力の糸の先端をちかちかと点滅させる。

 こんな大道芸は一度もやったことはなかったが、意外とできてしまうものである。


「少し左、そのあたりだ」


 リゼルグのお墨付きが出たあたりで準備完了。

 “糸”は虚空を突き破り、次元の裂け目を少しずつこじ開けていく。


 あんまり広げすぎても拙そう(・・・)だからな。


「不死なる竜を異界へと放逐せん――【転移(ワープ)】」


 二千年前に使っていた転移魔法。

 それを今ここで最小規模にして発動させる。


 ぱきり。

 まるでガラスが割れる様な音がしたのは幻聴だろうか。


 そして一瞬にして『霊竜』の存在は双星界から消えていた。





「本当に倒しちまいやがった……」

「……」


 感嘆している連中は無視。

 私が【格納(ストレージ)】から右腕を引き抜くと、くっきりとした痣が刻まれていた。

 まあ、いつもどおりすぐに消えるはずだ。


 そうたかをくくって私はリゼルグに話しかけた。


「ところで、裂け目の話なのだが」

「どうかしたか?」

「今はどうなっている……?」


 リゼルグは周囲を探るようなまなざし。

 私も同じようにきょろきょろ。

 随分ひどい有様だ。帆はへし折れ、右舷はべっきべきに砕けている。

 沈没しないのが不思議といっていい。


 これでたどり着けるのか……?


 ……まあ、そのあたりは本職がなんとかするだろう。


「また増えたな。強引に放り込んだ影響かもしれん。ここら一体、裂け目だらけだ」

「やっぱりそうか」


 彼は私の呟きに怪訝な顔をする。

 何が「やっぱり」なのかわからないのだろう。


「リゼルグ、お前はもう二度と次元魔法とやらを使うな」


 私は苦々しい顔でそう命令した。

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