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魔王様の復讐は失敗しました  作者: ぽち
二章 わたしが ゆうしゃと であうまで
51/60

四十二話 まおうさま さいどこうしょうす

 1/11改稿しました。

 活動報告にて。

 私は四人を引き連れてリルの部屋へと向かった。

 彼女一人が過ごすには部屋は大き目。少女が五人ぐらいなら十分に入れるはずだ。


「まずは私だけが入って挨拶をしてくる。いきなり大人数で行くと驚かせてしまうかもしれないから」


 適当に嘘をつき、私だけが入室する。


「アリシアちゃん。来てくれたんだ!」

「ああ。今回は友達を連れてきた。これで寂しくないだろう?」

「うん!」


 ……また、おままごとをさせられては敵わないからな。

 あの遊びは中々辛いものがある。


「体調は?」

「さっき魔法で助けてくれたから、平気だよ。お昼ご飯も頑張って食べたの」

「そうか。だが、私が魔法を使えることは内密に。出来るか?」

「うん!」


 良い返事だった。 

 顔色も良い。

 もしかしたら他者と触れ合うことが、彼女になんらかの好影響を与えているのかもしれない。


「なら四人を呼んでくるから待っていてくれ」


 そうして、会合が始まった。





 一言でいえば、この集まりは成功だったと言っていい。

 リリアは年下に対する面倒見がいいし、ミミーナも同様。


「リルちゃんはお父さんと二人暮らしなのね?」

「うん。いつもはお留守番なんだ!」

「へぇ、お父さんって誰なのかしら」


 ティニーは基本的に気弱なものの、意外と年下相手だと積極的なようだ。

 確かに、今思えば初対面のときは彼女の方から話しかけてきた。


「おままごとやろ!」

「な、なら私がお父さん役をやるね?」


 意外なことにウィンディは及び腰。

 何故かびくびくとして会話に参加しない。いつものティニーと立場が逆だな。


「なに、アリシア?」

「いや、ウィンディが壁の華というのは珍しいと思って」

「う……」


 どうやら痛いところを疲れたようで、彼女は言葉に詰まる。


「……僕は、子供は苦手なんだよね」

「? その割に私相手には普通に接しているじゃないか」

「アリシアは特別だよ。君みたいな子供がうじゃうじゃしてたら世界は破滅するって」


 喜んでいいのやら、怒るべきなのやら。


「ならどうしてついてきたんだ?」


 別に咎めているわけではない。

 純粋な疑問。


「……まあ、いいでしょ?」

「それは、『亜人』とやらが関係あるのか?」


 ゴルトーの言っていた単語を思い出した。

 そういえば、ウィンディはこの場で唯一のヒトだ。リルがドワーフのハーフというのが関係あるのかもしれない。


「――誰からその言葉を?」

「ゴルトー。ここの元締めだ」


 ウィンディは顔をしかめる。

 そして憎々しげに言う。


「そんな言葉は使わない方がいいよ。とても差別的で、冒涜的なものだから。未だに使っているのは、筋金入りのヒトだけだね」

「アリシアちゃーん? 来ないのー?」

「さ、彼女が呼んでる。体が弱いんでしょ? あんまり大声を出させちゃいけないよ」

「あ、ああ……」


 上手いこと話をはぐらかされてしまった。

 とはいえ無理に聞き出すわけにもいかないし、その必要も感じない。随分よろしくない言葉のようだから。


 私がリルの元へ向かうと――


「アリシアちゃん、魔王やって!」

「や、やっぱりアリシアさんもおままごとしたりするんですね」

「……意外だわ」


 生暖かい視線と


「ま、『魔王』って……アリシア、あんたそういう趣味だったのね!」


 敵意というよくわからない組み合わせが向いていた。





 彼女たちにはリルの病気について伝えてある。

 そのため、身体に負担がかかる前に退散しようという話になった。

 リルは名残惜しそうにしていたが仕方がない。

 治癒魔法で体力の回復が行えるとはいえ、乱用は却って体に負担を招くのだ。


「帰っちゃうの?」

「すまない。リゼルグによろしく」

「うん……」


 私としては忍びないし、仲良くなった他の三人は尚更だろう。

 ウィンディは最後まで関わろうとはしなかったが。


「……リゼルグって?」


 聞き覚えのない人名に食いついたのはリリアだった。


「後で話すよ」


 もし彼女たちが彼に悪感情を抱いていれば、面倒なことになる。

 娘の前で悪口というのもあれだし。


 そして、私たちはリルの部屋を後にした。





 部屋に戻れば夕食である。

 リルの部屋を出たのが少し遅かったようで、部屋にはリゼルグとグドンがすでにいた。


「お前たち、どこに行っていた?」

「少し野暮用。ゴルトーから外出許可は貰っているぞ?」

「それは知っている。だが、時間までには戻るようにしろ」


 了解とばかりに手をひらひらさせれば、彼は鼻を鳴らし、配膳を始めた。


「リリア、彼がリゼルグだ」

「……え?」


 リリアがからりとスプーンを落としそうになったのを、寸でのところでキャッチ。

 下に落としたのをまたつかうのはあまり良くないらしいからな。


「じゃあ、あれ(・・)がリルの父親なの!? 全然似てないじゃない!」

「声が高い。母親がドワーフらしいから、その関係だろう」


 今日のメニューは野菜などを適当に煮込んだもの。

 うむ、相変わらず不味い。

 魚は捕れなかったらしい。

 ウィンディ曰く、明日には()が訪れるためだとか……。





 食後、リゼルグが台車を押して出て行ったところを追いかける。


「ちょっと待ってくれ」

「……なんだ?」


 明らかに不機嫌そう。

 恐らく彼は、少しでも冷めないうちにリルの元へと届けてやりたいのだろう。

 グドンだけでも先に行くよう告げ、台車を預けた。


「リルのところへ行くんだろう?」

「……何故、娘のことを知っている?」

「友達になった」

「冗談か?」


 何やら怪訝な顔だった。

 ふむ、そんなに私は冗談が上手いように見えるだろうか。


「残念ながら本当だ。私を売れば薬が手に入る。これでいいか?」

「そこまで知っていて何故としか言いようがない」


 呆れた様な物言いに、苦笑するしかない。

 まあ、普通は恨みこそはすれど、友好を結ぼうとは思わないものか。


「理由は簡単。私に恨む理由がないからだな」

「話が見えんな」

「リゼルグ、協定を結ばないか?」


 今一瞬だけピクリと彼の頬が動いた。

 目の色が変わり、魔力が渦巻くのが見える。――【魔力感知】は起動済み。


「端的にいおう。私があの子を助けてやる。道中の回復もしてやろう。その代り、お前は【格納(ストレージ)】について教えてくれ」

「馬鹿か? 魔封じの腕輪はどうした?」


 理解できないとばかりに頭を掻きむしるリゼルグ。

 ……もはやばれても問題がないし、言ってしまうか。


「あれは中々いいものだった。だがもう機能していない。薄々感づいてただろう?」

「証拠がどこにある……」

「リルにでも聞いてみたらどうだ? 昨日の発作のとき、助けてやったばかりだしな。それか、今その皿を温めなおしてやろうか。【荷電(レンジ)】」


 台車に残っていた一皿から湯気が立ち込めれば、ようやく彼も認識し始めたようだ。


「――俺がゴルトーに報告するとは思わないのか?」

「別にしてもいいが……まあ、その場合は覚悟してほしい」


 それだけ言って、威圧するように魔封じの腕輪から魔力を解放した。

 あまり無駄遣いはしたくないのも事実だが、これが一番手っ取り早い。

 リゼルグが息をのむのがわかる。


 結局、彼は絞り出すように一日だけ待ってくれといい、この場は収まった。 

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