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魔王様の復讐は失敗しました  作者: ぽち
二章 わたしが ゆうしゃと であうまで
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四十六話 まおうさまと じげんまじゅつ

 俺の目の前で行われたのは圧倒的な破壊だった。

 雷撃の前に『霊竜』の巨躯は消し飛び、海面がどす黒い血で染まる。


 大魔術の余波か、嵐は消え去り青い空が広がっていた。


「……何よあれ」


 隣でゴルトーが呆然としていた。

 こいつ、いつの間にこっちに来たんだ。


 ……それは兎も角、気持ちはわかる。

 俺は三十年間生きてきたが、こんな威力の魔法を見たことがない。

 巨大船ほどの大きさの雷撃など、非常識にもほどがあるのだ。


 ヒトで上位魔法を操れるのはほんの一握り。

 魔力に長けたエルフでもそうはいないはずだ。現に俺の師匠は中位魔法までしか使えなかった。

 

 しかし、先ほど見たあれはその領分を超えている。 

 かつて、師匠から聞いたのだが、エルフの国に現れた『英雄』は、たったの一撃で『邪竜』を滅ぼしたという。 

 それと同じことを、(リル)とそう年の変わらない目の前の少女が行ったのか? 


 ――ぎしり。


 何かが軋む音が、俺の思考を遮った。


「り、リゼルグ! あ、あれを見ろ!」


 続けてピトーが指し示す。

 自然と俺たち全員の視界がそちらへと向いた。


 ……そこにいたのは『霊竜』。

 

「そんな……」


 愕然とするゴルトー。

 正直俺も同じ気持ちだ。

 討ち滅ぼされ、消し飛んだはずの『邪竜』が半身を取り戻しつつあった。


「アリシア……どうするんだ?」


 俺は、問いかけてすぐに後悔した。

 少女が浮かべているのは獰猛な笑み。

 まるで獲物を前に舌なめずりをする肉食獣。


 恐らく最大の一撃を放った直後だというのに、全く希望を失った様子がない。

 それどころか黒色の瞳は爛々と輝き、様子を窺っている。

 警戒ではない。

 それはむしろ観察に近い。


 ――ぞくりとした。


 目の前の存在は何だ?

 本当にヒトなのか?


 俺にとっては、再生を続ける『霊竜』より、アリシアの方が恐ろしい存在に思えてならなかった。





「アリシア……どうするんだ?」


 ……ああ。

 少し熱中しすぎていた。


 私はリゼルグの呼びかけでようやく我に返る。

 いや、まさかあの一撃を耐えるとは。


 どうやってこれだけの生命力を持つ魔物を生み出したのか。

 私は創造主と語り合いたい気分だ。

 もし自然発生したのだとすれば、生命の神秘に感嘆する他ない。


「どうするとは? 『霊竜』についてか?」

「……それ以外に何がある」


 まあそれもそうか。

 だから呆れたような顔を止めろ、リゼルグ。


 驚異的なスピードで再生する『霊竜』だが、その間は行動できないようだ。

 ふむ。

 ならば


「リゼルグ、【格納(ストレージ)】に私の腕だけを入れるということは出来るか?」

「できなくはないが……どういうことだ?」


 そういえば彼は私の体質について知らないのか。

 だが一々説明するのも面倒なので


「とりあえずやってくれ」


 と強引に押し通す。

 リゼルグの詠唱と共に私の右腕が虚空に消えた。

 視認は出来ないが感覚だけはそこにある奇妙な感覚がこそばゆい。

 【魔力操作】を行い向こう(・・・)に存在する無尽蔵な魔力を吸い続ける。


「ならまずは二連発でいってみるか」


 ――私はそれだけ呟くと、一気に魔力を練り上げ、『霊竜』へとぶつけてみた。

 炎魔法【獄炎インフェルノ】と水魔法【零度(コキュートス)】。どちらも最上級魔術エンシェント・スペルの一つである。


 これで決着がつけばいいのだが。

 




 結論。

 とりあえず私の習得している最上級魔術エンシェント・スペルをすべてぶち込んでみたのだが、依然『霊竜』は再生し続けていた。


 最初は中々爽快で面白かったのだが、現在は流石に飽きてきたので水魔法【零度コキュートス】で氷漬けにしている。

 それでも再生能力は止まらず、氷を突き破ろうと活動し続けるのだから辟易する他ない。

 死ななければ負けない。

 そんな思想が見え隠れするようでちょっと興味は惹かれるのだが。

 まあ、ともかく。


 ――如何にして不死を殺すか。


 哲学的でいい議題じゃないか。


「まず、やつを分析することから始めよう。ゴルトーたちもそれでいいか?」

「え、ええ。お願いね」


 【零度(コキュートス)】を上書きしつつ聞いてみればあっさりと了承された。

 ピトーあたり、駄々をこねるかと思ったが、意外と状況を理解しているらしい。


 さて、何度も倒すことである程度『霊竜』の生態が見えた。

 やつの吐く瘴気とは、先兵を生み出す道具でもあり再生装置でもあるらしい。

 理屈はわからないが、破壊された肉体が再び瘴気に変換されていたのを見たので、完全な永久機関だと思われる。


 恐らくお父さんも十年ほど前に戦ったとき、同じことが起きたのだろう。

 ただしその際は『霊竜』は敵わないと判断して身を潜めたようだが。


 さて。

 大まかな指針は二つある。


 一つはこのまま最上級魔術(エンシェント・スペル)を乱発して塵も残らなくなるまで試す。

 このまま【格納(ストレージ)】空間から魔力供給を行えば、魔力切れの心配はない。

 ごり押しの中のごり押し。

 あまり頭のいい策ではないだろう。


 もう一つは――可能かどうか、本人聞いてみよう。


「リゼルグ、【格納(ストレージ)】について説明してほしい」

「何故こんなときに?」

「四の五の言っている状況ではないはずだ。リルを死なせたくないだろう?」


 私が睨み付けながら言えば、渋々彼は語り始めた。


「俺が使える――あの魔法は【格納(ストレージ)】、【近道(ショートカット)】の二つだ。次元魔法、そう呼んでいる」





 リゼルグの話を要約しておこう。


 次元魔法と名付けたのは彼の師匠だとか。

 エルフの著名な魔法学者だとか。


「体系づけられているのなら私にも使えるか?」


 と聞いたところ


「無理だ」


 即答されてしまった。

 この切羽詰まった状況で嘘をつくとも思えないので、非常に残念なことである。


 さて、その開発の経緯なのだが、恐ろしく単純だった。 


 若かりし頃のリゼルグ少年は、あまり魔術の才に恵まれた子ではなかったらしい。

 教えを乞うているのに結果を出せない日々。

 次第に弟弟子にすら追い抜かれ、どんどん彼の立つ瀬はなくなっていった。


 ――余談だがこのころグドンと出会ったとか。

 その際、グドンは目頭を押さえていたが、こいつもこいつで関係ない思い出話を始めるあたり意外と肝が据わっている。


 リゼルグには幼いころから、視界に奇妙なものが映る病気があったという。

 ある日、苛立った彼は、目の前に映るもやもやに向け力いっぱい魔力を放った。

 

 なんでそんなことをしたのか気にかかるが、まあ若気の至りなのだろう。

 結果、もやもやから穴が生まれ、【格納(ストレージ)】などでつながる空間が生まれたのだとか。


 それから彼は必死で過去の文献を漁り、空間を制御する術を見つけ出した。

 そうして編み出されたのが上記の二つの魔法である。


「もやもやしたものは、次元の裂け目らしい。それが見えるのは俺だけだ。だからこの魔法は俺にしか使えない」


 つまり、彼の目に映っていたのは病気などではなく天恵(ギフト)だったようだ。

 その才を活かし、今では立派な誘拐犯の仲間入りをしたというわけだ。


 次元魔法は裂け目が近くに存在しなければ使えない。

 リゼルグはそうも言っていた。


 どうやら、次元魔法とは、二千年前の転移魔法と殆ど同じと思われる。

 次元の壁の弱い部分を的確に貫くことで、リゼルグ限定で使用できる改良型のようなもの。





 では情報の開示もしてもらったところで本題へ移ろう。


「裂け目とやらは『霊竜』の近くにもあるのか?」

「ああ。……まさか」


 リゼルグの顔が驚愕に彩られるのを見て私は笑った。


「不死身だというのなら、次元の向こう側で永遠に暮らしてもらおう」

 壁ドンならぬ次元ドンした結果生み出された次元魔法。

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