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魔王様の復讐は失敗しました  作者: ぽち
二章 わたしが ゆうしゃと であうまで
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四十一話 まおうさま とうめんのもくひょうを たてる

 リゼルグは王都でもそこそこ名の知れた魔術師だったらしい。

 ――特殊な魔法を使えるのだから当然だろう。

 【格納(ストレージ)】を使い、『邪竜』に襲われた町へ物資を運ぶことで生計を立てていたようだ。


 そんな彼だが、仕事の途中でドワーフの女性と出会う。

 とても運命的な出会いで、二人は瞬く間に恋に墜ちたとか。そして二人は反対を押し切り結ばれた。


 だが、二人の行き先は前途多難だった。

 彼女は生命力の強いドワーフには珍しく、病弱な女性だったという。


 リゼルグも“名の知れた”レベルでしかなく、十分な蓄えがあったわけではない。

 だが、二人は慎ましくも幸せに暮らしていた。


 ある日、リゼルグは妻が身籠ったことを知る。

 本来なら喜ぶべきそれは、一種の死刑宣告でもあった。


 治癒術師は告げた。

 恐らく、子を産めば彼女の命はないだろう。万に一つ無事でも、母体の体力を考えれば長くはもたない可能性の方が高い……と。

 

 彼は思い悩み、苦しんだ。

 我が子を諦め妻と暮らすか。死のリスクを背負っても新たな命を迎えるか。


 結論を下せないリゼルグに妻は言った。

 元より、二種族には寿命差があり、死に別れる運命なのだ。今回は、その順番が入れ替わっただけ。どうか次代に続けるためにも産ませてほしいと。


 そして生まれたのがリルである。

 赤子の産声を聞いて間もなく妻は逝った。


 しかし、不幸はこれで終わりではない。

 リルはヒトの血が濃く出たものの、母同様に病弱だったのだ。

 生来病魔に蝕まれ、咳き込み続ける日々。十まで生きられれば幸運だという。


 リゼルグは、少しでも延命のために何度も治癒術師の元へと通った。

 当然、費用が嵩み困窮していく。


 周囲に金の無心をすることもできず、リゼルグは伝手を頼り非合法な仕事へ手を染めていく――。





 これがリルから聞いた、リゼルグについての話。

 もちろん幼子が詳細を知るわけがないので、断片的な情報を照らし合わせたものである。

 細部は異なっているかもしれないが、大差はないだろう。


「いつもは家でお留守番なんだけど、今回は一緒に旅していいって言われたの」

「今回だけ?」


 リルの言葉に、私は訊き返す。

 船旅など、彼女には厳しいものがあるだろうに。


「お仕事のお礼として、お薬が貰えたからだって。お留守番は――お世話してくれる人がいるけど――寂しいから良かったぁ」

「ふむ……」


 大体事情はわかった。

 私の誘拐がそれなのだろう。リゼルグなりにやむを得ない理由があったわけだ。


 不謹慎だが、これは私にとって僥倖である。

 裏を返せば、リルさえ治療してしまえば彼が仕事を続ける必要もなくなるということ。

 もちろん、彼女の病名がわからなければ私には手が打てないが。


「アリシアちゃん、本当にありがとう」

「あ、うん」

「お父さんが言ってたの。女の子を連れてくれば私が助かるって。こういうことだったんだね。お友達も出来たし、いいこと尽くめだよ!」


 ……勘違いされているようだが、まあいいか。

 それを現実にしてしまえばよいのだから。

 そうすれば、リゼルグも自分から魔術の秘密を教えたがるだろう。


 さて。

 どうやらそろそろ昼食の時間のようだ。

 お腹が訴えてきたのでわかる。


 このままリゼルグと鉢合わせしても面倒。

 私はリルに断ると、彼女の部屋を後にした。


 当然、私が治癒魔法を使ったことを誰にも言わないよう言い含めてだが。





「えらく長い間出てたじゃない」


 私が部屋に戻るとリリアが声をかけてきた。

 何かと彼女は私を気にかけてくれている気がするな。


「その顔、何か収穫があったってこと?」

「そうだな。中々有意義だったよ」

「へえ……?」


 どうやら彼女の興味を惹いたようである。

 そうだな。私一人だけでは遊び相手として不適当だろう。

 彼女たちにもリルに会ってもらうべきかもしれない。


 なんて考えていると、いつものようにリゼルグとグドンが台車を運んできた。





 昼食を終えた私は、再び船長室へと向かう。

 リリアたちの分も行動の許可をもらうためだ。

 流石に二度も通れば道も覚える。今度は一人でたどり着くことが出来た。


「へえ……、他の連中の分も許可が欲しいの?」

「ああ。私に出したんだから、問題ないだろう?」

「問題はないわよ。でも、理由が訊きたいわね」


 肯定的なようだが、ゴルトーの疑問はもっともである。

 彼からすれば、造反の可能性を考慮する必要がある。


「リルという少女を知っているだろう?」

「ああ――アレ(・・)ね」


 ……口ぶりには、どこか刺々しいものを感じた。

 彼とリゼルグは友人だと思っていたが……。


「彼女とリリアたちを会わせたい。一人では退屈だろうし」

「ふぅん。まあ、いいわよ。亜人と亜人同士、気が合うでしょうしね」


 随分と含みのある物言いだった。

 亜人――意味は分からないが、侮蔑的な意味合いが強そうだ。


 ――レギオニアは四種族が暮らす国ではないのか?


 疑問を覚えつつも、私は納得する。

 ゴルトーはどうやらヒト以外の種族を専門に扱う人買いのようだ。


 であれば差別的な意識が強くても当たり前だろう。

 あくまでも普段の対応は商品に対するものなのだ。


 内心もやもやとしたものを感じたが、私は船長室を後にした。

 1/11 改稿を行いました。内容は活動報告にて。

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