四十二話 まおうさま さいどこうしょうす
1/11改稿しました。
活動報告にて。
私は四人を引き連れてリルの部屋へと向かった。
彼女一人が過ごすには部屋は大き目。少女が五人ぐらいなら十分に入れるはずだ。
「まずは私だけが入って挨拶をしてくる。いきなり大人数で行くと驚かせてしまうかもしれないから」
適当に嘘をつき、私だけが入室する。
「アリシアちゃん。来てくれたんだ!」
「ああ。今回は友達を連れてきた。これで寂しくないだろう?」
「うん!」
……また、おままごとをさせられては敵わないからな。
あの遊びは中々辛いものがある。
「体調は?」
「さっき魔法で助けてくれたから、平気だよ。お昼ご飯も頑張って食べたの」
「そうか。だが、私が魔法を使えることは内密に。出来るか?」
「うん!」
良い返事だった。
顔色も良い。
もしかしたら他者と触れ合うことが、彼女になんらかの好影響を与えているのかもしれない。
「なら四人を呼んでくるから待っていてくれ」
そうして、会合が始まった。
◆
一言でいえば、この集まりは成功だったと言っていい。
リリアは年下に対する面倒見がいいし、ミミーナも同様。
「リルちゃんはお父さんと二人暮らしなのね?」
「うん。いつもはお留守番なんだ!」
「へぇ、お父さんって誰なのかしら」
ティニーは基本的に気弱なものの、意外と年下相手だと積極的なようだ。
確かに、今思えば初対面のときは彼女の方から話しかけてきた。
「おままごとやろ!」
「な、なら私がお父さん役をやるね?」
意外なことにウィンディは及び腰。
何故かびくびくとして会話に参加しない。いつものティニーと立場が逆だな。
「なに、アリシア?」
「いや、ウィンディが壁の華というのは珍しいと思って」
「う……」
どうやら痛いところを疲れたようで、彼女は言葉に詰まる。
「……僕は、子供は苦手なんだよね」
「? その割に私相手には普通に接しているじゃないか」
「アリシアは特別だよ。君みたいな子供がうじゃうじゃしてたら世界は破滅するって」
喜んでいいのやら、怒るべきなのやら。
「ならどうしてついてきたんだ?」
別に咎めているわけではない。
純粋な疑問。
「……まあ、いいでしょ?」
「それは、『亜人』とやらが関係あるのか?」
ゴルトーの言っていた単語を思い出した。
そういえば、ウィンディはこの場で唯一のヒトだ。リルがドワーフのハーフというのが関係あるのかもしれない。
「――誰からその言葉を?」
「ゴルトー。ここの元締めだ」
ウィンディは顔をしかめる。
そして憎々しげに言う。
「そんな言葉は使わない方がいいよ。とても差別的で、冒涜的なものだから。未だに使っているのは、筋金入りのヒトだけだね」
「アリシアちゃーん? 来ないのー?」
「さ、彼女が呼んでる。体が弱いんでしょ? あんまり大声を出させちゃいけないよ」
「あ、ああ……」
上手いこと話をはぐらかされてしまった。
とはいえ無理に聞き出すわけにもいかないし、その必要も感じない。随分よろしくない言葉のようだから。
私がリルの元へ向かうと――
「アリシアちゃん、魔王やって!」
「や、やっぱりアリシアさんもおままごとしたりするんですね」
「……意外だわ」
生暖かい視線と
「ま、『魔王』って……アリシア、あんたそういう趣味だったのね!」
敵意というよくわからない組み合わせが向いていた。
◆
彼女たちにはリルの病気について伝えてある。
そのため、身体に負担がかかる前に退散しようという話になった。
リルは名残惜しそうにしていたが仕方がない。
治癒魔法で体力の回復が行えるとはいえ、乱用は却って体に負担を招くのだ。
「帰っちゃうの?」
「すまない。リゼルグによろしく」
「うん……」
私としては忍びないし、仲良くなった他の三人は尚更だろう。
ウィンディは最後まで関わろうとはしなかったが。
「……リゼルグって?」
聞き覚えのない人名に食いついたのはリリアだった。
「後で話すよ」
もし彼女たちが彼に悪感情を抱いていれば、面倒なことになる。
娘の前で悪口というのもあれだし。
そして、私たちはリルの部屋を後にした。
◆
部屋に戻れば夕食である。
リルの部屋を出たのが少し遅かったようで、部屋にはリゼルグとグドンがすでにいた。
「お前たち、どこに行っていた?」
「少し野暮用。ゴルトーから外出許可は貰っているぞ?」
「それは知っている。だが、時間までには戻るようにしろ」
了解とばかりに手をひらひらさせれば、彼は鼻を鳴らし、配膳を始めた。
「リリア、彼がリゼルグだ」
「……え?」
リリアがからりとスプーンを落としそうになったのを、寸でのところでキャッチ。
下に落としたのをまたつかうのはあまり良くないらしいからな。
「じゃあ、あれがリルの父親なの!? 全然似てないじゃない!」
「声が高い。母親がドワーフらしいから、その関係だろう」
今日のメニューは野菜などを適当に煮込んだもの。
うむ、相変わらず不味い。
魚は捕れなかったらしい。
ウィンディ曰く、明日には嵐が訪れるためだとか……。
◆
食後、リゼルグが台車を押して出て行ったところを追いかける。
「ちょっと待ってくれ」
「……なんだ?」
明らかに不機嫌そう。
恐らく彼は、少しでも冷めないうちにリルの元へと届けてやりたいのだろう。
グドンだけでも先に行くよう告げ、台車を預けた。
「リルのところへ行くんだろう?」
「……何故、娘のことを知っている?」
「友達になった」
「冗談か?」
何やら怪訝な顔だった。
ふむ、そんなに私は冗談が上手いように見えるだろうか。
「残念ながら本当だ。私を売れば薬が手に入る。これでいいか?」
「そこまで知っていて何故としか言いようがない」
呆れた様な物言いに、苦笑するしかない。
まあ、普通は恨みこそはすれど、友好を結ぼうとは思わないものか。
「理由は簡単。私に恨む理由がないからだな」
「話が見えんな」
「リゼルグ、協定を結ばないか?」
今一瞬だけピクリと彼の頬が動いた。
目の色が変わり、魔力が渦巻くのが見える。――【魔力感知】は起動済み。
「端的にいおう。私があの子を助けてやる。道中の回復もしてやろう。その代り、お前は【格納】について教えてくれ」
「馬鹿か? 魔封じの腕輪はどうした?」
理解できないとばかりに頭を掻きむしるリゼルグ。
……もはやばれても問題がないし、言ってしまうか。
「あれは中々いいものだった。だがもう機能していない。薄々感づいてただろう?」
「証拠がどこにある……」
「リルにでも聞いてみたらどうだ? 昨日の発作のとき、助けてやったばかりだしな。それか、今その皿を温めなおしてやろうか。【荷電】」
台車に残っていた一皿から湯気が立ち込めれば、ようやく彼も認識し始めたようだ。
「――俺がゴルトーに報告するとは思わないのか?」
「別にしてもいいが……まあ、その場合は覚悟してほしい」
それだけ言って、威圧するように魔封じの腕輪から魔力を解放した。
あまり無駄遣いはしたくないのも事実だが、これが一番手っ取り早い。
リゼルグが息をのむのがわかる。
結局、彼は絞り出すように一日だけ待ってくれといい、この場は収まった。