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魔王様の復讐は失敗しました  作者: ぽち
二章 わたしが ゆうしゃと であうまで
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四十三話 まおうさま せきにんをとる

 リゼルグとの協定交渉(脅迫)の翌朝のことだった。


「そろそろ来るよ」


 ウィンディがそう呟くと、船が大きく揺れだした。

 ……これが嵐というものなのだろうか。


 随分と揺れる。

 めきりめきりと上層の方から木が拉げる音がして、直後に振動が私たちを襲った。


「こ、これ沈むんじゃ……」


 ティニーが震えている。

 無理もないだろう。明らかな暴力がこの船を襲っていた。


「大丈夫……よね?」


 リリアも不安げ。ミミーナに至っては、蜷局を巻いて縮こまってしまっている。

 本人いわく、海というより塩水が苦手なのだとか。


 現在のセイレーン号は、水面の木の葉のようなもので、ただ荒れ狂う大波にもてあそばれるだけ。いつ沈んでもおかしくない。

 流石の私もそんな錯覚に見舞われる。


「ウィンディ。これが嵐なのか?」

「いや……多分違うね」


 詳しそうなウィンディに近づいてみたところ、きっぱりと否定されてしまった。

 天恵(ギフト)はどうしたんだ。


「どちらかといえば、それに加えての攻撃が原因だと思う」

「なるほど」


 言われてみれば海にも魔物がいるのは当然のこと。

 今までは接敵しなかったのか、船員たちが対処していたのか。現実的に考えれば後者だな。


 さて、嵐を起こせる規模の魔物となれば、クラーケンとリヴァイアサンぐらいしか思い浮かばない。

 クラスとしてはどちらも上の上。

 まあこの船ぐらいならあっさりと木端微塵に出来るはず。


 他には魔族区分であるが嵐竜(ストームドラゴン)

 若いドラゴンは調子に乗って暴れがちである。力試しがてら、船や城といった巨大な建造物を狙うのだ。恐らく親の教育がなっていないのだろう。


 もしそうであれば、レミングたちのパーティでも厳しいか。

 陸地で同等。足場の悪い船上であれば十中八九全滅だ。


 流石に沈めば私もろともリリアやリルたちも死ぬ。

 仕方ない。魔力は節約したいが助けに行くか――


 と私が重い腰を上げたところ


「――お前たち、早く逃げろ!」


 リルを抱えたグドンとリゼルグが飛び込んできた。





「なんだ、リゼルグか。昨日の話、考えてくれたか?」

「それどころじゃない! この船はそう遠くない未来に沈む。こんな下層にいたら死ぬぞ!?」

「随分と大慌てな様子だが、どうやって逃げろというんだ」


 ここは大海原。

 残念ながら私たちに羽はなく、泳ぎ切るだけの力もない。

 全員を【格納(ストレージ)】に入れて飛翔魔法で陸地を目指すという選択肢もあるが


「俺にそんな長距離を飛ぶ魔力はない」


 だそうである。

 私も少し厳しい。

 そもそも方角がどちらかわからないのも痛い。


「逃げろというが、策はあるのか?」

「お前の言ったのと似ている。【格納(ストレージ)】にリルやお前たちを入れて飛翔魔法で敵から逃れ漂流する――十中八九死ぬが、奇跡が起きれば生き残る。こんな下層で溺死するよりは数段ましだろう」

「うーむ……」


 正直、生存率は大差ないと思うが。

 まあ、否定はしないでおこう。


「【格納(ストレージ)】と似たような魔法はないのか? 例えば転移するものとか」

「あるにはあるが、短距離しか無理だ。精々、百メルが精一杯で多用は出来ない」

「ゴルトーたちは?」

「あいつらは頭に血が上ってやがる。戦うつもりらしいが、勝てるわけがない。相手は『邪竜』の一角だぞ……」


 ふむ。

 血気盛んなのを止める必要はない。それに、実際私も一番正しい選択肢だと思う。

 にしても


「『邪竜』? 十年以上前に滅んだんじゃなかったのか?」


 それともリリアたちから聞いた情報が間違っていたのか。


「俺もわからん。だが、間違いなくあれはそうだった。一度だけ見たことがあるからな。『霊竜』……知っているだろう?」


 以前ティニーの話に出てきた記憶がある。

 瘴気により不死者(アンデッド)を生み出す『邪竜』だったか。

 お父さんが倒したはず、らしい。


不死者(アンデッド)創造者(クリエイター)不死者(アンデッド)になって帰ってきたということか。ふざけた話だ」


 ――状況はあまりよろしくなさそうだ。


 目的がある以上、みすみすと殺されるわけにはいかない。

 ならば一番生き残る確率が高い選択肢を取るべきだろう。


「仕方ない。私が行く」

「馬鹿かお前は? 勝てるわけがないだろう。例えお前の父親が――」

「なんだ、知っているのか」


 急いで私はリゼルグの言葉を遮った。

 ティニーに知られたら厄介だし。


 ふむ。

 言われてみればそのあたりも関わってくるか。


「それもあるな。お父さんの仕留めきれなかった相手なら、責任を取らなければ」

「親はどんな教育をしてきたんだ……」


 ――お母さんは、身内の不始末は連帯責任と教えてくれた。

 なら、私が片づけるのが道理である。


「言っておくがリゼルグ、お前の策は成り立たない。捕縛の足輪がある以上、私たちはこの船から出られない。漂流するにしても――特にリルには――体力がない。助けを待つ相手に死ぬだろう。つまり、打ち破るしかないんだ」


 まあ、一部誇張が入っている。

 足輪なんて壊してしまえばいいわけだし。


 だがリゼルグには効果的だった。

 彼は私を連れて行かねば娘の薬は手に入らないし、その過程でリルが死ねば本末転倒である。


「本気で勝てると思ってるのか……?」


 信じられない。

 そんな心情が丸わかりで間抜けな面をするリゼルグに


「安心しろ。塵も残さない」


 私は不敵な笑みで応えてやった。





「これは酷い」


 看板に出た私が見た光景は中々凄惨だった。

 夥しく流れた血が、赤一色に染め上げている。

 それ自体はどうでもいいが、戦況がよろしくない。


「くそがッ! 楯突くんじゃないわよ!」


 甲高い罵声が響く。

 恐らく指揮をするゴルトーのものだろう。

 てっきり私は船員たちが『霊竜』と戦っているのかと思っていたが、それ以前の問題だった。


 船員と戦っているのも船員――のなれの果て。

 不死者(アンデッド)と化したかつての同胞同士で殺し合っているのである。


 噎せ返るような死臭を前に、私はため息をつくと


「こうも数が多いと気が滅入るな……」


 とだけ呟いた。

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